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13-3 田舎娘、ひょんなことから皇族の晩餐に招かれる - はじめまして田舎者です -

 どう伝えたら、カチュアを面倒なく宮殿に連れ込めるだろうかと、色々と方策を考えた。

 ゲオルグ皇子、アトミナ皇女。この二つのワードは出すべきではないだろう。


 片方が武人、もう片方は美姫として、既に二人は帝国の権威そのものとなってしまっている。

 ゲオルグが会いたいと言っていると伝えても、カチュアは畏まってしまうだけだろう。


 そこで俺は、俺の部屋に来ないかと誘うことにした。

 既に俺とカチュアは同じ仕事、同じ酒場飯を分け合った仲だ。友だちを家に招待するようなものだろう。


「どうした。熱でもあるのか?」

「だ、だって……あんなこと言われたら、オレ……ッ」


 カチュアとは思えないほどに素直に付いてきてくれたが、もしかしたら俺は、またもや言葉を間違えたのだろうか。

 言葉の少ないカチュアと並んでブラブラと歩いてゆくと、宮殿の大門まで戻ってくることになった。


「シ、シンザ……。オレ、こんなとこ、入っていいのかな……」

「いいに決まっている。少し寄り道するぞ」


「ど、どこへ……?」


 カチュアの背中を押して、俺は門をくぐって宮殿を進んでいった。

 この辺りまで連れ込めば、カチュアも今さら逃げようなどと考えないだろう。


「白竜宮だ。実はな、一緒に夕食を食べたいと言い出して聞かない連中がいてな。悪いが小一時間だけ付き合ってくれ」

「ぇ…………」


 あらがうように歩みが重くなるが、ここまできて帰るなど許さん。

 俺はさらに力強くカチュアの背を押して、白竜宮の方角に少女を連れ込んでゆく。


「ちょ、ちょっと、待って、待ってよ、シンザッ……。オレなんかと会いたい人って、それって、いったい誰……?」

「会えばわかる」


「教えてよっ。こ、心の準備が、間に合わないよ……っ」

「――ゲオルグ兄上だ。どうやらアンタに興味があるらしい」


 そう伝えると、カチュアの歩みがさらに鈍ることになった。

 年端もいかない少女を強引に引っ張る姿は、道行く侍女たちの白い目を招いたようだな。


「シンザァ……心の準備なんて、そんな、ゲオルグ皇子様と会うなんて、付くわけがないよっ!?」

「それでも会ってもらう。向こうが会いたいと言い出したのもあるが――こうして正体を知られた以上は、俺だって兄上と姉上をカチュアに紹介しておきたい」


「姉、上……?」

「ああ、アトミナ姉上だ」


「ぇ…………ぇっぇっ……。ぇ、ぇぇぇぇ……っ!?」


 どんなに宮廷の連中に冷たい目を向けられようとも、俺は構わず暴れるカチュアを抱き上げて、白竜宮まで運搬した。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



 白竜宮に入ると、侍女が庭園まで案内してくれるそうなので、そこでカチュアを下ろした。

 それが少し前のことで、俺たちが会場にやってくるとすぐに晩餐が始まることになった。


「ごめんね、うちのアシュレイが迷惑かけてるでしょ?」

「アシュレイ様はド天然でしゅ。苦労はドゥリンもよくわかるでしゅよ。やさしいけど、とってもズレてる方でしゅ……」


 時刻はまだ空の明るい夕方、カチュアは早くもアトミナ姉上とドゥリンに気に入られたようだった。


「ぇ……いぇ、め、めっそうも……。シンザ、じゃなくて、アシュレイとは、お、お友達として仲良く、させてもらって、います……」

「呼べと言ったのは俺なのだがな……。まあ、こうなる気はしていた」

「ああ、呼べと言っておいて、仏頂面で歓迎する兄上も兄上だな」


 昔の兄上なら、やさしく優雅にカチュアを迎えてくれただろうに、どうしてこんなに堅物になってしまったのやら。

 肝心のカチュアは、さっきから表情を張り付かせたまま笑いも泣きもしない。


「あら、本当にただの友だち? うちのアシュレイを一月も独り占めするなんて、ただの友だちとは思えないわ」

「あ、あの……っ、その……っ、だって、オレ――アタシ、ずっと、知らなくて……。ご、ごめんなさい……っ!」

「アトミナ様、そういうのは意地悪でしゅよ……?」


 そうは言うがドゥリンも楽しそうに笑っている。

 ゲオルグは黙々と食事を腹に詰め、プィスはナイフにもフォークにも触れず、ただ乙女たちに熱い目線を向け続けていた。


「女の子になりきれていない、オレっ子ですか。フフフッ、これはまた絶妙ですね……」


 そのプィスが耳打ちをしてきたので、何かと思えばどうでもいいことだった。

 俺も兄上を見習って、あちらが落ち着くまで腹を満たすことにしよう。


「シ、シンザァ……た、助けて……」

「助けるも何も、堂々と受け答えすればいい。兄上も姉上も、不敬だのなんだのと、下らない虚栄心を張る人間ではない。いつも通り話せ」


「む、無理言わないでよっ!? アトミナ皇女様と、軍最強の、ゲオルグ様にっ、かかか、こまれ、てててっ、オ、オレッ、なんで、こんなところにいるのっ!?」

「晩餐に呼ばれたからだな」


 赤身の多いステーキ肉を口に運びながら、大盛りのマッシュポテトをつつく。

 すると育ち盛りだからと、姉上が3切れ分も肉を分けてくれた。兄上の皿を見れば、もう全て平らげている。


「弟が迷惑をかけている。アトミナと同じことを言うが、どうかこれからも友達でいてやってくれ」

「アシュレイ様は、友達が少ないでございますからな……」

「爺、いたのか」


「いやおりましたよ!? ずっとここにっ!」


 つまりは賑やかな晩餐になったということだ。

 次第にカチュアも状況に慣れてゆき、兄上と姉上の人柄を把握すると少し落ち着いたようだった。


「はい、カチュアちゃんも育ち盛りよね。あーんっ♪」

「えっ、あのっ、あ……あーん……」


 姉上はステーキ肉の脂身の多いところを切ると、それをカチュアの口に運んだ。

 皇女様のあーんを拒めるわけもなく、カチュアがおとなしく口を開いてギトギトとした咀嚼を始めた。


「美味いか?」

「き、緊張で、味がしない……」

「ドゥリンのもちょっと多いから、カチュアちゃんに食べてもらいたいでしゅ。あーん、でしゅ」


「あ、あーん……」


 仲がいいようで何よりだ。

 インドア系女子たちが、カチュアに脂身を押し付けているようにも見えるのは、まあ勘ぐりすぎだろう。


「いいですね、実にいいですね……」

「プィスは早く食べろ」


 うちの政務官殿は、まだ食器に手すら付けていなかった。

 それを見て、ゲオルグの姉上にも劣らないお節介心が刺激されたようでな、彼のマッシュポテトをフォークですくい、プィスの口に押し込んでいた。


 ……それでもプィスは、初々しいカチュアから目を離さなかった。


「そうだ。弓を見せてくれないか?」

「ぁ……オレ、アタシのですか……?」


「そうだ。できたら撃って見せてくれないか。そこのアシュレイが言うのだ、カチュアは百発百中の名手だと」

「そ、それは、いいですけど……。最近まぐれ当たりが続いただけで、別に大したものじゃないですよ……?」


 シンザのせいで大変なことになったじゃないかと、カチュアに睨まれた。

 そうだな。因果関係の上では、カチュアの弓は百発百中だと言ったせいで、こうして呼び出される結果になったともいうだろう。


「私も見てみたいわ!」

「ドゥリンもでしゅ!」

「ではカチュア様の弓を持ってきましょう。アシュレイ様が認めるその実力、しかと見届けさせていただきますぞ」

「爺、射手(アーチャー)にプレッシャーをかけるな」


「アシュレイ様を一月も独り占めにした女性ですぞ。私なりに思うところがありますので、口を挟まないでいただきましょう」


 またカチュアに睨まれた。

 結局全部、シンザのせいじゃないかと。そう言いたそうな目だ……。


田舎者でもいいじゃない

にんげんだもの


ストックヤバい。がんばります。

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