12-4 皇子アシュレイと冒険者カチュア - 外で頼む -
「ぁ……シンザ……」
「ここにいたか。すまん、俺は気づかいのできない人間でな……。傷つけるつもりはなかった、許してくれ」
酒場に降りると、しょげてオレンジジュースをすすっていた女の子がいたので、俺は席の向かいに腰掛けた。
これでも俺なりに誠意を込めて謝罪したつもりだ。
「大丈夫、シンザの顔見たら、ちょっと落ち着いた……」
「そうか。では飯にしよう、落ち込んだら飯だ」
メニューを手を取り、メインディッシュのページを開いた。
やはり落ち込んだら肉だろうか。若鶏のグリル、黒豚のローストか……。
「それってやけ食いじゃん……」
「だが腹が減っては暗くなるだけだからな」
「ううーん……シンザって、全然偉い人に見えない……」
「実際偉くないからな。領地はプィスという男に丸投げで、領主らしい仕事など何一つしていない。する気もないがな」
笑いを取るつもりではなかったのだが、カチュアが軽く吹き出してくれた。
よかった。今は笑ってくれるならなんだっていい。
「帰ったら行ってみたい。シンザの領地」
「構わんが、特にこれといった見物はないぞ。むしろその先にある、ナグルファル港の方での食い歩きが楽しい。後で一緒に行くとするか」
「海……?」
「そうだ海だ。癖の強い食べ物も多いが、きっと気に入る。特に魚介のパエリアが美味い」
するとどういうわけか、カチュアが俺に向けて苦笑した。
「あはは……。シンザってさ、ホントに食べ物の話ばっかりするよね」
「否定はしない。それに食べ歩きをしていると、生きている実感が湧いてな」
ちょうどそこに女給仕が通りすがった。そこで俺はメニューから適当に選んで給仕に注文を出した。
その後は元気を取り戻したカチュアと、好きな料理についての小話で盛り上がることになった。
特に芋好きとしては、この地方で主食として食べられるジャガイモ料理の話は絶対に欠かせない。
それからほどなく喋り続けると、頼んだ料理がようやくテーブルに並んだ。まずは若鶏のグリルを半分にして、しばらく俺たちは食べ応えのある肉をがっついた。
「あ、ところでさ。スコップ捨ててきちゃったみたいだけど、これから武器どうするの?」
「そうだな、しばらくはシャベルの方を振り回すことにするな。今さらナマクラのスコップなど使えん」
「ふーん……」
「それと一応言っておくが。俺はいずれ、継承権、領地、すべてを放棄するつもりだ」
「へー……。へ……っ!?」
「だからどうかこれまで通りで頼む。理由はよくわからんが、悲しませてしまってすまなかった。俺はシンザだ。アシュレイとしての人生は望んでいない」
これが今俺が伝えたい本心だ。俺が皇子であることが、カチュアにとって不都合であるなら、最初から捨てるつもりであることを伝えればいい。よしこれで解決だ。
……ずいぶんと、怪しむような目で見られているような気もするが、解決だな?
「ぇぇぇぇ……。いや、放棄って、そんな、ぇぇ…………」
『そうはさせん、そなたには皇帝になってもらう』
いつもの寝言がきたな。
ジラントよ、いくら帝国に暗雲が立ち込めていようとも、七番目の継承権ではあまりに玉座に遠い。無理だ。
「うむ、このパイ包みのシチューはなかなか美味いではないか」
「えっ……えっえっ、ジ、ジラント様っ!?」
「ジラント、まさか食べるためだけに現れたんじゃないだろうな?」
それは魔力の無駄づかいではないのか?
二人よりも三人の方が、賑やかで楽しい夜になるのは間違いないだろうがな。
「三人分となると足りんな。おい、そこの給仕。ここからここまで、全部頼む」
「えっ!? ぜ、全部ですか!?」
「アンタ、どれだけ食うつもりだ……」
人の金でここまでダイナミックに注文するやつは初めてだ。
この先もジラントが食事の席に現れるとなると、もっと稼ぐ必要が出てくるな……。
「そなたにだけは、食い意地がどうこうと言われたくないな」
「あ、それはそうかも……。えっと、その……今夜はよろしくお願いします、です、ジラント様……」
「ジラントでいいぞ。我が輩はそなたをひいき目で見ているゆえな、ククク……」
「そ、そんな……。というより、あれ……もしかして、これまで、全部……」
「見ていたぞ。こやつがコリン村に現れたあの日から、ずっとな」
「う、嘘……。それって、もしかして、今日まで全部筒抜け……ッッ~~!?」
カチュアもこれで育ち盛りだ。
その晩はせっかく一財産稼いだことなので、質より量でガッツリと、胃液が喉までくるまで楽しんだ。
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◇
◆
『う、うっぷ……げ、げふっ……』
止めてくれジラント……。
人の頭の中で、延々と吐きそうな声を上げるな……。
『んぐっ……すまん。食い過ぎたようだ……うぶっ!?』
頼むから、吐くときは外で頼む。俺の中で吐くなよ……!
『う、うむ……。我が輩も、そこま……んぐぷっ……。しゅ、醜態を晒す、つもりはない、ゆえな……はぁっはぁっ……んぐっ!?』
ダメだ、寝れん……。寝れるわけがないぞ……。
頼むからジラント、吐くなら外で頼む……。俺の精神の中に、乙女の口から出てはならないやつをまき散らすな……。
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【邪竜の書】
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- 冒険 -
【冒険者ギルドで1万クラウン以上の仕事をこなせ】
・達成報酬 EXP600/[帝国の絆LV+1
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- 探索 -
【帝国を500km歩け】337/500km達成
・達成報酬 移動速度LV1(全ての移動速度+50%)
『走る速度だけではない。全ての移動速度だ。これは馬車や船も含むぞ』
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- 開拓 -
【エリンを自由に発展させよ】
・発展度1250→1500/50000
・達成報酬 EXP1000/最強の人造兵器
『エリンは荘園から逃げ出してきた移民を受け入れたようだ。ほぼアトミナ皇女の一存だったようだがな』
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- 事業 -
【ヘズ商会を成長させろ】
・達成報酬 DEX+100
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- 粛正 -
【悪党を7人埋めろ】残り3人
・達成報酬 EXP1100/スコップLV+1
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- 粛正 -
【汚れた富を100万クラウン盗め】 262000/ 1000000
・達成報酬 空間探知LV+1
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- 投資 -
【合計1万クラウン使え】6360→6416/ 10000
・達成報酬 EXP1000/出会いの予感
『危うくそなたの中に吐くところだった……。また魔力を使うことになったが、どうにか事なきを得たぞ……』
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- 目次 -
【Name】アシュレイ
【Lv】39→41
【Exp】7350→7890
【STR】100→103
【VIT】275→281
【DEX】150→155
【AGI】230→235
【Skill】スコップLV5
シャベルLV1
帝国の絆LV1
方位感覚LV1
穴掘り30倍
『死線がそなたを急成長させた。だが、こんなことを繰り返されては、我が輩の心臓がもたぬわ! まったく馬鹿者め、どれだけ人を心配させれば気が済むのだ!』
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