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3-1 悪を倒せと奇書が言う - 正義と独善の天秤 -

――――――――――――――

- 粛正 -

 【悪党を1人埋めろ】

 ・達成報酬 EXP200/スコップLv+1

 ・『悪の息の根を止めよ。正義を果たす勇気を獲得せよ』

――――――――――――――


 邪竜の書に目を落として覚悟を決めた。俺は強くならなければならない。

 ゲオルグ兄上があれほど苛烈に俺を武人にしようとしたのも、モラク叔父上が言った俺の運命を知っていたのかもしれん。


 俺は悪党への対処法を覚えなければならない。

 兄上を越えるにはキャラル・ヘズが要る。キャラルを守るには、悪党を倒す覚悟が要る。


 邪竜ジラントが望む独善的な断罪を俺は実行することに決めた。

 まず悪党を探した。同情の一片も感じさせないやつがいい。死すべき最低の存在がいい。全ての者が失踪を喜ぶような最低の中の最低を探した。


 とはいえ普通にやれば足が付く。そこで俺はあの女を頼った。

 黒角のシグルーン。冒険者ギルドに居場所を聞けば、ちょうど今日この場所に戻ってくるそうだ。


「おおーっ、シンザぁっ! 会いに来てくれるなんて嬉しいぞっ、やっぱり拙者に惚れたのだな!」

「そうだな、アンタの武勇は惚れ惚れするよ。それより頼みがある」


 シグルーンを外に連れ出して、隣の酒場の薄暗い奥の席に移った。

 すると彼女はそれとなく俺の異変を察したらしい。妙におとなしかった。


「まあ飲め、飲んでおけば話しやすくなるぞ」

「そうかもな。……ふぅ、それでアンタに聞きたいことがある」


 注がれたエール酒を木製のコップ半分まで飲み干した。

 当然だがぬるくて苦い、甘い菓子の方が俺の好みかもしれん。


「悪党を探している。殺されても仕方ないような最低のやつがいい。理由は聞くな、この前の借りはそれでチャラだ」

「シンザ、お前意外と物騒なのだな……。だがいいぞぉ、それでチャラになるなら教えてやる、死んで当然の悪党をなっ」


 シグルーンほどの武勇を持てば詳しいに決まっている。

 幾多の戦いに身を置けば、クズなど山ほど見るだろうと踏んだ。


「南の歓楽街にな、追い剥ぎが出るそうだ。通り名はダグス、裏通りの教会に行くといい。拙者の名を出せば、出没傾向を詳しく教えてくれるはずだ」

「……助かる」


「子供や老人ばかり狙うクズだ。だがなかなか捕まらなくてな、狙う相手も貧民ばかり、軍は動こうとしない」

「そうか」


 好都合だった。法律で裁けない相手、軍が捕らえようともしない悪党、そういった種類の最低の悪党ならば、私刑という独善にも大義が立つ。

 追い剥ぎのダグスは、俺の成長のための贄になってもらう。そう決めた。


「しかしなぁ、こんな男だとは思わなかったぞシンザ」

「失望させてすまんな、どうしても必要なのだ」


「何を言う、むしろ逆だ! シンザ、やはりお前は美しいなぁ。いやむしろ拙者からも頼もうではないかっ。ダグスは生きる価値も無いクズだ、お前が殺しておいてくれたら、明日から気分が良い」


 これでシグルーンに弱みを握られるかもしれない。

 だが彼女は信用できる、彼女は死生観もそうだが倫理観が独特だ。むしろ俺がこれからやるべきことを後押ししてくれた。


 彼女は知っていたのだ。法律や道徳ではどうにもならない悪がこの世に存在することを。


「手伝うか?」

「ありがたいが、自分一人でやらなければ意味がないのだ。また会おう」


「ああ、次は一緒に同じクエストを受けるのも良いな! 拙者の住所はここだ、遊びに来てくれ!」


 本当におかしな女だ。

 俺の奇妙な問いかけに疑いもせず答え、家に遊びに来いとメモを渡すのだからな。


 もう夕刻だったが、気持ちが冷める前に歓楽街裏通りの教会に向かった。

 神父は俺の来訪とシグルーンの名に驚いたが、近辺で起きた真実を語ってくれた。


 子を殺された母親、老婆を殺された息子の住所も教えてくれた。

 彼ら被害者の告げる真実は、美しく華々しい帝都に似つかわしくない。栄光の都の陰は深くおぞましく淀んでいた。


 帝都の闇に悪党がのさばっている。それなのに誰も捕まえようとしない。むしろ貧民の口減らしになると思っているふしすらあった。

 聞けば聞くほど迷いが無くなっていった。なぜこれほどまでに罪深い存在が、野放しになっているのか、俺にはわからない。



 その晩から、俺は薄暗い歓楽街の路地裏で、怒りを募らせながら静かに待っていた。


 断罪されて当然の悪党が網にかかるのを。


 独善的な正義、法を無視してでも果たさなければならない義務。俺は皇帝家の七男アシュレイ、皇帝に忌まれた存在しない息子。

 俺は皇族の一員として、存在しない皇子として、兄たちができない正義を果たそう。


「おうそこの乞食野郎。……おいっ、お前のこと言ってんだよッ、ほら良いものやるよこっち向きな!」


 釣れた、不幸にも標的が釣れてしまっていた。

 暗闇の中、鈍色のナイフが俺に突き付けられ、かすかに蒼い光を反射させていた。


 ◇


「アンタの墓穴だ。アンタに母親を殺されたある男が、子を殺された母親が、アンタの死を願っていたよ。呪いたければ呪え、誰にも気づかれない歓楽街の穴底からな」


 こうして俺は、石畳だろうと問答無用で貫くスコップの力を手に入れた。


 これで満足かジラント。俺はアンタの手の上で、これからも独善を果たすだろう。

 俺たちは共犯者だ。アンタが悪を屠れ、正義を果たせと、俺をそそのかしたのだから。


――――――――――――――

- 粛正 -

 【悪党を1人埋めろ】(達成)

 ・達成報酬 EXP200/スコップLV+1(受け取り済み)

 ・『竜の眼を持つ皇帝の子よ、見事だった』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 粛正 -

 【悪党を3人埋めろ】

 ・達成報酬 EXP500/スコップLV+1

 ・『貴様は強い。さらに己の信じる道を行け、どこまでもこの我と』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 目次 -

【Name】アシュレイ

【Lv】6→8

【Exp】565→765

【STR】17→20

【VIT】83→88

【DEX】26→31

【AGI】17→19

 スコップLV2

『とんでもない持久力だな。今の貴様ならば、歴戦の傭兵をも凌ぐだろう』

――――――――――――――


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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定がオリジナリティあって楽しい。 飽きずに最後まで読めそう、他の作品も楽しみです。 [一言] 昔ながらのコマンドRPG風でいいからゲーム化して欲しい、俺もクエストこなしたい!
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