12-2 白の杭・第七柱迷宮を下れと奇書が言う - 太古の悪意 -
地下7階に到達するなり、俺は今回も光った。
「おう、ザンシ、まぶしいなお前!」
「ていうか、なんで光ってんだお前?」
「いやなんで光ってんだよっ、おかしいだろお前!?」
「オレはそろそろ慣れてきたかな……。そういう体質なんだって」
こればかりは隠しようがないので諦めた。
堂々としていればなんのことはない。ただ人間が光っているだけだ。
「いやどういう体質だよっ!?」
「ホタルのようなものだと思ってくれ」
「いや無理あるだろ! 人間が光るかバカ!」
「なんか全部おかしいぞ、お前!」
「ていうかよーっ、この状況で光る必要とかよーっ、ぜってーねぇだろっ!」
その文句は奇書とジラントにつけてくれ……。
いい加減、この仕様はどうにからならんのか……?
『無理だ、そこは諦めよ。この期に及んで、光らなくなったら味気ないではないか。そもそも光るというのは、神々しいことだぞ?』
俺の人生にそういう要素は望まれていないな。
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- 冒険 -
【ラタトスクの杭の迷宮B7に到達せよ】達成
・達成報酬 EXP900/穴掘り30倍(獲得済み
『ついに手に入れたな。これは空間と空間を繋げる力と言ってもいい。よく考えて使え』
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- 目次 -
【Name】アシュレイ
【Lv】36→39
【Exp】6380→6450→7350
【STR】96→100
【VIT】266→275
【DEX】142→150
【AGI】221→230
【Skill】スコップLV5
シャベルLV1
帝国の絆LV1
方位感覚LV1
穴掘り30倍
『今のそなたなら、毒でも盛られん限りそうそう死ぬまい』
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隙を見て邪竜の書に目を落とすと、いつもの大げさなジラントがいたのでそっと閉じておいた。
今すぐ帝都の発掘場に帰りたくなってきたな……。
◆
◇
◆
いやところがだ。地下8階の階段を見つけ出す前に、俺たちは妙な空間にたどり着いていた。
何やら他と雰囲気が異なる不気味な部屋だ。
「リーダーッ、後ろが!」
さらには俺たち全員がその大部屋に入るなり、背後の扉が独りでに閉じたのだから、到底これは穏やかではない。
「なんかヤベェぞ……」
「俺、前に聞いたことがある。後ろの扉が閉まる部屋は、超ヤバいってよぉ!?」
退路をふさがれるのはまずい。
そこでカチュアの期待と不安の目を受けながら、後ろの扉をスコップで貫いた。
「これは硬いな」
「でもいけるよっ、がんばってシンザ!」
「そうか、お前がいたか……っ。よし、俺たちはこの部屋を調べる。そっちは頼んだぞ」
役割分担というやつだな。
冒険者たちは警戒しながら室内を周り、俺は石のくせに妙に頑丈な扉を、スコップで一突き一突き切り抜いていった。
「こんなに強情な石は初めてだ」
「シンザしか言えないセリフだよ、それ」
スコップを突き刺しても、粘るような感触があってなかなか断てない。
こんな奇妙な物体があるとはな。杭の迷宮はつくづく得体が知れない。
「蹴り破れそうだ、手伝ってくれ。……カチュア?」
「シンザ、あれ……あれ見て! あれって像じゃないよっ、動いて――ぁ……」
カチュアの言葉に部屋の中央へと視線を向けた。
冒険者たちが巨大な像を取り囲んでいたが、どうもそれは像ではなく本物の甲冑だった。
それが突然動き出して、右手の大剣で周囲を薙ぎ払う。
ただちに絶叫と血しぶきが上がった。続いて俺の中からジラントが大声で叫ぶ。
『アシュレイッ急げ! アレはケルヴィムアーマーだ!』
ケルヴィムなんたらと言われてもよくわからんが、ジラントが平静を失うほどに危険な存在なのだろう。
実際に今の一太刀だけで、ざっと4人の冒険者が致命傷を負った。これはあのアビスアントを遙かに超える強敵だ。
そこで俺は開きかけの扉に体当たりを三度ぶつけて、退路を確保しようとしたが――これは無理だな、諦めた。
「距離を取れ、アンタたちはこの扉をこじ開けろ!」
「シ、シンザッ、行っちゃダメだよっ!!」
『バカか貴様は! アレはダメだっ、いくらなんでもアレだけはダメだっ、退けっ、我が輩の命令を聞かんかっ! アレは呪われた方法で生み出された――』
だがそうしなければ生き残った負傷者が逃げられん。
ただ少しばかしの時間を稼ぐだけだ。そうむやみに気を揉むな。
俺は血だまりとなりつつある戦場に飛び込み、腰を抜かした仲間を激励した。
「さっさと立て! 俺が時間を稼ぐから、はいずってでもここから逃げろ!」
「無理だよ逃げてよ、シンザッッ!!」
カチュアの弓がケルヴィムアーマーとやらに放たれたが、全身鎧に包まれた巨人には弾かれるだけだ。
薙ぎ払いを済ませたその巨体が、次は袈裟狩りで俺を狙っている。次の瞬間、神速の振り下ろしが俺に向けて叩き付けられた。
「ッッ……確かにこれは、化け物という域を超えているな」
斬撃は爆発となって石畳を打ち砕いた。
麻のローブを身につけておいて正解だった。生地の硬いこれがなければ、肌に小石が突き刺さってしまっていただろう。
動きの鈍い鎧巨人の右足を、俺は鉄をも穿つ最強のスコップで薙ぐ。
「驚いた。これは、斬れんな……」
『だから言ったであろうこのバカ者ッ! 逃げろっ、頼むから逃げてくれ、アシュレイ!』
「そうはいかん。俺の軽い命で、他の連中が助かるなら安いものだろう」
『そなたの命は、そこいらの虫けらと一緒ではないわっ、このバカ者がッ! そなたは我が輩のために皇帝になる男なのだぞ!』
切っ先で突いても、別の部分を狙っても、まるでこちらの刃が装甲を通らない。
いったい何でできているのだ、この鋼の怪物は……。
『聞け! そやつは、古くは天界への扉をこじ開けるため、さらに古くは失敗作である古い種族を、殲滅するために作り出された殺戮人形だ! そうそう簡単に倒せるようにはできていない! それゆえ無理だから、逃げろと言っている!』
背後に回り込んで薙ぎ払いをやり過ごし、爆裂を伴う上段斬りをヤツの股の間に飛び込むようにかわす。
しかしどんなに試しても、俺のスコップはヤツを穿つことはなかった。
そこで俺はシャベルの方を取り出し、それを双剣にしてヤツの膝と肩の間接部を順番に刺した。
それにより、敵の動きを鈍らせることには成功した。だが深くは刺し込めないようだ。
『くっ、対策されているな……。昔はもっと通じたと聞いたが……』
「今が昔ならよかったな。さて、これはどうしたものか」
「シンザッ、動ける人はみんな退避したよ! シンザも早く!」
「そうか、ならアンタはその護衛を頼む。俺はコイツをどうにか動けないようにしておこう」
「何言ってんの、正気っ、バカッ!?」
「俺を信じろ、それより早くその扉をこじ開けろ」
「わ、わかった、でも無理しちゃダメだよ! みんな、せーのっでぶつかるよ!」
俺はコリン村の英雄だ。あの日起こした奇跡をカチュアは知っている。
だから俺を信じて、一斉に扉への体当たりを続ける。だが、どういうわけか開かない。
まるで俺が斬った部分が、独りでに修復してしまっているかのように頑丈だ。
『よそ見をするな、くるぞ!』
「――ッッ!」
スコップを盾にしつつ、俺は薙ぎ払いから後ろに飛び退いた。
だがかすってしまったようだな。とんでもない運動エネルギーが生じて、俺は部屋の壁まで吹き飛ばされてしまった。
『無理をするなと、カチュアにも言われたであろう、馬鹿者!』
「ならあの氷の力を貸してくれてもいいだろう」
『やれればやっている! アレには魔法は効かんのだ!』
「ならばヤツは無敵だな。だが――退路の方なら見つかったようだ」
『む、なんだと……?』
ついていた。方向感覚スキルの恩恵もあるのだろうか。
なんとなくだが、今叩きつけられた壁の向こうに、別の空間があるような気がしてきた。
そこで俺は、迫り来るケルヴィムアーマーを無視して、30倍のスコップの力を発揮して、掘って掘って掘って掘りまくった。
ビンゴだ。壁の向こうは、別の迷宮に繋がっていた。これで俺たちは逃げられる。




