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12-2 白の杭・第七柱迷宮を下れと奇書が言う - 問題ないな -

「ザンシだ、今日はよろしく頼む」

「カ、カチュアです! こういうのは初めてですが、よろしくお願いします!」


 あまり真面目な態度を見せると、かえって舐められると思うのだが、そこはカチュアの性格だろう。

 帝都在住の冒険者たちとは毛色が違って、ラタトスクの連中は良い意味でも悪い意味でもガツガツしていた。


「へっ、よろしくな、ルーキーども」

「どうでもいいが、ヘマだけはすんじゃねーぞ」

「もし足引っ張ったら見捨てるからな、覚えとけ」

「は、はいっ!」


 迷宮は富をもたらすが、その分だけ命の危険が跳ね上がる。

 おまけに外からの出稼ぎも多く、この命を掛け金にした仕事になれ合いなど始めからなかった。


「おいお前、剣はどうした?」

「剣か? 剣はないが、別の物ならここにある、これで戦う」

「ほぅ、斧使いとは珍しいな……」


「まあそんなところだ。少し変わった武器でな、戦闘になったらお見せしよう」


 スコップの先を袋で包んだのは正解だったようだ。

 包みの内部が、まさか穴掘りに特化した形になっているとは思いもしないだろう。


 彼らは迷宮に到着して、俺が鋼鉄のスコップの切っ先を披露するまで、穏やかな態度を取ってくれた。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



「スコップじゃねーかっっ!!」

「ふざけんなこのアホッ、命かかってんだぞっわかってんのか、このアホッッ!!」

「ぅぅ……当然こうなるよね……。って、シンザッ!?」


 やれやれ、物の良さがわからんやつらだ。

 そこで俺は突出して、迷宮の奥に発生していたゴブリンの群れに飛び込んだ。


 コリン村で戦ったあの頃とは違う。今の俺には筋力も敏捷性もあった。

 敵の粗末な短剣を破壊し、低い顔面を殴り倒して、時に石畳を掘り抜いて投げつけつつ、カチュアたち射手の援護を受けながら、前衛たった一人で敵を全滅させた。


 遅い。弱い。未熟。ゴブリンではもう俺の相手はつとまらないようだ。


「何か文句はあるか? スコップが剣の代わりだとしても、何も問題ないな?」

「ス……スコップ、つええ……」

「な、なんじゃそりゃ……なんじゃお前っ!?」


 そうだ。スコップは剣よりも強い。

 少なくとも俺の世界では、スコップこそが最強武器なのだ。


「驚いた……。だが強ければ俺はなんだっていい。よし、あらためてよろしくな、ザンシ」

「おおっそれもそうだな!」

「おうっ、よく考えたらこりゃ楽ができるじゃねぇか!」

「って、こいつら切り替え早っ!?」


 杭の迷宮は12名編成が基本だそうだ。

 一つの柱に4時間ごとに12名のグループが下り、一日4交代でローテーションしている。


「ああ、少し変則的な戦法が多いが、足は引っ張らないつもりだ」

「いや、オレは少しどころじゃないと思ってるけど……」


 こうして俺たちは本格的な迷宮探索を始めた。

 白い杭の迷宮は、白い石壁と石畳を持った不思議な空間が続いていた。


 ここはあの杭の内部だそうだ。

 杭の下に広がる巨大な空間に、魔物と財宝が漂着して、人間がそれを倒し獲得する。それが杭の迷宮だ。


 地下3階に到達すると、巨大な木槌を持ったオーガタイプがゴブリンたちを率いて現れた。


「気をつけろ! ってスコップ強っ、ていうか汚ねぇだろっ!?」

「うっせーっ、今がチャンスじゃねぇかっ、タコ殴りにしちまえ!」


 そこで小さな落とし穴を作ってやると、それに足を引っかけてオーガが転倒したので、後は後ろに任せて俺とカチュアはゴブリンを狩った。


「よっしゃ勝利! よくやったぞ、ザンシ!」

「やべぇっ、お前がいるとメチャ楽じゃねぇか! でけぇのきたら、また頼むぞ、このスコップ野郎が!」

「元気だよねこの人たち……」

「ああ。だが冒険者たちはだいたいこんなものだ」


 命尽きたオーガが灰となって崩れ去ると、やつは財宝に姿を変えた。

 これは大量の金が混じった金鉱石か。それを運搬役のでかい男が、背中に背負った木箱に入れた。

 恐らく布だと底が抜けるのかもしれんな。


 ◆

 ◇

 ◆


 サクサクと皆で敵を片付けながら、地下5階に到達すると、またちょっとした大物が立ちはだかった。


「ガーゴイルだ!!」

「くそうっ、あんなのと戦ったら剣がダメになるぞ、撤退するか、リーダー!?」

「くぅぅ、ここまできてついてねぇな……。そうだな、アレと戦うくらいならそうするしか――」


 それは身長2m半の動く石の悪魔像だ。

 剣やメイスでどつくしか脳のない連中には、確かに天敵なのだろう。


「よし、撤退――」

「ああいうのは得意だ、俺に任せてくれ」

「やっちゃえっ、えっと、ザンシッ!」


 ジリジリと後退を選ぶ冒険者たちをよそに、棒立ちで相手を眺めていた俺は、目前のガーゴイルに向けて突っ込んだ。

 こういうやつを待っていた。肉と骨には効力を発揮しない、鉄をも穿つスコップで、伸びてくるガーゴイルの腕をぶった斬る。


「強っっ?! ていうかふざけんなっ、どうなってんだよそのスコップッ!?」

「い、石を斬りやがった……こいつ、スコップの達人だ……ド変態だ」

「いやおかしいだろっ、ガーゴイルを斬るとか、絶対こんなのおかしいだろ!」

「おいおい……まさか瞬殺かよ……。うし、撤退は無しだ。おいタンク、準備」


 少し張り切ると、ガーゴイルは両手両足、首を断たれて灰に変わった。

 その灰に埋もれるように、無数の宝石が生まれていたようだ。


「これは凄い。退かなくてよかったな」

「ハハハハハハハ! マジでスゲェッ、お前最高だよ、ザンシ!」

「ジャラジャラあるぜ! 12人で分けてもちょっとしたもんだろ、コレ! ジャラジャラあるぜぇ!」

「おいっ、くすねたらブッ殺すぞ、テメェ!」


 現金な連中が、タンクの持つ木箱に宝石を投げ込む。

 中には手癖の悪いやつもいたが、そいつは見つかるなり殴り倒されていた。


「なんか、こっちの冒険者って荒っぽいな……」

「ああ、帝都ギルドの飲んだくれどもが、かわいいお嬢様に見えてくるな」


「いや、それはないよ……。あいつらオレにエッチなこと言ってくるもん……」


 そこはああいう男社会の宿命かもしれんな。

 俺も宝石をタンクの木箱に詰めるのを手伝って、それからさらに奥にいこうと促した。


「地下7階に行きたい? お前強いけど変わってんな……」

「あっわかったぜ! 7階まで行ったら、女がヤらせてくれる言ったんだろ! えぇっ?」

「うぇ……」


 その言葉にカチュアがげんなりとしていた。

 いや、俺はそういう頭の悪い発想は嫌いではない。

 残念ながら、現実は女ではなく奇書からの頼みごとだがな。


「違うのか? あっ、まさかその相手って、このカチュアか!?」

「なんだよっ、そうならそうと言えよ!」

「若いねぇ……うわ、青臭すぎて吐きそうだわ、ダハハハハハ!!」


 なんともやかましい連中だ。

 違うな。俺はスコップ30倍とやらで、充実した発掘生活を過ごしたいだけだ。


「な、なななっ、何言ってんのコイツらぁ!? これ以上変なこと言ったら、次の戦闘でそのケツを射抜くからなっ!!」

「落ち着け、カチュア。こいつらの荒っぽいノリが移ってるぞ」


 物語のキャラクターがするように、銀縁眼鏡をかけ直して、俺はさらに先行した。

 欲を出した冒険者たちは、地下10階に眠る確定報酬が欲しいと言い出した。


 ほぼ確実に、金になる物がそこで手に入るそうだ。

 普段は危険なので深入りしないが、俺がいればいけると言ってくれた。


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