12-1 禁断の同盟 - 杭の迷宮へ -
前章のあらすじ
錬金術師ドゥリンと政務官プィスを交えた兄弟の休暇が瞬く間に過ぎた。
その休みが明けるとシンザは、皇帝の命が燃え尽きる前に、さらに己を成長させることに決める。
そこでギルドに赴くと、思わぬことにコリン村のカチュアからの言づてが待っていた。
シンザは予定を変更して宿酒場ヨスガに向かい、冒険者となったカチュアと再会した。
カチュアが心配であることと、邪竜の書が彼女を一人前にしろと要求してきたことから、彼は共にギルドの仕事を請け負うことに決める。
二人は翌朝、巡礼者の護衛任務を受けって片道10日の旅に出た。
その旅の道中、土砂崩れに遭遇することになったが、立ち往生することもなくシンザが難なく障害物を撤去してみせた。
その際に道を封鎖していた老兵コンズから、五男ゲオルグと四男ヨルドの因縁を聞く。
士官学校時代のゲオルグは、まだ幼かったアシュレイをヨルドにより人質にされ、闘技大会でヨルドへの敗北を選ぶしかなかった。
一行がさらに旅を進めると、飢えた軍人崩れに襲われる。しかしシンザとカチュアに叶うわけもなく敵は撃退された。
巡礼者の代表ユングウィ神父はそんな軍人崩れに情けをかけ、傷ついた彼らを次の町まで護送した。
しかしシンザは情けをかけない。その夜、軍人崩れを始末しようと居所を突き止める。
だが聞けば彼らは深く後悔していた。さらに上官が辺境将軍に意見したために、巻き添えで首になって食い詰めたともいう。
どうやら辺境の帝国軍と、騎士団が手を結ぼうとしているようだ。
彼ら軍人崩れには更正の余地があった。そこでシンザは己の間違いを認め、彼らにエリンの兵士という新しい仕事を与えて、その場を立ち去った。
巡礼の旅が続く。やがて一行は、杭の町ラタトスクに到着する。
そこでアビスアントという、極めて危険な巨大アリとの交戦となる。
戦いはジラントの援護もあり、シンザたちはどうにか巨大アリを撃破しつつ、アビスゲートと呼ばれる別世界への扉を閉じた。
しかしその結果、シンザとジラントはラタトスクの都市長や、ギルド長に気に入られてしまう。
さらには信心深い巡礼者とユングウィ神父まで、ジラントとシンザを崇めだした。
手を差し伸べてくれない絶対神サマエルより、アビスの大災害を未然に防いでくれた、ジラントの方がずっと神々しい。
アシュレイの予定を無視して、そこにお節介なジラントの介入が加わった。ジラントは古の神と名乗り、その神性で人々を引き付ける。
これにより都市長、ギルド長、神父、巡礼者は、あっさりとジラントの信徒となって、今後の協力を約束することになった。
シンザはこの結果に深く当惑した。
かくして帝都を旅立って10日目、二人は聖都フィンブルへの護送任務を果たした。
シンザとカチュアは酒場で腹を満たしながら、帰りはラタトスクにある杭の迷宮に挑戦してみることに決める。
すると邪竜の書がこれに反応した。書によると、迷宮地下7階まで到達すれば、30倍の採掘能力をくれるそうだ。
趣味の発掘が大幅にはかどる。都市長たちとは会いたくなかったが、そのボーナスはあまりに発掘家シンザにとって魅惑的だった。
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禁断の同盟
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12-1 禁断の同盟 - 杭の迷宮へ -
何度見ても異様な土地だ。無数の白い杭が大地に突き刺さり、都市ラタトスクの中心と、その周囲をグルリと取り囲んでいる。
博識なユングウィ神父によると、気が遠くなるほど遙か昔に杭が現れて、その日よりここは迷宮都市として発展してきたという。
つまりこのラタトスクの町は、この白い杭と共に生まれたと言っても過言ではないそうだ。
そして不思議なことに、これに似た物が世界中にあるというのだから驚きだ。
「これでどうだ?」
「んーー……その付けヒゲは取ろうよ。だって若いシンザが付けると、もう冗談とか仮装にしか見えないもん」
まあそれはともかくだ。ラタトスクの郊外に着いたので、そろそろ変装することにした。
あの都市長含む、おっさんどもに見つかると面倒な上にやかましいからな。
「酷い言いぐさだな……」
そこで捨てるに捨てられず、あの日アトミナ姉上に大爆笑された付けヒゲを身につけてみたが、残念ながらカチュアにも不評だった……。
これを付けると男らしく見えるので、俺はとても気に入っているのだが……。似合わんか。
「でもその眼鏡はいいと思う! シンザが、ち……知的? 知的に見えるもん!」
「少し引っかかるような言い方だな……」
やむなく付けヒゲを取り外して、銀縁眼鏡をかけ直す。
さらに聖都フィンブルで購入した、巡礼用の麻のローブを身にまとう。これはどうもザラザラとして着心地が悪い……。
「うんっ、それならバッタリと遭遇でもしなきゃ大丈夫だよ、シンザには見えない。旅の――貧しい学者さん? に見えなくもないかな?」
「冒険者らしさの欠片もないがな。では行くか」
「んんー……」
「なんだ、何か問題あるか?」
「いや、んん……まあいいんじゃない? いこ!」
カチュアはしばらく俺のスコップをいぶかしむように見つめて、それからラタトスクの外壁に向けて駆けて行った。
市内に入ったら布袋でも買って、先端部分だけでも包んでおくべきか……。
◇
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簡単な買い物と腹ごしらえをしながら市内を進み、ラタトスクの冒険者ギルドに入った。
帝都のやつと違って、こちらはまるで役所のようだ。
それに迷宮という富に直結するせいか、規模もそれだけ大きい。いや、それこそが今は問題だった。
「七日待ちだと……?」
「ええーっ、そんなに待たされるのっ!?」
儲かるということは、それだけそういうことらしい。
予約リストはビッシリと、男どもの名前で敷き詰められれていた。
「実績のある方なら繰り上げも可能ですが、あなた方の場合は……」
ギルド長に悟られたくないので、俺はザンシという偽名を使った。
カチュアが俺の横顔を見つめて、礼のコネを使えと言っているような気がするな。
「シンザッ……お願い、七日も何もしないで待ってらんないよっ!」
「だが、せっかくの変装の意味がなくなるぞ……。俺はまた祈られたくは――」
「どうしますか? そろそろ後ろの方が、イライラし始めていますが……?」
だが七日も足止めを食らうよりはマシか……。
「ザンシという名は偽名だ。シンザで調べ直してくれ、そこそこの成果を上げている」
どちらも偽名だがな。
チラリと隣のカチュアをのぞき見れば、キラキラと輝く笑顔を俺に向けていた。
ついつい甘やかしてしまいそうだな……。
「こ、これは……!? 失礼しましたシンザ様ッ、強引にでも、明日中には探索できるよう手配いたします!」
「いやそこは穏便に頼みたい。都市長が出てくると面倒なのだ……」
「は、ではそのように!」
「あははっ、ジラント様々だね、シンザ」
「まあ、結果的にはそうなるのか……」
ジラントの笑い声が耳元に響いたような気がした。
まあそういったわけで俺たちは明日すぐに、白の杭・第七柱迷宮を下ることになった。
あらすじがあまりも長くなりすぎているので、今後短くする努力をします。
章が変わるたびにすみません。




