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11-4 おのぼりさんを育成しろと奇書が言う - 巡礼者と聖都 -

「で、何受けるんだ?」

「あのっ、なら二人だけでできる仕事がいいっ!」

「それもそうだな。その方がレクチャーしやすいか」


「ダメだコイツ……。なんか俺、カチュアを無性に応援したくなってきたぜ……」

「それと少し難しかったりキツいやつがいい。簡単だと成長も何もないからな」


 受付がバインダーの一つを棚から抜いて、パラパラとめくりだした。

 彼もカチュアに期待しているのか、俺の意見に反論はないようだった。らしくもない真面目な顔つきだったのだ。


「これと、これと……こいつあたりかね?」


 それからバインダーから依頼書を3枚外して、俺たちの前に並べる。

 それぞれ小規模の盗賊退治、魔獣討伐、巡礼者の護衛となっていた。


「シンザ、わがまま言っていいかな……。アタシ、これがやりたい」

「巡礼者の護衛か。一番ヌルそうな仕事に見えるが」

「へぇー、それでホントにいいのかよ? 報酬の欄よく見ろよルーキー、こりゃしょっぱいぜ?」


 ギャラはたった1000クラウン、二人で山分けすれば500クラウンぽっちだった。

 日程も片道5日の長い拘束時間となれば、受けたがるやつの気が知れない。


「巡礼者はあまりお金持ってないからしょうがないよ。それにアタシ、シンザのマネをしてみたい。困ってる人を助けたい」

「青くさ……やべ、朝から悪酔いしてきたわ……」


「じゃあ言い換える。同じ信徒を助けたい!」

「クソ真面目だねぇ……。俺、宗教くせー女はちょっとな、趣味じゃねぇわ」


 受付とカチュアのやり取りを軽く聞き流しながら、俺の方は依頼書を入念に眺めた。

 これのどこがキツい仕事なのだろうか。


「ああそこは心配するな、難しいクエストなのは保証するぜ。何せルートがルートだからな」

「どういうことだ?」


「依頼人に聞きゃわかる。さて、もっとお前らとご機嫌でお喋りしてぇところだが、そろそろ時間切れだ。さ、行ってこい」


 受付に依頼書の写しを手渡された。

 それを受け取って、俺たちは後ろのやつに順番を譲る。

 片道だけで5日間の長期遠征か。カチュアの育成という目的には叶っているかもしれんな。


「行ってみるか」

「うん! へへへ……これで、シンザと10日は一緒にいられる……」


「そうだな。いっぱい芋の話をしよう」

「ぇ……。もう、それは終わりでよくない……?」


「まだ半分も語ってないぞ。さあ行こう」

「え、ぇぇぇぇ…………」


 カチュアの手を引いて、芋についての雑学を語りながら、俺は依頼人との待ち合わせ場所に向かった。


「昔な、俺の――お爺さんがな。庭に小さなジャガイモ畑を作ってくれてな……。俺はそれを見て育ったのだ」



 ◇

 ◆

 ◇

 ◆

 ◇



 依頼人である巡礼者たちは、帝都南部にある大聖堂に滞在していた。

 華々しい国教会の格好と違って、薄茶色い麻のローブをまとった、素朴を通り過てみすぼらしい連中だった。


「良かった……。護衛がなかなか見つからず、ずっと足止めを受けているところでした。これからどうかよろしくお願いします」

「ああ……もしかしてアンタが巡礼者のリーダーなのか?」


 俺たちの応対をしたのは女だった。

 ローブの中から長い髪をたらした二十代後半ほどの美人だ。


「はい。わたくしはユングウィと申します。うふふ、これでも一応、巡礼神父なんですよ♪」

「神父さん!? シンザ、このお姉さん偉い人だよ! あっ、先に言っとくおけど、神父さんに失礼なこと言っちゃダメだよっ!?」

「なぜ俺が失礼であること前提なのだ」


「普通にシンザは失礼だよっ!」

「そうなのか……?」


 ハッキリと断言されてしまった。

 なるほど、自覚がないだけで、俺もギルドの連中と同じ穴のムジナだったのか。


「そうだよっ! 神父様、シンザは失礼だけど、それは悪気があるわけじゃないですから、先にアタシが謝っておきます! ごめんなさい!」

「そんな、感謝したいのはこっちの方ですよ。これからよろしくお願いしますね、カチュアさん♪」


 少し割愛しよう。そういうことで、俺たちは巡礼者を護衛して帝都を出た。

 護衛対象はぼろの荷馬車と、敬虔な信徒たち24名だ。


 わからんが12という数字にこだわりがあるらしくてな、巡礼はこの12の倍数を基準に行われるそうだ。

 そこそこためになったので、俺も芋の話をユングウィ神父その他に語りながら旅を進めた。


 目的地は聖都フィンブル。エルフとヒューマンの混血たちが暮らす帝国領だ。帝都からは東に向かって徒歩5日の距離となる。

 始めてみると悪くない仕事だ。スコップ背負った変わり者は、街道の先を監視しながら気ままに歩いた。



 ◇

 ◆

 ◇

 ◆

 ◇



 幸いなことにカチュアはこの依頼に向いていた。

 信心深い彼女はすぐに巡礼者たちと打ち解けて、円滑な協調関係を作り出してくれたのだ。


 おかげで俺もそこまで怪しまれることなく、巡礼者たちとやり取りができた。

 現在は帝都郊外を抜けて、建物もまばらな街道を進んでいる。


 高く昇った太陽は暖かく、それが広々とした万緑の平野を照らして、淡く世界を輝かせている。

 ジラントが俺の目を介して、俺の見る情景を眺めていると思うと、ちっぽけな光景も細やかな機微に富んで見えた。


「しかし、護衛をわざわざ付ける必要があるのか?」

「あら、ギルドから聞いておりませんか?」

「それがね、神父様。後ろがつかえてたから、直接依頼人から聞けって言われて……」


「わたくしのことはユングと呼んで下さい」

「ではユング、なぜ1000クラウンもかけて護衛を付けたのか教えてくれ」


 略称で呼ぶなんて失礼だと、敬虔なカチュアが難しい顔をした。

 悪いな。もし俺があがめる存在がいるとすれば、それはジラントただ一人だけだ。


 あの日、痛みを肩代わりしてもらって以来、俺はジラントに対する評価をあらためた。

 俺が信じる神はジラントだけだ。まあ、正確にはバカでかい竜様だが。


「はい、それは各地の聖地を回りながら進むので、主要な街道から外れたり、森や山道に入ることにもなるからです。それに巡る聖地の一つには、杭の迷宮(・・・・)も含まれていまして……」


 迷宮というワードにカチュアが強い興味を示した。

 隣の神父に振り返って、わくわくと目を広げていた。カチュアはずっと冒険者に憧れていたからな……。


「迷宮か。帝都ではあまり馴染みがないな……。しかし杭の迷宮とやらが、なぜ問題なのだ?」

「それはね! 迷宮に近い土地には、アビスの怪物が現れやすいんだって!」


 護衛の仕事中だというのに、はしゃぐようにカチュアが先行して、後ろ歩きで俺たちに向けて瞳を輝かせた。

 日に照らされる草原や小さな丘を背中にしょわれると、余計に輝いて見えるな。


「はい、実はそうなのです。一説によると迷宮はアビスに繋がっている、とも言われています。財宝をこの世界にもたらしますが、危険なことに変わりない――といったところでしょうか」

「気が知れんな。わざわざそんなところになぜ行きたがる」

「ほら失礼なこと言った! 聖地だから行かないといけないんだよ!」


 よくよく考えればジラント信徒は俺だけだ。

 ここにいる他の者は皆、敬虔な国教会の信者だった。

 いるかどうかすらわからない神より、実在する邪竜ジラントの方が俺の好みなのだがな。


「ケンカをするより旅を楽しみましょう。シンザさん、わたくしたちを心配して下さりありがとうございます」

「それもそうだな。しかし皆が皆、アンタみたいな物分りの良い聖職者ばかりなら、苦労などないのだが……」

「だからシンザッ、もう少し言葉を選んでよぉっ!?」


「無理だ。国教会にはバカも多い。俺の友人も店を潰された」


 ドゥリンが姉上の隣に収まってくれたのは安堵でしかない。

 このユングウィと、ドゥ・ネイル叔母上の地位を交換できたら、どんなにいいだろうな……。


「悪い、話題を変えよう。そうだな――芋の話をするか」

「あ、いいですね~、わたくしお芋は大好きです♪」

「ぇーー……。そこでまた芋の話に戻るんだ……」


 彼女ら巡礼者は清貧を好むため、俺が芋の話を始めると皆が話題に乗ってくれた。

 いや、カチュアだけはなぜか不満げだったが。

 晴天の街道は温かく、巡礼者たちとの話もよく盛り上がって、俺たちが期待していた以上に愉快な旅路が続いていった。


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