11-3 コリン村の田舎娘、帝都に来る - 今夜はお楽しみ -
公共風呂が気持ちよくてついつい長居してしまった。
特にぬるま湯で茹でられた鶏卵が美味くてな。気づけば3つも注文してしまっていた。
気に入ったのでまた来よう。
昼間は職人や隠居ジジィばかりのようだが、いかにも庶民的で俺の気質に合った。
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さてそういったわけで、湯上がりのホタルさんは冒険者ギルドを訪ねた。
時刻はもう夕方だ。そろそろ付近の酒場が開き始めるので、ギルドから酔っぱらいが減る頃だった。
「おっ、来たな色男。おおっ、こりゃ昼間から女遊びか?」
「相変わらず口の悪い受付だな……。汗まみれだったから、公共風呂に寄っただけだ」
「へぇ、ならその胸の花はなんだよ? ごまかすんじゃねぇよバーカ」
「花……? ああ、裏路地で小さな女の子から買ったんだ。花というのは高いのだな」
「…………嘘だろ、どこの金持ちのどら息子だよ……」
あきれ果てた目で俺を見たかと思うと、受付の男は独り言と一緒に遠くを見つめた。
わからん。何か間違いがあったのだろうか……。
「おい、花の代価はいただいたか?」
「代価? ああ、また町中で光ってしまってな、口止め料をかねて銀貨3枚を払って立ち去ったぞ」
「は!? ちっっげーよっ、このバカッッ!! 裏路地にいた、花売りから花を買ったんだろ!?」
「ああ、買った」
「買った、キリッ! じゃねーよ! いいかシンザッ、花売りってのはなーっ!!」
「そんな話はどうでもいい。それより仕事を斡旋しくれ」
なんの話かわからんが、多分どうでもいいことだろう。
それより早いところ仕事を受けたい。
多人数クエストとなると、参加申請して出発を待つ形になるのだろうか。少し楽しみだ。
「はぁぁぁぁ……ダメだコイツ……。早いとこ、俺が大人の遊び方を教えてやらねぇと……あ」
「今度はなんだ」
「おおそうだったわ、お前さんに言づてを預かってるぞ。女から」
「女……? まさかシグルーンが帰ってきたのか?」
「いやもっと若いやつだ。コリンのカチュアって名乗ってたぜ。いかにもおのぼりさんって感じでよ、かわいいじゃねぇのあの子」
「カチュアが帝都に来たのか? 驚いたな……」
まさかコリン村が滅びたというオチではないだろうかと、一抹の不安を覚えた。
「うちで仕事してんだよ。先日、イルミア大森林での薬草採集に向かったはずだ。シンザと同じ仕事がしたいって言ってたからなぁ……羨ましいねぇ?」
「おい、まさか一人で行かせたのか?」
「ああ、危険な森だが、複数人でやるような仕事じゃねぇ。今夜あたり戻ってくると思うぜ。薬草の鮮度もあるからな」
カチュアは冒険者になって、帝都で生活したいと言っていた。
まさか俺が帝国を捨てる前に会うチャンスが来るとはな……。
「ここの通りの酒場宿、ヨスガってとこに泊まってるそうだ。コリン村を救った、憧れのシンザに会いたいってよ。へへへ……今夜はお楽しみかもなぁ、シンザよぉ……?」
「アンタはどうしてそんなにスケベなんだ……」
「そりゃこっちが聞きてぇよ! お前こそ○○○付いてんのかよっ!?」
「下品だ……」
しかしこうなると、大金の稼げる多人数クエストへすぐに参加申請とはいかなくなってきた。
カチュアはちゃんと帝都に順応できているのだろうか。心配だ。
「あ、そういやお前、何しにきたんだ?」
「ああ、大口のクエストを斡旋してもらおうかと思ったんだが、カチュアが気になるな。悪い大人に騙されてないだろうな……」
様子を見ておいた方がいいだろう。
カチュアの弓の腕は確かなので、後は実戦経験だ。帝都に来るなり、俺の知らぬところで死なれても困る。
「ぎくっ……まあ、その気持ちはわかるぜ。ああいう垢抜けてない子はよ、おっさん連中にモテるからなぁ」
「わかった。カチュアには、アンタに気を付けるよう言っておこう」
「そりゃないぜシンザよぉー」
「冗談だ、ではまた来る。もしカチュアが戻ってきたら、ヨスガの酒場で待っていると伝えてくれ」
「わかった、今から一緒に飲もうぜ。ウガッッ?!!」
「あっごっめーん♪ トレイがすっぽ抜けちゃったー♪」
それはこの前も会った冒険者ギルドの酒場女だ。
鮮やかなフォームでシルバートレイが放たれ、受付の顔面に吸い込まれていた。
「シンザ、こいつと付き合ってると変態になるから、絶対止めといた方がいいよっ。カチュアによろしくね!」
「こちらこそカチュアをよろしく頼む」
俺はヨスガの酒場宿を訪ね、そこで腹ごしらえをしながらコリン村の田舎娘を待った。
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『アシュレイよ、どうやら書がそなたに呼応したようだ。確認してみろ』
二人がけの席で楽しく飲み食いしていると、向かいのイスに誰かが腰掛けた。
それはジラントの幻影だ。すぐに幻のようにその肉体がかき消え、俺は目を擦りながら邪竜の書を開くことになった。
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- 冒険 -
【新米冒険者カチュアを一人前にしろ】
・達成報酬 EXP800/STR+30
『新しき皇帝の重臣に死なれては困る、そなたの手で経験を積ませろ。アレは弓の腕だけは天才だ』
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「渡りに船だ。言われなくともそのつもりだったぞ、ジラント」
『であろうな。だが……客が奇異の目でそなたを見ておる。今のお前は、本に向けて喋る変人でしかないぞ』
感想、誤字報告いつもありがとうございます。
11章はこれから少しダレますが、12章から締め直してありますので、どうか甘口でお付き合いください。
いつも文字数がまばらですみません。




