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11-2 帝国を500km歩けと奇書が言う - ホタルと幼い花売り -

 翌日、何やらいい匂いと共に俺は目覚めた。

 それは石鹸だ。放蕩皇子は全身を丸洗いされて、その後に馬油から香油までベタベタと塗りつけられた。


 とてもではないが、昨晩の一部始終を姉の夫のジェイクリーザスには話せん……。

 だがまあそんなわけでな、若干の疲れこそ残っていたが、今日はなかなか悪くないコンディションだった。


 朝から宵まで一日中走り続けたというのに、こうして少し肩がこって足腰が張る程度で済むのだから、こうなると夢を見ているような気分にもなる。

 しかしこれは現実だ。ステータスの恩恵だ。そしてこれから俺は課題を達成して、超人の領域に至ることになるのだろう。


――――――――――――――

- 探索 -

 【帝都をもう10周しろ】9.25 /10周達成

 ・達成報酬 VIT+100

『あと3/4周だな。もはやそなたに馬など要らぬな。この記念に人力車を作らせて、我を引いて歩くというのはどうだ?』

――――――――――――――


「人を馬扱いするな」


『うむ? そなたの好む異界の本では、馬にされるのは、むせび泣くほどのご褒美だと描写されていたぞ?』


「アンタ……普段どんな本を読んでいるんだ……」


 邪竜の書を閉じて、今日は正門から堂々と宮殿を出た。

 人力車か。文句を付けてみたものの、発想そのものは悪くない。馬を連れ歩くより、俺が馬となった方がずっと手っ取り早いだろう。


「ん、ちょっと待てバカ皇子。お前なんかいい匂いするな……まさか、女か?」

「先輩っ、朝からバカ皇子はまずいですよっ。でも、確かにいい匂い……あ、あれ……こ、これは、確かアトミナ皇女殿下の――え、えっっ、アシュレイ皇子っ、まさかあなた!?」


 香油の効果かお肌がつやつやだ。

 髪も馬油のおかげで光沢があり、鏡を見ると微かに天使の輪に見えるくらいだった。


 しかしな、その香油も馬油も姉上のための特注品だ。つまり俺は今、姉上の香りに満ち満ちていた。


「お前よくわかるな……。んん、いやだが、マジでアトミナ様の匂いがする……。おいバカ皇子、お前死んだな。ゲオルグ様にぶっ殺されるのが見えたわ」

「アトミナ皇女様に手を出すなんて……見損ないましたよ俺! この、この変態皇子!」

「臭いと言われてデッキブラシで全身を洗われただけだ……。その後に姉上の香油を塗りたくられたのだ」


 かわいそうな俺の不幸話で同情を誘うつもりだったのだが、結果はやつらの目つきが陰気に燃え上がるだけだった。


「それ全部ご褒美だろがっ!!」

「俺だってデッキブラシで家畜みたいに磨かれて、オイルマッサージを受けたい! 先輩っ、コイツ! もうゲオルグ将軍に言いつけましょう!」

「頼むそれは止めてくれ」


 誇張された情報がもしゲオルグ兄上の耳に入ったら面倒だ。

 せっかく休暇を介して兄上の機嫌が良くなったのに、また小言を言われたらたまらん。


「知るかバカ皇子! アトミナ様の愛を一身に受けやがって! お前なんか堀に落ちて死ね!!」

「俺も臭いって冷たい目で言われたいよ!!」

「アンタら変態か!」


 もう付き合ってられん。

 俺は門衛という名の変態たちを無視して正門を抜けた。



 ◆

 ◇

 ◆



 いつものケバブサンドと、レタス入りのハムサンドを買って俺は帝都を再び走った。もとい食い歩いた。

 今回は時間の余裕もあったので、鍛冶屋に寄ってスコップの切っ先を整えてもらった。


「ほーっ、鋼鉄製のスコップか。いいなぁ、スコップにしておくのが惜しいくらいの業物だ。よし、ちょっと待ってな」

「むしろ俺はスコップじゃないとダメなんだ。剣を振ろうとするとな、なぜかすっぽ抜けたり、そもそも剣が鞘から抜けなかったり、ふざけているのかと怒られるくらい真っ直ぐに振れんのだ」


 手が空いていそうな鍛冶屋に頼むと、すぐに切っ先を研いでくれた。

 ずいぶんとやりにくそうだったがな。


「よしできた。面白い仕事だったから代金は半額でいいぞ。その代わりまた来い」

「それは助かる。以前に入った鍛冶屋には嫌がられてな、金物屋に行けと言われた」


「そうかい、許してくんな。職人は融通が利かねぇんだよ」


 支払いを済ませると、その鍛冶屋は携帯砥石までサービスで付けてくれた。

 よっぽど仕事にあぶれているか、あるいは鋼鉄のスコップを気に入ってくれたのだろう。


 彼と別れて俺は再び帝都を走り、屋台物を食らい、沢山の汗を流しながらこの大都市を眺めた。

 なんの変哲もない民の生活がそこにあった。露天商たちの大半は城壁の向こうの郊外や、近隣の町や村からやってきている出稼ぎだ。


 彼らはたくましくこの帝都で金を稼ぎ、必要な物を買い出しては住処に帰って行く。

 精一杯生きているそんな民を、奴隷荘園制度や、流通の独占で苦しめるなど、近くで見れば見るほど考えられんことだった。


 特権階級の視界に入らぬ者たちは、幸せに生きる価値すらないというのか。



 ◆

 ◇

 ◆

 ◇

 ◆



 さて、いつものように帝都北門からスタートして、時計回りに西門までやって来れば、俺は恒例通りホタルとなって輝いていた。

 西門は海運都市ナグルファルと繋がっていることもあって、物流がやたらに多い。


 とはいえ俺も発光するのに慣れてきた。

 敏捷性のままに赤の大通りから引き返し、目星を付けていた裏路地に逃げ込んだ。

 ところがそこに7、8歳の女の子がいた。


「あっ……てんし、さま?」

「違うな、俺は通りすがりのホタルさんだ」


「わぁ……ホタル、わたしはじめて見ました……」

「ああ、俺は特別に大きいホタルさんなんだ。みんなには内緒にしてくれ、光っているところを見られると恥ずかしい」


「はーい、わかりました、ホタルさん」


 このくらいの歳なら大丈夫だろう。

 俺はちょうど積まれていた木箱の陰に隠れて、邪竜の書を開いた。


――――――――――――――

- 探索 -

 【帝都をもう10周しろ】10/10周達成

 ・達成報酬 VIT+100

『喜べ、そなたは+65%もタフになった。毒を盛られたり、頸動脈に刃を突き立てられん限り、暗殺者はそなたを殺せん。もう少し筋力《STR》があれば、馬の代わりに馬車すら引けるだろう』

――――――――――――――


 それはまたシュールな喩えだ。

 面白そうではあるが、恥ずかしいと姉上は嫌がるだろうな。


――――――――――――――

- 探索 -

 【帝国を500km歩け】

 ・達成報酬 移動速度LV1(全ての移動速度+50%)

『これからは帝都の外を歩け。今のそなたなら、たかが500kmくらい余裕であろう。がんばれ』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 投資 -

 【合計1万クラウン使え】2978→6035/ 10000

 ・達成報酬 EXP1000/出会いの予感

『エリンへのそなたの投資分が加算された。そなたの懐に税収が入るようになれば、このミッションも一気に進むことだろう』

――――――――――――――


――――――――――――――

- 目次 -

【Name】アシュレイ

【Lv】31

【Exp】4410→4460

【STR】60

【VIT】153→253

【DEX】129

【AGI】210

【Skill】スコップLV5 

    シャベルLV1

    帝国の絆LV1

    方位感覚LV1

『今さらだがアシュレイよ。これは皇帝のステータスではないな……』

――――――――――――――


 一通り目を通して書を懐に戻した。

 たかが500kmと言い切るところが、相変わらずのジラントだ。


 それとエリンの税収か。全く計算に入れていなかったな……。

 とはいえそれは民の金だ。厳密には俺の金ではないぞジラント。


「ホタルさん、ホタルさん……」

「ん、どうした?」


 さっきの女の子がつぶらな瞳で、光らなくなった俺を見ていた。

 何か言いたいことがあるのか、背伸びをしながらこちらを見つめている。


「お花、買いませんか?」

「……貰おう」


「銀貨、一枚です……」

「わかった」


 それはどこにでも咲いているツユクサだった。これで銀貨1枚は高いが、口止め料としてはちょうどいい。

 3枚渡してから青く小さな小花を受け取って、俺は彼女に背を向けた。


 市民向けの安い公共風呂があったはずだ。

 そこで汗まみれの身体を清めて、それから冒険者ギルドに仕事を探しに行こう。


 暗殺者に負けないタフな肉体は手に入れた。

 俺の生存率が大きく上がった。だが姉上と兄上、ドゥリンとプィスを守るとなるとこの程度では足りない。


――――――――――――――

- 冒険 -

 【冒険者ギルドで1万クラウン以上の仕事をこなせ】

 ・達成報酬 EXP600/[帝国の絆LV+1]

『待っていたぞアシュレイ。早く我を大冒険に連れて行け』

――――――――――――――


 次はこのミッションを進めることにしよう。

 金も手に入る。経験値も悪くない。

 ドゥリンとプィスがこれでより優秀になるならば、それだけ状況も良くなるからな。


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