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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)vol,02<chapter,04>

 どこまでも続く青空。鮮やかな緑の草原と、はるか遠くの山々。絵に描いたような景色の中に、一頭の馬と、一人の青年がいた。

 草の中にすっぽりと埋もれるように、青年はその身を横たえる。

 近くで草を食む馬に、青年は問う。

「どうだい? 美味しいかい?」

 馬は青年の声に反応するが、わずかに耳を動かすのみである。

 これはただの馬。ゴーレムホースではない。口を利く機能もなければ、人語を理解する機能もない。当たり前の動物として、当たり前の反応を見せるだけだ。

「……そうだよね。美味しいよね」

 青年は寂しそうに、けれどどこかホッとしたように、モシャモシャと草を食む音を聞く。

「……不思議だよね。君は確かに生き物なのに、言葉が話せない。僕は言葉が話せるのに……」

 言葉を切って、自分の手をぼんやりと眺める。


 なぜ僕は、人ではないのだろう。

 こんなに立派な体があって、言葉も話せて、心もあるのに。


 空にかざした手のひらに、血の色が透けて見える。脈打つ血液は、体の隅々まで酸素と栄養を届けている。

 それでも違うのだ。

 この体は人工的に作り出されたもので、この心も、ゴーレム用の魔法を応用したまがい物と説明された。

 人間ならば喜怒哀楽がある。感極まって泣くことも、怒りに我を忘れることも、悲しみのあまり笑うしかないことも――あらゆる『理不尽な情動』が存在するのだという。

「……そういえば、僕、怒ったことって無かったなぁ……」

 パーティー会場でも、貴族院議会の議場でも、自分が侮辱されているのは分かっても、特に言い返そうという気にもならなかった。どうしていいか分からないから、笑って、堂々と尋ねた。「僕のことがお気に召さないご様子ですね?」と。

 次第に味方が増えていった。頭がいいとか、器が大きいとか、いろいろ言われたけれど、何のことだか分らなかった。思ったことを口にして、やるべきことをやって、確証のないことは喋らない。落ち込んでいる人がいたら励まして、困っている人がいたら助ける。たったそれだけのことを、淡々と続けていただけなのに。

「……ああ、そうか。これって……」

 気付いてしまった。療養所で使われる、介護用ゴーレムの行動パターンと同じである。

「それじゃあ、僕がここに来たのも……」

 あらかじめプログラムされたとおりの行動、ということなのだろう。

 この場所なら家の誰にも迷惑を掛けず、自然分解されるまで、絶対に発見されない。ゴーレムホースを使えば魔力の痕跡が残ってしまうが、乗ってきたのは本物の馬。すでに鞍も轡も外してある。気候の穏やかなこの土地、この草原ならば、馬は自力で生き延びられる。そのうちどこかの村にたどり着いて、新たな飼い主も見つかるだろう。

「……バイバイ、おやすみ。君は好きに生きるといい」

 自分に向けられた言葉だと分かったのだろうか。馬は青年に近づき、彼の顔をじっと覗き込んでから、名残惜し気に立ち去った。

 馬の気配が遠のいてから、青年はもう一度言った。

「バイバイ、おやすみ。みんな、好きに生きるといい……」

 静かに目を閉じて、青年は眠りにつく。




 そしてもう二度と、目覚めることはなかった。


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