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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)vol,02<chapter,01>

挿絵(By みてみん)




 五月某日、いつもと変わらぬセントラルシティの街並みに、ひどく不似合いな物体が出現していた。

 ズシーン、ズシーンと歩く巨大な何か。

 高さは十五メートル強、素材は主に石や泥で、形状は二足歩行の人型である。質感や挙動などからゴーレムであることは一目瞭然なのだが、どうにも理解に苦しむ点がある。


 胸元についた巨大な二つの岩の塊は、いったい何か。


 全体的に見ればどことなく女性のボディラインに近いのだが、とにかく粗悪な出来だった。素材として使用した岩石の凹凸はそのままだし、乳房らしき岩の位置と形はどこかおかしいし、腰から足へと続くラインには連続性も何もあったものでは無い。これはどう見ても、女性の身体をよく知らない童貞男の作品であった。

「う~ん、見れば見るほど、近年稀に見る駄作……」

「いったい誰が、何の目的でこのようなものを……?」

「あれ? マルコ、お前知らねえのか? ラブドール作ろうとして失敗するとこうなるんだぜ?」

「ラブドール……というのはまさか、その……」

「一人エッチ用の可愛いお人形。正規品をゴーレム職人に発注すると、最低でも五十万くらいするんだ。だから安く済ませようとして、市販のゴーレム呪符を違法改造する奴が後を絶たねえ」

「いえ、あの、ロドニーさん? 根本的な疑問なのですが……軽作業用ゴーレムに、欲情できるものでしょうか……?」

 通常のゴーレムは無機質でのっぺりとした顔をしていて、表情はない。『可愛いお人形』などという言葉とは遠くかけ離れた外見だ。何をどう改造したところで、女性に見立てて愛玩する対象となるとは思えない。

 問われたロドニーも、身振りだけで「ゼッテエ無理!」と示している。

「それでも作るんだから……相当不自由してるんだろうな……」

「それは……お気の毒ですね……」

「だな……」

 二人そろって、微妙な面持ちでゴーレムに目をやる。

 ゴーレムは市民グラウンドの前を、何をするでもなく歩き回っていた。植え込みの陰から様子をうかがう二人には気付いていない様子である。

「あの、ロドニーさん? あれが愛玩用ゴーレムの作り損ないだとしても……大きすぎませんか?」

「まあ、ここまでデカいのは俺もはじめて見るかな。だいたいは胸のサイズを大きくしようとして、書き換える箇所を間違えるらしいぜ?」

「胸ではなく、全体のサイズが大きくなってしまった、ということですか?」

「そう。呪符に刷り込まれた発動コードの、どの部分が何のサイズを指定してるかも分からず書き換えるもんだから……」

 ロドニーはその先は言わず、ゴーレムを指差す。

 確かに胸も大きいが、胴回りも腰回りも太く、ドラム缶を彷彿とさせるスタイルである。

「たしかに、あちこち出鱈目に書き換えてしまったようですね。ですが、サイズ指定部分だけを書き換えたなら、勝手に動いたりはしませんよね?」

「ああ。おそらく、行動プログラムも勝手にいじっちまったと思う。さっきから、無意味に歩き回ってやがるし……」

 何よりこのゴーレムは、本職の呪符作家ならば絶対にやらない、致命的なミスを犯していた。


 誰が「止まれ」と命令しても、まったくいうことを聞かないのだ。


「まあいいや。マルコ、作戦通りに行くぞ! 《緊縛》で押さえ込め!」

「はい!」

 マルコは植え込みから飛び出し、《緊縛》を使う。魔力の鎖はゴーレムに絡みつき、その行動を制限する。

 広い場所に誘導して動きを止め、ロドニーが魔法で粉砕する作戦だったが――。

「馬鹿! さっさと離れろ! お前がそこにいたら撃てねえ!!」

「いけません! そこに逃げ遅れた子供たちが!」

「何っ!?」

 マルコが指し示したのは市民グラウンドの備品倉庫である。遊具やスポーツ用品の貸し出しのため、昼間は鍵が開けられている。その倉庫の扉が細く開いていた。

 扉の隙間から外の様子を窺う子供たち。その姿を見て、ロドニーは盛大に舌打ちする。

 少なくとも五人。一番年長の子でも、おそらくは小学校就学前。

 これまでずっと避難を促す放送を流していたのだが、何しろ切迫した状況下でのこと。幼い子供たちにも分かりやすい、『優しそうなお姉さんの声で逃げる場所を的確に指示する放送』を行う余裕は無かった。子供たちだけで遊んでいたこのグループは緊急放送の内容が理解できず、手近な建物に逃げ込んでしまったようだ。

「クッソ! マジかよ! 大技が使えねえとなると……」

 ロドニーは撃ちかけていた攻撃魔法を解除し、腰の短銃を抜く。

「魔弾装填! 《ティガーファング》!」

 魔導式短銃は持ち主の声に反応し、エネルギーチャージを開始する。岩石の塊であるゴーレム、それも十五メートルを超える大型を沈黙させるだけの出力となると、充填完了までに数十秒を要す。その間、マルコがゴーレムの動きを封じていられるかが問題である。

「マルコ! 一分……いや、五十秒だ! 何とかもたせろ!」

「やってみせますとも!」

 マルコは強気に答えた。だが正直なところ、そこまでこの鎖を維持できる自信は無い。これはそもそも犯罪者を拘束するための魔法なのだ。モンスターやオートマトン、ゴーレムのように『人間よりパワーのあるもの』を押さえつけるには強度が足りない。

 魔力を過剰に送り込み、どうにか鎖の強度を高めてはいるが――。

「……くっ! ここまでか!」

 バツン、という鈍い音とともに鎖が弾け飛ぶ。しかし、ロドニーのチャージはまだ終わっていない。

 解き放たれたゴーレムはいかにも欠陥品らしく、目の前のマルコに掴みかかった。

「《銀の鎧》発動!」

 マルコは物理防壁では無く、《銀の鎧》を使った。

 確かにこの魔法は群を抜いて防御力が高い。けれど、掴みかかろうとしている手を弾き返すような効果はない。

「うぐっ!」

 ゴーレムの大きな手がマルコを掴み、両手でギュウギュウに締め付ける。

「マルコ! 何やってんだ馬鹿!」

 締め付けられながらも、マルコはニヤリと笑ってみせた。

「大丈夫です! これなら両手も塞がっていますし、次の攻撃の手は封じられたでしょう? さあ、今のうちに!」

「お前……あー、もう! どこでそういう無茶な戦い方を覚えたんだこの王子様は! 口閉じてろ! 舌噛むぞ!」

 言うと同時に地を蹴った。そして何もない空中を、階段でも上るように軽やかに駆け上がる。彼のもっとも得意とする風の魔法で、足元に圧縮空気の足場を形成しているのだ。

 出来損ないゴーレムは、背後から迫るロドニーに気が付いていない。

「オラアアアァァァーッ! 食らいやがれえええぇぇぇーーーっ!」

 ゴーレムの真上から発射される魔弾、《ティガーファング》。

 チャージする魔力量に応じて、魔弾はその破壊力を変える。最大出力で放たれた《ティガーファング》はゴーレムの頭、胴体、足までを一気に貫き、消失させた。

 ゴーレムは縦に一本、直径三十センチの穴をぶちあけられ、ゆっくりと崩れ落ちていく。核となる呪符が失われ、その形状を維持できなくなったのだ。

 ガランゴロンと騒々しい崩落の音。後に残るのは堆く積み上げられた岩石の山である。その山から這い出して、マルコは大きく息を吐いた。

「は~……死ぬかと思いました」

 あっけらかんと笑って言うマルコの頭を、ロドニーはポカリと殴る。

「いたっ! 何をするのです!?」

「そりゃこっちのセリフだ馬鹿! 一歩間違ったら死んでたぞ!」

「大丈夫ですよ! ロドニーさんが一撃入れるまでの時間なら、《銀の鎧》で十分防ぎきれます! 事実、そうなったでしょう?」

「結果論じゃ駄目なんだっつーの! チャージ中に俺の銃が不具合起こしたらどうする気だったんだ!? 絶対に無いとは言い切れねえだろ!?」

「それは……考えていませんでした」

「考えろ! 常に最悪の状況を! でないと、本当に死んじまうんだからな!」

 強い語調で一気にまくし立ててから、ロドニーは不意に表情を緩める。

「……ホント、無事で良かったぜ……」

 ほら立てよ、というように、スッと手を差し伸べる。

「ロドニーさん、こういうところ、本当にずるいですよね……」

「あ?」

 ロドニーの手を取って立ち上がりながら、マルコは口を尖らせる。

「タイミングが絶妙過ぎて、反論できません」

「タイミング? 何がだ?」

 本気でキョトンとしているロドニーに、マルコは大きな溜息を吐く。

(本当に無自覚なんですから、かないませんね……)

 飴と鞭なのか、ツンとデレなのか、『戦闘用』と『普段用』の使い分けが上手い。戦闘中の圧倒的強さと、普段の親しみやすさ。そのギャップは見れば見るほど、どんどん惹き付けられていく不思議な魅力があった。

「なあ、なんだよ? タイミングって? 俺、なんかやったっけ?」

「いえ、なんでもありません。それより、子供たちを親御さんのところへ帰して差し上げましょう。可哀想に、みんなすっかり怯えて……」

「お、そうだな。おーい、悪いゴーレムはやっつけたから、もう大丈夫だぞ! 出て来いよ!」

 ニコッと笑うと、童顔のロドニーは実年齢より十歳近く下に見られる。子供受け抜群のヒーロースマイルに、子供たちはようやく安心したようだ。一斉に駆け出し、ロドニーに群がってくる。その数なんと――。

「えーと……二十……じゃない。二十一人か。意外といたなぁ~……」

「広場で遊んでいた子供全員が、ここに隠れてしまったのですね……」

「緊急放送の在り方が問われるな、こりゃあ。よーしお前ら、このまま、一度病院に行くからな! そこでお医者さんに、怪我がないか診てもらおう! それから、お母ちゃんにお迎えに来てもらうぞ! はぐれるなよ!」

「隣の子と、手を繋いでくださいね~」

 子供たちにとっては『格好良いヒーロー』と『優しそうなお兄さん』だが、彼らは伯爵家の子息と王子である。無邪気な子供たちを迎えに来た母親らが、一瞬で顔面蒼白になったことは言うまでもない。




 翌朝、特務部隊オフィスでのこと。

 いつも通り定刻出勤したロドニーとマルコは、階段を上ったところでオフィス前の人影に気付いた。

 二人を出迎えたのは総務部の三人娘、リナ、サーシャ、ミリィである。

「あ~、やっと来ましたぁ~! おはですぅ~!」

「どーもーっ! おっはよーございまーす!」

「おはようございます、ロドニーさん、マルコさん♪」

 栗毛のお団子頭のリナは身長百四十センチ。甘えたような口調で、ピョコピョコ可愛らしく動き回る。

 金髪のサーシャは身長百七十五センチのスレンダー美女。いつでもどこでも元気いっぱいの、サバサバ系女子だ。

 ゆるくカールした赤毛を三つ編みに結ったミリィは、身長百五十五センチ。三人の中では一番落ち着いた性格で、主にツッコミを担当している。

「おっす! 朝っぱらから元気だな、お前ら」

「おはようございます。どうされました? オフィス前で待ってらっしゃるなんて」

 総務部は本部庁舎二階、特務部隊は五階。三人はわざわざ上のフロアまでやってきて、彼らを待っていたらしい。

「それはぁ、リナちゃんがご説明いたしまぁ~す!」

 ぴょこんと進み出たミニマム娘は、平らな胸を目いっぱい反らせて宣言する。

「今日から私たちはぁ、特務部隊専属事務員になったのでぇ~す!」

「え! マジか! うちの要望書通ったんだ!?」

「はぁい! これまで皆さんの頭を悩ませていた関係各所への連絡、各種書類の作成業務はぁ、ぜぇんぶ、私たちがパパッと片付けちゃいまぁ~す!」

「うおおおっ! ありがてえ! マジで死ぬほどありがてえぞそれ! じゃ、さっそく中で……」

「ストップなのです!」

「ん?」

「オフィスは別なのです!」

「えっ? なんで? 一緒の部屋で作業したほうが効率良いだろ?」

「ダメなのですぅ! だってこのフロア、女子トイレも女子更衣室も無いのですぅ~!」

「……なるほど。そういやここ、完全にマッチョの巣窟だったな……」

「なのでぇ、私たちは今まで通り、総務部の合同オフィスでお仕事してるのですぅ。任務に出るときと戻ったときには、二階に寄ってほしいのですぅ」

「了解。領収書とかまとめて持って来い、ってことだよな」

「はぁい! あ、あとこれ、今日の朝刊ですぅ!」

 ズイッ! と差し出された新聞を笑顔で受け取り、ロドニーの表情は凍りつく。

「応援してるのですぅ!」

「アタシら、兄さんたちの味方だかんな!」

「差別や偏見に負けないで♪」

「ではでは、失礼しますなのですぅ~!」

 言いたいことだけ言って、キャアキャア騒ぎながら去っていく。嵐のような三人娘が立ち去った後には、燃え殻のようになった二人の男の姿がある。

「……マルコ……どうしようか、この記事……」

「こ……こんな絶妙な角度から撮影されていたとは……」

「やられたな……」

「ええ……」

 二人が目を落とす新聞の一面には、昨日の暴走ゴーレムの一件が掲載されている。事件の概要よりも何よりも、まず目を引くのが中央の一番大きな写真と、その見出しだ。


〈独占スクープ! マルコ王子と次期伯爵の禁断の関係!〉


 マルコの手を取って立たせたときの写真だが、手を差しだしたロドニーの顔が写る角度で撮られている。つまり、マルコは後ろ姿。差し出された手を掴みつつ、立ち上がろうと腰を浮かせたその瞬間を後ろから撮ると――不思議なことに、片膝をついて、ロドニーの手に口づけているようにしか見えなかった。

「……これだけ見たら、ものすご~く熱烈なプロポーズだな……」

「ロドニーさんの表情も、また、いい具合に……」

「このとき何話してたっけ? たしか、なんかお前がワケわかんねーこと言ったから、聞き返してたような……」

「何の話だったか覚えておりません」

 ということにして、これ以上蒸し返されることを阻止した。この話の流れで『ツンとデレの匙加減が大好きです』とは言えない。あくまでも友達としての『好き』なのだが、今言ったら、確実に妙な空気になる。

「それにしても、う~ん……特務入り一週間で、いきなりゲイ疑惑が来たか……」

 マルコが女王の隠し子である事実は二週間前に公式発表されたばかり。しかし、王室から写真は提供されていない。今はどこの新聞社も、マルコ王子の写真を撮ろうと躍起になっている。

 二人はここ数日、行く先々で大勢の記者に囲まれた。けれどもマルコは臆することなく、堂々と、どんな質問にもソツなく答えていた。その反応に、ゴシップ系新聞社の記者らは少々物足りない顔をしていた。新聞記者である以上、どうせ撮るなら特ダネが欲しいのだ。

 すぐ傍で見ていたロドニーは、このままでは悪質なデマを書く者が現れそうだと思った。だがそれは『いつかそのうち』の話で、こんなに早くその日が来るとは思いもしない。ましてやその内容たるや、完全に予想の右斜め上を行っている。

 放っておけば自然消滅する噂かどうか、見極めは慎重に行きたい。しかし今はやるべきことが山積みになっている。昨日の暴走ゴーレムは馬車での移動中、たまたま現場に居合わせてしまったのだ。あの現場の前に一件、後に一件受け持っていたため、今日は三つの事件の報告書をまとめねばならない。

「ま、いいや。こういうのは、あんまりひどくなったら情報部のほうが何とかしてくれるはずだから。とりあえず報告書あげちまおうぜ」

「ですね……」

 朝からひどく疲れた顔をして、二人はオフィスに入った。

 するとそこには、疲労感を増大させるに十分なパーティー仕様のデコレーションが施されていた。

「……あの、隊長。これはなんですか?」

 ピンクの造花をせっせと飾り付けていた青年は、満面の笑みで振り返る。

 彼はサイト・ベイカー。特務部隊長という御大層な肩書を持ちながら、外見上はまるで十代の少女、それもトップアイドル級の美少女である。彼はその華奢な体つきと中性的な顔立ち、アルビノ特有の色彩のせいでか弱く見られることも多いが、これでも一応、国内屈指の剣術の達人なのだ。

「おはようロドニー、マルコ! 婚約おめでとう!」

 もちろん本気ではない。爆笑しそうなのをこらえているせいで、声が震えている。

「隊長まで何乗っかってんですか! 俺もマルコも、そっちの趣味ありませんからね!」

「あっはっは、そうムキになるな。別にこれはお前たちのために用意しているわけでは無いぞ」

「え? じゃあ、なんですか?」

「ゴヤの誕生祝いだ」

「あ! そうか! あいつ、今日誕生日でしたっけ!」

「そう! だからいいか、二人とも。オフィスに入った瞬間に『ハッピーバースデー』だからな? それまでは絶対に悟られるな。パーティーなんか無い。今日は平日。いつもと同じ普通の日。そういう雰囲気を造り出すんだ。分かったな?」

「了解。サプライズってやつですね。でもあいつ、今まだ西部じゃないんですか?」

「いや、今朝方、夜行列車で中央入りしている。ここの飾り付けが終わるまでの時間稼ぎに、調査名目である屋敷に立ち寄ってもらっているのだが……」

 中途半端な場所で言葉を区切るベイカーに、ロドニーは非常に嫌そうな顔をする。

「なんです? あいつ、また何かヤバいもんにブチ当たってるんですか?」

「うむ、おそらく」

「詳しくお願いします」

「それが、実はな……」

 ピタリと息の合った二人の会話を聞きながら、マルコはどうでもよいことを考えた。

(隊長が必要以上に男言葉を使われるのは、やはり見た目の問題が……?)

 これで話し言葉まで女性的だったら、まず間違いなく、血迷う男が続出する。きっちり男言葉を話している今でさえ、騎士団内に本人非公認の『ベイカー隊長ファンクラブ』が存在するというのだから――。

(いや、それにしてもこのお二人……特にベイカー隊長は……)

 見れば見るほど不思議に思う。童顔の人というのは、顔立ちが子供っぽいせいで実年齢より下に見られるというだけで、肌や筋肉は年相応に老け込んでいくものだ。だがベイカーは、間近で見てもそれが無い。

(この人は……一週間放っておいても、髭も生えないのでは……?)

 本人には絶対に言えない感想である。

「……と、いう事なのだ」

「なるほど……」

「さすがはゴヤだぜ。100%の確率で面倒事を引き当てやがって……」

 粗方の事情を聴き終えた二人は、さっそく出発することにした。

「昨日の三件分の報告書、提出期限延ばしてくださいよ?」

「分かっている。明後日の朝まで待ってもらえるよう、事務方に話を通しておくさ」

「それじゃ、行ってきます」

「健闘を」

「吉報を待たれよ」

 拳をこつんとぶつけ合い、笑顔を交わす。

 いずれも童顔のベイカーとロドニー。美少女風の隊長と、少年ヒーローのような隊員。しかし家の格は、騎士団内の階級とは逆で――そんな二人を見て、マルコは、またもどうでもよいことを考えた。

(同性愛疑惑を浮上させるなら、この二人のほうがお似合いなのでは……?)

 やはりこれも、本人には絶対に言えない感想である。


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