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第八話

 『姉さん、聞こえますか?』


 『ああ、セルフィ、少し交戦中だが問題ない』


 レフィーユとの反対側から潜入して、半狂乱になった中毒者を相手をしていると耳に掛けていた受信機からそんな会話が聞こえてきた。


 どうやら治安部の応援が到着したようだった。


 『それで漆黒の魔道士は、発見できましたか?』


 『そんなに早く結論を出すのは感心できないな。

 まだ、ヤツの仕業だと決まったワケではないだろう?』


 『ですけど、今までのケースと似てます。

 もう間違いなく、彼の仕業だと私は思いますが?』


 『まったく…』


 自分も頭を抱えたくなる様な会話が耳元に届く中、狂乱者の剣が自分に振り下ろされてきたので、闇を纏った腕でそれを受け止めて、そのまま顔を殴り、怯んだところを飛び蹴る。


 気絶したのを確認して、またイヤホンで二人の会話を聞く。


 『…だから、今近くをパトロールをしていたのは私だけで、ホントの応援が到着するはもう少し掛かりそう。ごめんなさい、姉さん』


 『何を謝る必要がある。このビルは4階建てで大きい方だが、幸いこのビルの避難は完成しているのだ。少数精鋭で叩けば良いだけの話だろう?』


 『そうだけど…』


 一旦、考え込んだのかしばらく応答がなかったが、やがて意を決したのか『わかった』と明るい調子でこう言った。


 『姉さんは、今、三階にいるのよね?』


 『ああ、そうだが?』と姉の言葉を聞いている自分もちょうど三階にいた。


 『じゃあ、裏側から潜入するから』


 『おっ、おい、ちょっと待て』


 『心配しないで、こういう場合、挟み撃ちが上策でしょう?』


 まあ、セルフィはどうして『裏側』から潜入するのがいけないのかわからないから仕方がないだろう。


 『じゃあ、行くから』


 と言って、姉が『待て』と止めるのを聞きながら、自分は鉢合わせをするのを警戒して、さっさと目の前にある電源の止まったエスカレーター目指して軽く走っていた。


 丁度、エスカレーター近くの大きな窓に走り寄った時だろうか…。


 「はああっ!!」


 ガラスが横一閃に亀裂が入り、次の瞬間、窓を蹴り破ってセルフィが入ってきた。


 「ふん、漆黒の魔道士ね。

 姉さん、見つけたわ」


 …おそらくセルフィの付加能力だろう。


 まだ、詳細はわからないが何らかの方法で三階までの跳躍を完成させたらしく、ここに逃げ遅れた本物一人いた。


 「ふん、今度は逃がさないわ」


 「私は貴女に用はありませんのですが…」


 「貴方に無くても、私にはあるのよ。

 あの時の屈辱、ここで晴らさせてもらうわ」


 「言ったでしょう、私は『偽者』に用があるのですよ?」


 「この期に及んでまだ、偽者って言うの?」


 セルフィが呆れながら言ったその時、自分のイヤホンから少し緊張した感じの声をしたレフィーユから通信が入った。


 『セルフィ、聞こえるか?』


 『何、姉さん…』


 『そこに漆黒の魔道士は、ホントにいるのか?』


 何らかの形でバレるのを警戒した受信のみのイヤホンから、レフィーユが確認するように聞いてきた。


 『ええ、ここでまだ偽者だって言い張っているけど?』


 『奇遇だな。私の前にも漆黒の魔道士が立っているぞ?』


 セルフィは、その一言に思わず自分を見たので慌てて誤魔化すように突き破った窓の方を見た。その間、レフィーユは戦っているのだろうか、しばらく応答が無かった。


 『…まさか私のサーベルまで溶かすとは、アイツの報告どおり大した熱量のようだな。

 だが、これでどうやら私の方が噂の偽者に出会えたようだ、すぐに来てくれ』


 『ここに本物がいるのよ。

 だったら、こっちの方を優先した方が…』


 『待て、この事件を引き起こしたのは偽者なのだぞ?』


 『姉さんこそ、何で偽者がこの事件を引き起こしたと考えられるの?


 ここに本物がいるという事は、姉さんの前に立っている偽者に罪を着さようとしている可能性だってあるじゃない』


 『だったら、どうしてここに偽者がいるのだ!?』


 『そんなのわかんないわよ!?』


 次第に口喧嘩に発展し出したので、そのまま逃げようかと思ったがセルフィはこんな状況でも自分から一切視線を外していなかったので、代わりに手を上げて聞いた。


 「何!?」


 「あの〜、セルフィさんはどう思っているのですか?」


 「アンタがやったんでしょう?」


 『ふん』とハルバートを自分に突きつけながら答えるセルフィを尻目に今度はレフィーユに聞いた。


 「レフィーユさんは偽者の仕業だと?」


 『当然だ』


 「じゃあ、レフィーユさん。

 そのまま偽者の確保に向かっててください」


 『…お前はどうするのだ?』


 「私はセルフィさんの相手をします」


 『……』


 「私だって、偽者に用があるのですけどね。

 ですが、こうなった以上、やるしかないでしょう?」


 まだ考えているのだろうか、またしばらく応答の無かったので、続けてこう付け加えた。


 「ご心配なく、妹さんに怪我はさせませんよ」


 すると『わかった』と一言、『気をつけてな』と付け加えるとそのまま通信が切れた。


 「今、普通に姉さんと話してなかった?」


 「ご心配なく、貴女の姉さんの特殊能力ですよ。

 どんな原理かは、わかりませんが次の日には貴女が通信でそう伝えた事になってますよ。」


 「…まあいいわ、でも随分と私を見くびってくれるのね?」


 「見くびるも何も、貴女がそこを退いてくれれば良い話でしょう?」


 「人を頑固者みたいに言わないでよ。

 わかんないわよ。素直に『退いてください』と言えば退くかも」


 「だったら、退いてください」


 「…退くわけないじゃない」


 「素直に頭まで下げたのですよ」


 「知らないわよ。まったく、あの人といい、貴方といい、姉さんが住む町には貴方みたいなのばっかりがいるの?」


 「『あの人』と言いいますと?」


 「噂には聞いた事あるでしょう。姉さんと付き合っている、あの人の事よ」


 「会った事はありませんが、確かとても普通な人だと噂には聞いた事はあります」


 そう言うと、セルフィは少し考え込んで聞いてきた。


 「貴方もやっぱりあの人の事を『普通』だと思うの?」


 自分の事を『賢い』と言うほど愚かではない、だから他人の評価を口にしたのだが、それが彼女にとって何が気に喰わなかったのか黙ったままだった。


 「セルフィさんはその彼の事を、どう思っているのですか?」


 「…正直、普通すぎて呆れてるわ」


 「呆れては失礼でしょう?」


 「うるさいわね、ここに本人がいないんだからそれくらい言わせてほしいわ。

 でも…」


 「でも?」


 「昔ね、姉さんが顔色を変えて『協力してくれ』って、頼まれた事があったの。


 最初は、この地域の学園生徒の全員の顔写真を印刷して姉さんに手渡すだけだったんけどね…どうしたのよ?」


 「嬉しそうな顔をしてましたからね。つい笑ってしまいました」


 「ふん、まあそうかもしれないわ。


 姉さんって、昔から何でも一人で解決するトコロがあるからね。


 そんな姉さんが、始めて『協力してほしい』って言われてたのよ?


 姉さんを助けようと白薔薇に入ろうと考えたのもの、その時かも。


 でもまさか…」


 「あんな普通な人だったと?」


 「ふん、余りにも『普通』すぎてるのよ」


 「どういう意味ですか?」


 「その言葉通りよ。人間というのはね。


 『身体を動かすのが得意』だとか『物が作るのが得意』って感じで、昔から何かしら数値的に特化している生き物なの。


 実際見た私が言うのもなんだけど、あそこまで普通だと異常だと思うわよ」


 「なるほど、それで『調べてみた』のですか?」


 「ふん、別に私は姉さんが選んだ人をとやかく言うつもりは無いわ。


 だけどね『どうしてですか?』なんて聞いて来そうだから言ってあげるけど。


 多分、私は大半は貴方のせいだと思っているの。


 貴方に会わなければ無ければ姉さんは、あんな偏差値や品格の低い学園に転校する事なんて無かった…」


 後半部分は『漆黒の魔道士』に対する敵意だろう。

 ハルバートをくるくると回して、身構えて言い放った。


 「貴方のせいで姉さんの輝かしい功績に泥を塗ったのなら、貴方は私の敵よっ!!」


 まるで次の瞬間にも飛び掛って来そうな雰囲気だったので、こっちも肩を擦りながら身構えて答えた。


 「行きますよ…」


 ……。


 飛び掛るセルフィの斧撃を避けて、蹴飛ばそうと回し蹴るがそれを槍の中程で受け止められるのを目で追っていると、セルフィはそれを『クルリ』と返して、斧刃が自分に襲い掛かる。


 慌てて後ろに飛び退いた…フリをして自分の影の形をしたに闇がムチしなり、セルフィに襲い掛かりセルフィの足に当たって、自らの法衣の中に戻ったトコロで聞いて見た。


 「まだ、やりますか?」


 首を振りながら息づかいの荒いセルフィに対し、まだ自分は余裕だった。


 戦ってみてわかった事だが、確かにセルフィは戦闘レベル、身体能力においてどれも高いレベルだったので『天才』だとつくづく思った。


 もし彼女と自分が同年代だったら負けていただろう、だが年齢の差だろうか経験の差だろうか、ここに立っていたのは『漆黒の魔道士』である自分だったが、セルフィは構わず悪態をついた。


 「『漆黒の魔道士は、失われたかつての護身術から生まれた亡霊だ』


 って、あの噂はホントだったのね。それは『ボクシング』?」


 「空手ですよ」


 「ふん、そんな古臭い技能に頼るなんて、噂どおりのとんだ『狂人』ね」


 「強がるのはいいですが、息が荒いですよ?」


 「ふん、これからよっ!!」


 そういって、セルフィの踏み込んだ一撃で旋風が生み出されるが、それを今度こそ飛び避けてハルバートの上に乗って、周囲が見える頃にはセルフィの肩を蹴り付ける。


 「くうっ」と肩を抑えながら果敢に前を向くセルフィに対して、漆黒の魔道士の腕から地面を伝って黒い水流がセルフィに向かっていた。


 それが見えたのだろうか、セルフィはハルバートを上に振り回して跳んだ。


 漆黒の魔道士に一撃を加えるためだろう。


 …だが、漆黒の魔道士はただ『水流』を作ったワケではない。

 

 手を握ると、その水流からまるで滝がさかのぼる様に、セルフィを捕らえんと数本延びた。


 その時だった…。


 あり得ない事が起きていた。


 跳んでいたセルフィの身体が『クルリ』と一回転したのまではいいだろう。


 だが、物理的に上に行くはずの身体が、急に『降下』したのだ。


 その事で、一つわかる事は一つ、セルフィは東方術の付加能力を使ったのだろうと感じた時には…。


 「はああっ!!」


 ハルバートが自分の身体を突き上げていた。


 普通なら『絶命』するだろう。


 だが、魔法が使えるこの時代において『防御本能』という魔力の続く限り、目で追う事で働く『守り』があるが、その守りは『痛み』を残す。


 しかし、相手は『闇』を扱う魔道士、その身にまとう法衣はただの布ではない、『闇』を凝縮して作った鎧なのだ。


 『防御本能』と『闇』で確実な守りを固めた魔道士はハルバートを握り、ただ一言、セルフィにいう。


 「捕まえました…」


 その瞬間、自分を捕らえる気なのだと理解したのか、セルフィは慌てて武器を手放そうとするが、もう遅く、侵食は完成していた。



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