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第六話

 PCから、変な音がしてました

 「ふっ、結局来たのか?」


 セルフィは信じられないような顔をしながらやってきた。


 …ほんの数十分前、調査と交流を兼ねた合同会議から帰ってきた私はアラバの部屋の前にて今回の事を相談しようとノックをするが、あいにく彼はいないらしく返事はなかった。


 「あの人なら今日遅くなるって、これを提出して外出しましたよ?」


 外出届けらしき紙切れををヒラヒラとさせながら、一緒に帰ってきたセルフィは自分にそれを手渡して腕組みしながらぼやいた。


 「一体、どこに遊びに行っているのやら…って、姉さん、ごそごそ何してるの?」


 最近、ふと思う事がある。


 空調完備に防音素材の壁、ユニットバスは仕方ないにしても全自動高速洗濯及び、乾燥機、安全ガラスに防火、警報設備の充実。


 その点において、この寮は白鳳学園の寮より充実しているといえるだろう。


 だが…


 「それ、どうしたの姉さん?」


 いくら私が元リスティア学園に在籍していたとはいえ、今は白鳳学園の生徒だ。


 ガチャ…。


 そんな私に、しかも先生自ら、この寮の全体の鍵を渡すのは、いくら何でも無用心だと思うのは私だけなのだろうか?


 驚くセルフィを尻目に勝手に上がらせてもらう事にした。


 そんな数十分後…。


 「だがな。セルフィ何をそんなに驚く必要があるのだ?」


 「当然じゃない、だってここ男の人の部屋よ…」


 「ふっ、男の部屋に入るのは初めてか?」


 「そうですけど、何もそんなトコロで…」


 「じゃあ、来なければいいじゃないか?」


 「そういうワケには行かないわ。


 姉さんの言うとおりなら、あの人が重要な情報を持って帰るハズなのでしょう?」


 「自分から一枚、写真を借りたいと言ってきたからな。


 ああいう時のアイツは、必ず何かを持って帰ってくる」


 「随分、あの人の事、信頼してるのね?」


 「まあ、アイツとは長い付き合いだからな。


 信用くらいは出来るさ」


 「ですけど、姉さんの事をあんな風に言う人、私は信用なんて…」


 セルフィが彼を信頼出来ないのは、今に始まった事ではない。


 だが、おそらく前の授業が決定打となっているのはあきらかだろう。


 それは2校の合同授業で、どうすれば治安を未然に防げるか、どうすれば防犯意識を高める事が出来るかというのを授業の中で班を作り、話し合っている時だ。


 「…つまりレフィーユさんが存在してさえいれば、治安が下がる事はないと思います」


 「私もレフィーユ隊長の援護をしっかり勤めることが出来れば、さらに治安が上がると考えてますよ」


 ヒオトとミュリの二人が、私に賞賛を送る。


 おそらくセルフィが『ある人物』に向けて、私の凄さを知らしめたかったのだろう。


 その効果は白鳳側の生徒も頷くような内容ではあったが…。


 その人物は『我、関せず』と言わんばかりに居眠りをしていた…。


 この男の居眠り、漆黒の魔道士として行動しているから疲れているのもある。


 だから普段は私は寝させておいてやるのだが、こういった防犯意識向上の授業だけ、何故か寝ているので、身体を揺すって起こして聞くとあくびをしながら答えた。


 「結局、レフィーユさんを馬車馬(ばしゃうま)の様に働かせてさえいれば、治安は良くなるというのが結論でしょう?」


 当然それを聞き捨てならないと反論するのは、同じ班になっていたセルフィだった。


 「ふん、言ってくれるじゃない。


 姉さんは下がる事の無い犯罪発生率のこんな世の中で、その発生率を抑える事が出来た人なのよ。


 指揮能力だけじゃない、実力、カリスマ性、今までみんな犯罪という『悪』に苦しめられていた。


 みんなが待ち望んだ。正義の『英雄』という存在の誕生を称えて何が悪いのよ?」


 この授業は『応援』する授業ではない事は私も薄々気付いていたので、そろそろ注意しようと口を開こうとするが彼と目が合う。


 普段なら構わず言葉の一つは出すトコロだろうが、彼の目が哀しそうな目をしていたので口を紡いだ。


 「確か、世界に民衆が生まれた時、それを苦しめる『悪』が生まれ、その『民』を嘆きに答えるように『悪』を打ち滅ぼす『英雄』が生まれた…でしたっけ?」


 「ふん、貴方にもその程度の博学があるようね?」


 「そんなゲームをやった事がありますよ」


 『ただ…』と言ったきりため息を付いて、また私を見つめ、セルフィに向かってとても静かに言った。


 「その続き、答える事が出来ますか?」


 セルフィは口を閉ざしたまま彼を睨みつけたのを見て、そして続け様に彼は何かを言おうとしたが、誰かが割り込んできた。


 「アラバ、レフィーユさんの妹さんに対して何て事を…」


 そのままセルフィの手を握り、同じ班になっていた。


 この男は演技の掛かった仕草でセルフィに言った。


 「すいません、この男は礼儀がなっていないのですよ。


 このジング…」


 『お詫びします』と深々とワザとらしく、その手を両手で握ったのをみて、彼も興が冷めたのだろうか、この男の愚痴に耳を傾けていた。


 「…ですが、悪を滅ぼす為にレフィーユさんのような英雄が生まれたとは、何ていいお言葉だ。


 さすがレフィーユさんの妹のセルフィさんだ。


 それをこの男は『ゲーム』で使われているなどと…」


 ―『謝れ』と言って来たが、アラバは我関せずと居眠りを再開していたからだろう。


 「だが、そこで立ったままというのはどうかと思うぞ?」


 さっさと入れと促しているがセルフィは一向にそこを動こうとしなかった。


 「だけど、こんなトコロ、誰かに見られたら…」


 「こうやってトビラを閉めれば、見られるワケもないだろう」


 「そ、それもそうだけど、もう…まあいいわ」


 「…しかし、セルフィよ」


 「何ですか、姉さん?」


 「…見事なモノだな。


 一体『ソレ』はどうやったらそうなるのだ?」


 「もう…姉さんだって、ある方だから良いじゃない…」


 ガチャ…。


 その時『ふぃ~』と帰宅独特の一息を着きながら、ドアを開けた。


 この部屋の主は硬直していた。


 「…何やってるのですか?」


 「お前、こういう時は『ノック』する事を知らないのか?」


 「お言葉ですがレフィーユさん、玄関を開けた時、空調が効いておりましたが、これは白薔薇学園寮の特徴ですよね。


 そして、リビングには電気が付いてなくて、何故か『ここ』だけが電気が付いていて光が漏れてました。


 普通は『何だろう?』とか『あれ、電気付けっぱなしだったかな?』と考えながら、特に私は後者ですよ?


 そう考えて、この『ドア』をノックもなしに開ける事は普通だと思いませんか?」


 そういえばセルフィは自分の使わない部屋の電気は消す癖があった。


 「とりあえず私は自分の衣服のボタンを止めるだけだが…。


 どうする。セルフィ?」


 シャワーを浴びた後の私と入れ替わりに洗濯機に衣服を放り込んで、今、まさにシャワーを浴びようとするセルフィがアラバに背中を向けていた。


 …バタン。


 さすがのセルフィも黙り込んだ。


 気まずい静寂の中、彼が唯一出来る事をやったと思った。


 そして言うまでもないが、この後『パンッ』と乾いた音がしたのはいうまでもない。


 ホント、防音でよかったと思う。


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