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第五話

 「いや〜、すまねえな」


 医務室にレンジを連れて、何とか応急処置を済ませると、ようやく痺れが和らいできたのだろうかレンジは謝っていた。


 「しかし、まさかお前が噂の『レフィーユの気に入っている男』だとはな」


 「すいません、そういうのを手前に話をすると、すぐにこじれてしまうので、出来るだけ隠して、そのまま帰るつもりはなかったのですが…」


 「いや、仕方ねえ事だ。もし、最初に『アラバ』です。

 なんて言ったら、俺はもっと警戒してたらからな」


 「そう言ってもらえると助かります。

 ですが、とりあえず痺れはしばらくすれば取れる、というのはホントですか?

 さっきから時折、けいれん起こしているじゃないですか?」


 「いつも使ってるモノだから、大丈夫だろうが…カエデめ…」


 寝返りを打つ動作が、痺れ独特の痛みを生んだのだろうか、レンジは『いてて』と痛がっていたので、少し心配になった。


 「何かあったら病院に行ってくださいよ?」


 「保険証もないのに、どうやって診察を受ければ良いんだよ?」


 だが、自分の言ってしまった事に、ここの現実を思い知ってしまう。


 「…『みんな』そうなのですか?」 


 「ああ、みんな『恐怖孤児』だ」


 ―恐怖孤児。


 人類に魔法が使えるようになってからの『災害』だろう。


 人間にとって、どの時期に魔法が使えたら危険か?


 それは悪い事を悪い事と自覚していない時期の子供だろうが、最も危険なのは…


 『赤ん坊』の時だ。


 子供を生むという一番の苦痛と、子供を授かるという一番の至福と共に、子供から与えられた一番最初の裏切り。


 人間はそれを短期間に味わって、耐えられるように出来てはいない。


 『この子に刃物で傷つけられた事がある…』


 『生まれた時、髪に火を着けられて…』


 と、理由を付けて、後にこう付け加える。


 『それ以来、この子が怖くなったのです』


 両親達はそういって施設に預けてしまうという選択肢を選ぶ事後を絶えなくなったが、迎えに来ない親も少なくなかった。


 それと同時に、子供達を虐待する施設も少なくなく、脱走して町に潜むのも孤児達が後を立たなくなり、子供達だけが廃ビルなどに集まり生活、お金を稼ぐ手段がないため…。


 ―治安を下げる原因を作る。


 政府もそれなりの対応をしているのだが、まだ問題は山済みだった。


 そんな事を考えていると、ため息がでたが、医務室の一角にあるベッドがもぞもぞと動いたので誰かいるのだろうかと思った。


 そこに注目すると一人の女の子がこっちを見ていた。


 「ああ、この子、アカネって言うんだ。

 見ての通り、彼女は生まれつき身体の弱い子だが、さっき言ったように、病院が受け付けないからな…」


 すると勢い良くカエデが入ってきて、さっきの強気の態度が嘘のように心配そうな態度でアカネという子に寄り添っていた。


 「アカネ、薬買ってきたよ」


 『ありがとう』と素直にそれを受け取るアカネを見て思った。


 「あれ、お金は…?」


 「どうした?」


 つい気付いた事があったが、『すみません』と言って、すぐに口を閉じた。


 それはレンジの時もそうだが『お金』の事だ。


 『どうやって、買ってきた?』など、ここでは聞いてはいけない気がした。


 『恐怖孤児は何をして、お金を稼いでいるのか?』


 それは犯罪に関与している可能性がとても高いからだ。


 だが、それを見たレンジは、自分が何が聞きたかったのかわかったのか首を振りながら答えた。


 「…お前、良いヤツだな。

 お前なら、いろいろと話をしてもよさそうだ」


 目を見開きながら驚くカエデを尻目にレンジに『良いのですか?』と自分も驚いていたので聞いてみる。


 「別に構うモンか、今回に関しては俺たちは関係ないから、『無実』を証明するために話してやるがな。


 今回、ホンモノがどうか解らないが、多分、俺たちの町にいる『漆黒の魔道士』は俺たちの仲間の中にいると思うんだ。


 …まあ、何でそんな事をするのかは、わからないがな。


 俺たちは仲間を売る事はしたくないから、その誰かというのはあんたらで調べてくれ。


 そしてお前のお嬢さんが、その魔道士に出会うかもしれないから、言っておいてほしい事があるんだが…」


 『頼めるか?』と聞いてきたので別に断る理由などなかったので頷いた。


 「『今』は騒ぎになると不味いのは、とてもよくわかっているのなら。

 そんな事はやめておけ、と言ってほしいんだ」


 「『今』…ですか?」


 その含みのある言い方だったので、とても気になって聞くが『まあ、それもアンタらで調べてくれ』と、これ以上、話す気はないのだろう。布団を被って言った。


 「もういい時間じゃねえのか、これ以上ここにいると門限とかあるだろう?」


 「よく知ってますね?」


 「ただでさえ白薔薇の連中には、いろいろ手を焼いてるからな。

 それくらいの事は、調べて回避できる騒動は避けるように指示するのも俺の役目なんだよ。


 まあ、俺にとってアンタは大事な客人だが、それをよく思ってないヤツも多い」


 そう言って、レンジの視線の先にいるカエデは『ふん』と明後日の方向を向いた。

 どうやら、図星だったようだがレンジは続けてこういった。


 「俺は案内したいのだが、『この通り』だろう?


 このドアから出て道なりに進めば、誰も見つからずに帰れるから、すまないが一人で帰ってくれ。


 何かあったら、それなりに接触して、お前に教えてやるよ」


 そう聞いてドアを開けると、もう日が暮れかかっていた。


 ――。


 大きく開けた道を一人歩く。


 すると、自然の摂理だろう日が落ちて徐々に暗くなって、真っ暗になるのではと、少し心配になったが…。


 それは無かった。


 『ほんのり』と弱々しい光が、足元から自分の行き先へと延びて行く。


 「太陽電池で集めた光を使って出来る。道しるべだよ」


 そこにただ一人、ぽつんと立ち尽くしていた人物がいた。


 「この光はまるでこの町を見上げる様に続いているけど、実際はどうだろうね?」


 弱々しい光のせいか、その姿は影でよくみえないが、それが逆に自分にとっては良く知っている人物だと印象付けた。


 「世間は大きな光に飲まれ、人々はこんな小さな光にすら眼を向けもしない」


 「貴方がニセモノですか?」


 「私はホンモノだよ?」


 『漆黒の魔道士』はそんな事を言っているが自分がここに立っているのだ。


 「私の町で見る、漆黒の魔道士とは違うでしょう?


 貴方の着ているモノが、物凄く繊維質ですし少し半袖ですからね。


 ああ、そういえば…。


 『今は大変な時期だから、そんな事は止めろ』って、レンジという人が言っておりましたよ?


 私からも言っておきたいのですが、漆黒の魔道士の名を語って、強化剤を配り、犯行を重ねるというのは、本物が許すと思えませんから、やめておいた方がいいですよ?」


 すると『あ、そう』と身構えてこう言う。


 「でもアンタをここで逃がしたら、いろいろと不味い事になると思ったからね、アンタにはここで死んでもらうよ」


 「不味い事?」


 『はっ』としたニセモノは、引っかくように腕を振り下ろしたので、反射的に避けた。


 漆黒の魔道士は、素手で戦闘を行なう…。


 この噂は、自分の戦い方を見た人が、東方術や西方術が使えるようになって以来、素手で戦う事がなくなった時代だから付いた噂だろう。

 

 しかし、この偽者はその噂通りに、東方術を使わず、西方術も使わず。


 素手で戦いを挑んできたので、人から見れば『ホンモノ』と思えてしまうのは仕方が無い事だと思った。


 「はっ!!」


 最初は受けようと思ったが、自分も素手で戦いを挑まれるのは始めてだったので、それが逆に『何か』あると思わせたのは、自分がホンモノだからだろう…。


 思わず転がり避けて、近くにあったポリバケツの蓋を開けて、フリスビーの様に投げる。


 普通なら避ける、払い飛ばすの二通り。


 だがそのニセモノは、三通り目があった。


 まるで切りつける様に手刀を振り下ろす…。


 ドロリッ!!


 真っ二つに『溶かして』フリスビーを打ち落とす。


 驚いたので続いてポリバケツごと投げつける。


 すると…。


 「ここ地区って、電気は通ってないんだけどね。

 案外、そんなモノが無くても生きていけるモノなんだ。

 だけど、一年に一度だけ、電気があってほしいと思うときがあるんだ。


 それは、どんな時期かわかるかい?」


 中身の入ったポリバケツをそのまま貫いて、続けて答えた。


 「それは寒い冬でね。

 私はみんなの暖を作るために、自分の西方術『火』を利用したのだけど、魔力が足りないっていう問題を抱えていたんだ…」


 『ズルズルズル』と、貫いて中に浮いたポリバケツが地面に落ちたのを見て、少し気がついた。


 「それで魔力を高めるために強化剤を使い続けていたのだけど、ある日、自分の身体の中にある変化が生まれたのに気がついたんだ」


 「火が着かなくなった?」


 「それもあるけど少し違う、『はんだごて』って知ってるかな?」


 「板金加工とかに使う工具ですか?」


 「その工具が鉄を溶かすように、私の腕は『温度』を上げて何でも溶かすようになった。


 最初は怖かったよ。


 だけどそれが私の中で、一つの答えを生んだ」


 「それが『偽者』になる理由ですか?」


 「そうだけど、彼と私は多分『同じ』だと思うよ」


 「同じ?」


 「何で彼が『闇』を使えるようになったのかはわからないよ。

 でも、彼もこう思ったと思うよ。


 『何で、こうなった』ってね」


 偽者もそう思ったから言えるのだろう。


 昔、初めて自分の持つ西方術が『闇』だと理解した時の言葉を言っていた。


 ―確かに、この偽者と、自分は同類と言われても仕方がないかもしれない。


 「だったら…」


 だけど認めたくない自分がここにいた。


 「だったら、あなたは、いま何をしているのですか?」


 この偽者は『犯罪』に関与している。


 それに対して自分は世間が何と言われようと、『治安維持』に全力を捧げているつもりだった。


 だけど、この似て非なる者は『同類』と言ったのだ。


 怒りより、虚さが湧き出てきたが、それを知ってか知らずか偽者は笑いながら言った。


 「まるで、漆黒の魔道士を擁護するような言い方だけど、今は君の身を守った方がいいと思うよ?」


 あざ笑っているのだろうか、その言葉に自分がやるべき事に気がつくが、肝心の逃げ道を塞がれていた。


 「それまでにしとけよ…」


 振り向くとレンジが数人の仲間を連れて、よろけながら立っていた。


 「何か嫌な予感がするから来て見たら、何だこれは?」


 そういって睨みつけられた偽者は驚いたままそこから動こうとしなかった。


 「コイツは大事な客人なんだ。


 お前が誰かは知らないが、俺たちを相手に出来るか?」


 言い終わる前に、まるで逃げ込むように廃ビルの中に入って行ったので『追いますか?』という仲間の意見に首を振って、一旦、仲間を下がらせてレンジは自分を見た。


 「すまねえな」


 「いえ、ありがとうございます。

 ですけど、そっちこそ大丈夫ですか?」


 レンジは『大した事ねえ』と言って強がってはいるもの、身体を壁に預けて笑いながら言った。


 「今一番体力のない、俺を放っておくという事は、どうやら本当に俺達の仲間の内の一人らしいな」 


 まるで自分を餌にしておびき出すような言い方をしながら、送ってもらう事になったが、誰なのかわからないから、この冗談もいえるのだろう。


 だが『ここから帰れ』と指示された時、それを聞けたのはカエデとアカネの二人。


 そして、二人のなかで体力のあるのは誰か?


 自ずと偽者はカエデだとわかった…。


 だが、レンジには黙っておく事にした。


 自分は肝心なトコロで嘘をつくらしいから…。


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