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第四話

 今回の事件は、薬物中毒者、男性三名による爆弾を用いた暴動事件らしく、その内、一名は重度の薬物中毒で死亡が確認されていた。


 世間では漆黒の魔道士が主犯とされているが、ここに本人がいるのでそれはないだろう。


 だがその本人が調べていると思わぬ『点』があまりにも不明だった。


 三人は見掛けで判断して、自分と同じくらいの年齢だろう。


 だが、免許や身分証明書を探そうにも三人とも財布を持っていないので、詳しくはわからなかった。


 『暴走』までに至ったが、命に別状のない二人にしても、目覚めるまで二ヶ月は容易に掛かるので、聞きだす事は無理だったので…。


 三人くらい、いればと思い。両親からの家出人の捜索願くらいあるだろうと思ったのだが…。


 「警察に確認したが無かった」


 という白鳳治安部のリーダー。


 三人くらい、いたのならと思い。


 虫歯や悪い病気にかからないワケが無いと思ったので、医療記録くらいあるだろうとさり気なく、その姉の近くにいた妹に見たのだが…。


 「ふん、そんなの私達が真っ先に調べたけど無かったわ」


 と言う、白薔薇のヴァルキリーを見れば解るだろう。


 身元が全くわからないのだ。


 そのために、自然と一つの結論が二校の間で浮かび上がる。


 『漆黒の魔道士の犯行』だと…。


 そうなると困るのは、漆黒の魔道士である自分だったので独自に調べる事になったのだが、容疑者もいない、重要な手掛かりもない。


 わかっているのは三名の身元不明者だった。


 「そうとなると…」


 その回想に答えるように、漆黒の魔道士こと、アラバの呟きは半分併走している選挙カーに消える事となる。


 「そこの学生さん、良くお聞きください。


 私が市長に当選した暁には、あなた方、白薔薇学園のみなさまがご存知のとおり、明るい町作りをしていきたいと思っております。


 ですので、清き一票を『ご両親方』にお願いいたします」


 笑わせるつもりで言っているのだろうか…?


 明らかに制服が違うのに学園の名前を間違えてるので、この人もそこらの政治家と何ら変わりがないのだろうと思えてしまうが、文字通りの併走をしているので、ある場所に向かっている間、演説を聞かされるハメとなっていた。


 そこは白薔薇学園から歩いて市内へ外れて一つだけしかない橋を渡ったトコロにある地区で…。


 『最重要巡回区間』


 と治安部の言葉でそう呼ばれており、この町において、もっとも治安の低い地区だ。


 その証拠にさっきから大音量で演説している大きな道を通るハズの選挙のお車は、ワザワザ曲がり、小さなわき道に入って演説を続けていくので、そこの治安の低さが伺えた。


 正直、うるさい演説が聞こえなくなったので助かったのだが、徐々に静かになっていくので、昼時というのに人が歩いていない事に気付かせた。


 「っ!!」


 何が起きたのか突然、どこからか奇声が上がる。


 その後の静寂が『見られている』という錯覚を起こしてならない中、目の前から帽子を被った少女がやって来た。


 「お兄さん、買ってかない?」


 明らかに自分より年下の少女が魔力強化剤を売りつけてきた。


 ホントに治安の悪いところだなと思いながら無視する事にしただが…。


 「ねえねえ、買っていってよ。

 これ結構良いブツなんだからさ?」


 まるで衛星のようにくるくるとまわりながら後を付いてきたので、一枚の写真を取り出して聞いてみた。


 「私は白鳳学園の治安部で、イワト・ゲンゾウと申しますが、この人見た事ありませんか?」


 少女は『治安部』という言葉に反応して、怪訝そうな顔をしながら『知らないよ』そっけなく答えてそのまま走り去るが、時間にして『分』も掛かっていないくらいだろうか…。


 「ここの治安部じゃないヤツが何の様だ?」


 あっという間に囲まれてしまった。


 リーダーらしき男が睨みつけていたが、ここで怯んだらここに来た意味が無いのでこう答えた。


 「私は、この身元不明人を探してましてね」


 差し出した写真を『パシッ』と乱暴に写真を奪い取り、当然の反応のだろう。


 「知らねえな。何だよ。


 アンタらのお頭は、今度はそんな事を調べに来たのか?


 てか、ヒマなのか?」


 すると周囲から自然とあざ笑うような笑い声が聞こえた。


 「おや、レフィーユさんがやって来たのですか?」


 「ああ、来たぜ。


 そのまま大人しく帰ったがな」


 「きっと、ビビッたんだよ」


 そして、そのリーダーの脇からさっきの少女が出てきて。そんな事を一言に、また周囲が一段と騒がしくなり、一緒に笑っていたリーダーが自分にこう言った。


 「―というワケだ。

 お前一人でやってきた度胸に免じてやるから、大人しく帰えんな」


 「そういうワケには、いきませんね…」


 「何だ、レフィーユお嬢さまがそんなに怖いのか?


 お前は男だろう?」


 「ごもっともですが…」


 しばらく周囲と一緒に笑いながら、続けてこう言った。


 「ですがね。この人、その事件でお亡くなりになったのですよ」


 「なんだと…?」


 リーダーは黙り込むが、これを黙って見ていられる周囲は少なくなかった。


 『ふざけんな』やら、数々の罵倒が飛び交い、周囲は殺気立ち、ついに少女に自分の胸倉を掴まれて、こう言い放たれた。


 「アンタ、あまり調子に乗っていると許さないよ!?」


 リーダーは何か口を開いたが、周囲の騒ぐせいで、それが聞こえなかったのか、そのリーダーに向かって、少女はこう言った。

 

 「レンジ、コイツ、見せしめに身包み剥がして街中でさらそうよ!?」


 周囲もそれに頷き出すが、リーダーは今度は聞こえるように答えた。


 「カエデ、待て!!」


 「コイツだって思ってるよ。所詮『恐怖孤児』だから…っ!!」


 途中で言葉が切れたのは、このリーダーであるレンジと呼ばれた男が、カエデに自身の東方術である。


 『ナイフ』を首に突きつけたからだろう…。


 「落ち着けよ」


 静かにレンジがそういうと、途端に静かになる周囲、おそらく、ここの連中がそんな事で怯んだのは『やった事がある』という実績からだと思った。


 そのまま『ごめん』と動けなくなったのを見て、レンジは冷徹に聞いていた。


 「わかったら、離せ、いいな?」


 素直に手を離し、カエデがあっという間に周囲に溶け込むのを見送り、レンジは今度は自分にナイフを突きつけて聞いた。


 「…なんでお前は、そんな事を伝えにやってきた?」


 「身元が全くわからなかないというなら、『恐怖孤児』が集まるここに来れば何らかの手掛かりはあると思ってやってきたのもあります。


 ですけど、もし貴方達の仲間でしたら、それを知らせるもの治安部の『活動』だと思いませんか?」


 「哀れだと思ったからか?」


 当然、そう思ってないので『それは違いますよ』と首を振って答えた。


 「こんな人でも、もしかしたら、この人を待っている人がいるかもしれないじゃないでしょう。

 

 それなのに、その人が亡くなったのにそれを知らないというのは、それは悲しい事だとおもいませんか?」


 視線を一切外さず、そのレンジは黙ったまま、喉元に突きつけたナイフを下ろして答えた。


 「…そうだな」


 『着いてきな』と言われたので、自分はレンジの後を着いて行くことにした。


 「アイツに三千円貸したままになっちまったか…」


 カエデが『飲みな』と、そっけなくお茶を自分の近くに置き、そのまま部屋から出て行くのを見送っていると、レンジは自分の偽造した証明書を見ながら続けざまに言った。


 「白鳳学園、治安部、イワト・ゲンゾウ…。

 この証明書、嘘だろ?」


 どうして、そう思うのだろうと聞いて見ると、一枚のジングウジと書かれた本物の白鳳学園の証明書を取り出して、『透かし』が無い事を指摘しながら聞いてきた。


 「お前は言うとおり白鳳学園の生徒に違いないが、肝心なところを嘘をつくようなヤツだ。

 そんなヤツに、こっちは何も答える気は全く無い。

 それ飲んだら帰れ」


 「飲めませんね。

 確かに騙して悪いなと思いましたが、あなただって、同じ事をしているじゃないですか?」


 「はぁ、何の事だ?」


 「じゃあ、このお茶、飲めますか?」


 飲めるワケがない…。

 さっきカエデがお茶に薬を入れたのを、この目で見たのだ。


 「オレはただ、このまま帰したんじゃ、礼儀に反すると思ったから、お茶を差し出したんだぞ?」


 「じゃあ、飲んでくださいよ?」


 飲めるワケがない…。


 その証拠に、さっきからレンジは黙ったままだ。


 「……」


 黙ったまま…


 『ぐいっ』と飲み干した。


 「アンタのお嬢様は、他人の差し出したお茶は飲むなとでも教えてるのか!?」


 『どうだっ』と言った感じで聞いてきたので驚いたのは、言うまでも無く自分だった。


 「あれ、何ともないのですか?」 


 あまりにも、元から薬が入ってないと思えるくらい『良い』飲みっぷりだったので思わず聞いてしまう。


 「カエデでしたっけ、何か入れてましたよ?」


 『えっ』という表情をしていたので、ホントに知らなかったのだろう。


 「てっきり…あなたの指示だと思ったのですが?」


 「んなワケないだろっ!?

 カエデ、これ、しびれ薬入ってるじゃないか!!」


 大声を出しながら震えだしたので、思わずレンジを背負って、この部屋を出る。


 するとカエデもその大声を聞いたのだろうか、そこにいた。


 「あ、アンタ!?」


 「あなたの入れた薬でこうなったのですよ」


 「ええっ!?」


 「医者はどこですか?」


 「そんなのいないよ。

 ああ、医務室、医務室っ!?」


 「案内してください」


 「命令しないでっ!?」


 『こっち』と言われたので、カエデの後を着いて行く事にした。


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