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第四十六話

 自分が西方術者だろうか、自分の中にはある感情があった。


 東方術者と西方術者を分けるには、大きく分けて二つある。


 まず、武器を作り出すのが、東方術、そうでないのが西方術というわけ方。


 それともう一つ、自分達の身に宿した魔法を上手に正しく使うために学校などで行なわれるようになった訓練や経験で、そのもう一つは決定的な両者の感覚の違いが露呈してくる。


 人間を斬りつける事ができるか?


 数々の戦闘を繰り返したおかげで斬られる事には慣れがある、しかし、この決定的な感性の違いは、最後まで躊躇させていたが。


 「ぬうううううっ!!」


 その躊躇を無くした、一刀(サーベル)が重量を増す。


 まるで激流に手を突っ込んだような振動が自分の身体ごと吹き飛ばそうとしているのか、踏ん張って堪えていると、カドクラの通り過ぎていく水の身体から手が伸びて、自分を引っ張って顔を覆っていた法衣をも剥ぎ取りもした。


 それが、最後の足掻きだった。


 一度、勢いの付いた自分の身体など、自身の手などで止まる事のないのが必然か、構わず泥龍の身体を真っ二つに叩き切ると、まるで奈落へ落ちていくよう手を伸ばして宙に舞い、ひとつはホテルの窓ガラスを突き破り、もう片方をそのまま地面に転がっていた。


 パリンッ


 そこでようやく役目を終えたように、サーベルが砕け散るので、独特の喪失感を味わいながら、法衣を紡ぎ直しながら二つの塊が墜落した地点に目を移す。


 すると、水で出来た塊は窓枠に覆い被さるようにうつぶせに倒れた男とカドクラを形作っていた。


 当然、カドクラは『ピクピク』と痙攣をしていた片割れより、早く意識を取り戻したが、どうして、ここにいるのか記憶をなくしていた。


 「よう、目が覚めたか?」


 レンジにそう言われて、ようやく逃げなればならない事くらいは気がついたのか。


 「ひ、ひひひぃ」


 逃げようとするが、よほど消耗してたらしく、立つ事が出来なかったが後ろを向いて四つんばいの体勢のまま、地面を掻いて逃げようとしていた。


 その姿をレンジは、蹴飛ばして言った。


 「今まであんな事をしておいて、てめえだけ助かろうなんて、随分と虫のいい話だな?」


 「あ、あれは、全てあそこにいるヤツが…ぶびゃ!?」


 「そんなこと言って、了承したのはお前だろうが!?


 さっき言ってただろ、利用された事に気づいてってよ、それがどういう意味かわからねえほど、馬鹿だと思ってんのか!?」


 その事から記憶にはないのか、ワケもわからずカドクラは戸惑っているとレンジは静かに言った。


 「立て、本来なら、そのままやってやりたいけどな。


 お前だけは、立ってから決着(ケリ)つけてやるよ!?


 おら、立て!!」


 カドクラには聞こえなかったのか『立てつってんだろうが!!』といって、カドクラを引き立てようとするがひざを曲げたままうずくまった体勢をとった人間はとても重く。


 「ひっ!?」


 起き上がりはするが、すぐに蹲るのでそれに苛立ったレンジは、横腹を蹴りつけて更に丸くなった、カドクラに叫んだ。


 「ふざけんな!!


 こんなんで、同情を求めようとすんなよ!?


 レフィーユだって、一対一(サシ)で勝負してくれたぞ?


 アイツだってな、俺らを守ろうとしてたぞ?


 お前はこの町の市長になるつもりなんだろう、そんな意地くらいを見せて見ろよ!!」


 なおも、起き上がらせようとするレンジを、カドクラは拒み蹲る、他の人がこの状況を見ればどっちが加害者で被害者なのだろうか…。


 「なりませんから、ごめんなさい…」


 自分から見たカドクラは、とても醜かった。


 「お前、ふざけんなよっ!?」


 もう一度、蹴飛ばし…。


 「お前はそんな気持ちで俺達を犠牲にしてまで市長になりたかったのか!?


 お前、死んだヤツは、生き返らない事ぐらい知ってるだろうが!!


 そんな事もわかんねえのかよ!?」


 『おら、立て』とカドクラを立たせようとするが、相変わらず蹲ったカドクラの背中にレンジはとうとう殴りだした。


 「ちゃんとこっちを見ろよ!?」


 『ひいっ』と言ったままだったが明らかに答える気がないのがわかったので、いい加減止めようと近寄った。


 「なあ、そんなに俺たちはクズか、お前の方がよほどクズじゃねえか!?」


 息を切らせたレンジに手が届く距離になった時、


 「…答えてくれよ」


 カドクラを『叩く』ので足が止まった。


 「~~っ!?」


 歯を食いしばっているのか、息遣いだけでカドクラを叩いていた。


 ので、もう止めなければならないと足を踏み出そうとしたが…。


 正直、後悔した。


 何を言えるのだろう?


 確かに自分はカエデのために事件沙汰になるのも覚悟して今回の騒ぎを起こした。


 でも、自分とレンジと違いは、その一念だった。


 彼は、恐怖孤児の全員のために動いていた。


 そんな格の違う自分が口を開いても…。


 「泣いているのか(もうやめましょう)?」


 もう何を言っても、レンジの耳はそう変換してしまうと思った。


 その証拠にようやくたどり着いたレフィーユもただ叩き続けたレンジの腕を止めはしているが、何も言えないままでいた。


 「~~っ!!」


 強情に泣き声を堪えて、その手を振り払おうとするがその程度で離れるわけもなく、ようやくレンジは、つぶやくように聞いてきた。


 「言っておくけどよ、あん時だって、俺は真面目に働いていたんだぞ」


 「ああ…」


 「でもよ、普通に生きてるヤツが俺がどんな思いで『残飯処理』をしているのか、わかんねえのだろな、挙句の果てには、それがあの店であだ名になって、でもよ、それでも俺は耐えてたんだぞ…?」


 「知っている…」


 「でもよ…。


 店長まで『イメージにかかわるから、もう来なくていい』って言われて、なあ、どうして普通に生きているヤツには、俺らの苦しみがわかんねえんだよ?」


 「そうだな…」


 何も答えるも顔を見る事も許されるワケもなく、カドクラを一瞥して、彼女は、ただじっともう一方の空間、誰もいないはずの空間をずっと見ていると誰かがやって来た。


 「もうやめよ、レンジさん…」


 驚いた様子でレンジはその人物を見ると、アカネだった。


 「レ、レフィーユさん、コレは?」


 「私の騒ぎの後、奇跡的に意識を取り戻したそうだ」


 しかしレンジは怒りまかせに腕を振り払い、ナイフを作り出そうとしたが、集中を要するらしい東方術は、レンジの期待にこたえる事もなかったので蹲っているとアカネは。


 「もういいよ、レンジさん…」


 「嘘付くなよ!?」


 「でも、そんな事してもカエデちゃん帰ってこないから…」


 「お前だって、あの性で好きだった絵の道具も取り上げられたんだぞ!!


 その元凶がここにいるんだぞ!?」


 「絵だったら、いつでも始めれるよ…」


 「でも、憎いだろう!?」


 「憎むからっ!!」


 一際、大きい声で周囲を静かになるが、アカネは苦しそうに答えた。


 「憎むから…。


 この人も、全部、憎むから…。


 でもそのために元気なっても、カエデちゃんも、もういないから、私どうやって憎めばいいのかわからないから。


 ここでレンジさんが捕まったら、その方法がわからないままだよ…」


 明らかな嘘だった。


 「だから、もう帰ろう?」


 でも、レンジの憎悪を洗い流すには十分だった。


 その後、堪え切れない泣き声を夜風が溶かしているとサイレンが聞こえた。


 レンジたちの背中を見送りながら、自分も帰るために、レフィーユと頷きあってに目配せして帰る。


 …すると、カドクラは起き上がった。


 「いや〜、助かりました。


 まさか、漆黒の魔道士が恐怖孤児と組んで、私に襲い掛かってくるとは…。


 今、貴女が助けに来てくれないとどうなっていたことやら…。


 助かりました、レフィーユさっ…!?」

 まるで、さっきの態度がなかったかのように嫌な笑みを浮かべるカドクラの胸倉を掴んで答えた。


 「貴様は、つくづく嫌なやつだな?」


 「な、何を?」


 「貴様だけ、逃げられると思っているのか?」


 するとボイスレコーダーをとりだしスイッチを入れる。


 『…まあまあ、馬鹿は言い過ぎだよ。あれでも騙されたという事に気づいて、我々に裏切ったのだから』


 「随分とここで貴様が大音響で、ほざいていたからな。


 どういう事なのか、私が納得するまで聞かせてもらうぞ?」


 そう言って、突き飛ばすとカドクラは、血の気を失いながらしりもちをついていた。

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