第四十二話
「どういう事かね、キミ達には、住居を提供して働く場所だって提供する。これの何が不満だと言うのかね?」
「不満も何も、無理だからだに決まってるじゃねえか!!
なあ、悪い事をしていたヤツが真面目に働いていたとするが、中で『アイツ、恐怖孤児だから、あんまり近づかない方がいい』っていうヤツが出てみろ、周囲はあっという間にソイツを遠ざけちまうのがわかんねえのか?
遠ざけている事くらいな、人間は感じ取れるんだぞ!?」
「ふふ、それはキミの思い込みだ。周りの人を見てみろ、人間は優しい人ばかりだ」
レンジは、背後から迫ってきた警備員を避けて蹴飛ばして、カドクラに向かって叫んだ。
「てか、逃げてんじゃねえ!!」
姿を消して追いかけようにも、警備員に道を見事に阻まれるが、その二名はレンジのいた所より上を見上げていた。
照明により、目が眩むが彼らの注目点は黒い点、そこから出た警備員の肩に龍が噛み付いて、龍は何かを引き寄せていた。
そこに目を向けると…。
目の前に迫ってきたのは足の裏だった。
「ううう、うわあああ!!」
加速付いたとび蹴りに驚いたもう片方が慌てて炎を放つが、そんなものは『熱く』なかった。
そのまま突っ切って、手の平でストレートを放って視界を塞ぐと、次に視界が戻った時には黒い法衣を纏った男の背中が見えていた。
すぐさま取り押さえようと飛び掛るが、この男がただ背中を見せたワケではない。
さらに振り返った後、取り押さえるより物凄い勢いで何かが飛んできて腹部で弾け…。
「すげえ…」
レンジが、呟いた頃には警備員の頭部に当てた足を振りぬいていた。
「カドクラは?」
「あ、ああ、すまねえ、あっちへ行ったきり見失った。お前の方は?」
「何とか一般の人は退散したようです。行きましょう?」
レンジは頷きながらカドクラを探していると、そのカドクラと秘書はホテルの自分の部屋に一旦、隠れていた。
「ど、どうして、魔道士がいるのかね!?」
秘書は先ほどの光景を見ていたのか半分、震えながら首を振っていると、いらだった様子でカドクラは今度は秘書に言った。
「私は関係ないぞ、キミがこの町に漆黒の魔道士を呼んでレフィーユを選挙活動に利用しようと考えたんだ。
キミが全て責任を取りなさい!!」
しかし、これが引き金になった。
「貴方がこんな事を考えたんじゃないですか!!
私は指示されたまま、みんなに薬を渡したり、病院であの娘に薬を飲ませたりしたのですよ!?」
「何ぃ、貴様、私に逆らうと言うのか!?」
「ええ、そうですとも、幸い彼らの狙いは貴方ですからね、私はとっとと逃げさせてもらいますよ!!」
そう言って、ドアを開けようとした時、完全に安心しきった秘書の背後に…。
「貴様ぁぁぁ!!」
完全に不意を突かれた秘書の頭に陶器殴りつけた。
「今まで、目に掛けて、やったのを、忘れおって!!」
殴り続けて、とうとう動かなくなった秘書を見つめながら、そんな捨て台詞を吐いていると、テーブルの上にその薬と注射器があった。
「私の言うとおりにしてれば、よかったものを…」
まだ息があるのだが、何をされているのかわからないのだろう。
「そうだ、私の言うとおりにしてれば、よかったんだ…」
カドクラの成すがままになっていると、後は脱出するばかりと秘書に代わってドアを開けようとしたが…。
しかし、カドクラは知らなかった…。
『暴走』や『肥大化』という発症する時間は、人によって異なるという事を、当然、用心とばかりに大量に打ち続けた彼には、今まで人任せにしていたせいもあり…。
「どこに行きやがった?」
レンジと一緒に探していると、遠くの方で『ガシャン、ガシャン』とガラスの割れるような音が響いた。
「何だ!?」