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第四十話

 夕暮れもすぎて夜になろうとした時、彼女のいる病室がようやく人の気配がなくなって二人きりになっているとレフィーユが思い出すように答えた。


 「珍しく随分と食い下がったな?」


 「珍しいですかね?」


 茶化しているのか『ふっ』と笑みを浮かべると…。


 「カエデも『ここ』に運ばれていたとはな…」


 それだけ言うと、これ以上何も言わなかった。


 『普通に取り押さえただけなら、どうして背中から刺し傷が付くのですかね?』


 あの時、カドクラに対し泥棒に入った事を聞くと、いやらしく、この太った男は『私は被害者』だと笑顔で言い切るので、つい言葉を荒げて聞いていた。


 「こちらの警備員も必死だった思うのだ。


 まず相手は私の命目当てで、やってきたからね。


 殺そうとしに来ている相手に、手加減できると思うかね。出来ないだろう?」


 「それにしては相当な打撲や切り傷ですよね、それに引き換え…」


 『ポンッ』とレフィーユに手渡したのはカルテだった。


 ただ、そこに記載されていたのは…。


 カエデ(仮名)


 年齢不詳


 死因 床に取り押さえた際に生じたショックによるもの…。


 「どういう事か説明してもらうおうか?」


 周囲も自信を持って睨みつけていた。


 …だが、ここまでだった。


 「じゃあ、証拠はどこにあるのかね?」


 子供じみた言い訳だったので、さすがに『そのカルテがいい証拠でしょう』と、言い切るヒオトだが、しかし…。


 「そうじゃない『全て、私がやった』という証拠だよ」


 ホントに子供じみた要求だと思ったが、無理な話だった。


 ……。


 「…どうして、あの手の人種というのは、自分がやった、やっていないにこだわるのだろうな?」


 「…そうですね」


 そして、耳打ちするように聞こえた台詞が耳に残っていた。


 「大人しくキミ達は、漆黒の魔道士を追っていればいいじゃないか、これ以上深追いはしてほしくないものだね」


 その後、ヒオトは『まだ間に合う』と言った。


 しかし、もう遅い。


 カルテの事から、様々な言い訳や裏で何かしらの工作をしているのが目に見えていた。


 おそらく、あの重要区間の警備もカドクラが手配したのだろう。


 『私達は、まだ戦えます』と戦乙女達は口を揃えた、だがその士気の高さもレフィーユの一言で沈む事となった


 「ヒオト、リスティア学園の生徒手帳に記載されている。


 治安部の項目、第二項を答えてみろ」


 正直、その時は何を聞こうとしているのかわからなかったが、戦乙女、いや、白薔薇学園の治安部は全員黙り込んだ。


 「治安部とは、地域住人の治安を守るために存在する組織である。


 従って、私闘は禁止されているだったが?」


 多分、感情のままに治安部が動けば、今度はカドクラもそれを盾にするのだろう。


 「で、ですが、このままでは!!」


 「第一項目目の地域住人を守るという、重大な事すら出来なくて何が治安部だ?」


 白薔薇学園だけではなく、白鳳学園の治安部も押し黙るのを眺め、彼女は自分を残して出て行けとみんなに言った。


 「ヒオトには悪い事をしてしまったな」


 こちらとしても今になって、ヒオトの空回りは『歓迎会』でのレフィーユが敗北を認めた時に、やはり白鳳学園にいるべきではなく、自分達と一緒に事件を解決する事で自分の正しさを証明したかったらしい。


 時計を見ると『時間』になったので立ち上がると彼女は聞いてきた。


 「行くのか?」


 「…はい、もう面会時間も終わりですからね」


 『お大事に』と言ってドアノブを開けると不意に言った。


 「私闘は禁止されていると言ったはずだが?」


 「何の事です?」


 「いや、わからないのならいい、しかし私も白鳳学園の治安部の人間として言っておかんとならんのでな。


 お前はカドクラを痛めつけたくらいで、仇とか、無念、そんなモノを本当に晴らせると思うのか?」


 「……」


 「そんな事は、お前の自己満足に過ぎないだろう?


 それにお前のやっている事はみんなに…」


 「ええ、多分みんな、復讐をしたと思われてしまうでしょうね…」


 そこで会話が止まってしまった。


 「ですがね…」


 それはレフィーユの言う事が正しい事もあったのか、自分の中にある気持ちを何て言おうか言葉にするのに少し時間が掛かったからだった。


 一時間、二時間、三時間、日も暮れてきた。


 しかし、彼女は何も言わず待ってくれたおかげで、ようやく言葉にすることが出来た。


 「不憫じゃないですか…」


 カエデの事を言ったのだろうか、今までの被害者の事を言ったのだろうか、ただ、彼女は頷いて何も言わなかった。


 「ただ生きるために利用されて、ただあんな人の立場を守るために盾にもされて、このままじゃ、あの子は何の為に生まれて来たのかも、わからなくなるじゃないですか…」


 そして、彼女は微笑んで答えた。


 「ふむ、大した自己満足だな


 しかし困ったな、これ以上、私がお前を止める道理がなくなってしまった」


 『ククッ』と笑いを堪えていたので、さすがに口答えをするように言った。


 「笑いすぎですよ」


 「いや、すまん、だがな、考えてもみろ、歓迎会の時のお前の考えた作戦はあの作戦ですら、私の作戦になり。


 私のお前が脚光を浴びるいい機会だと思って張り切った『ケーキを食べる』という作戦がお前の作戦になってしまって、あまり評価されないというのに…。


 こう二人きりの時に限って、そんな大した事を平然と言えるのでな。あまりにも不憫な男だと思ってな。


 おかげで、お前に言える事はたった一つになってしまったじゃないか」


 そうして、ゆっくりと答えた。


 「悔いのないようにな…」


 そんな事を思い出したのでつい口元が緩んでいると、ようやく後援会に出席するというカドクラのいるホテルの前に立っていた。

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