第三十六話
セルフィは治安部本部に戻り、じっと腕を組みながら地域マップが描かれているディスプレイを注目していた。
「セルフィさん、そんなに急いで戻ってどうしたのですか?」
「そうですとも、この…」
ヒオトと白鳳学園からやってきた他一名がそんな事を言うが、ある事だけが彼女の脳裏から離れることがなかったからだ。
『ホントに危険なのは恐怖孤児』
自分と姉だけが、あの男の話を聞かされていたが、自分は正直半信半疑だったセリフが、さっきからずっと頭から離れなかったのもあるだろう。文句を言っていたヒオトの方を、急に向いてびっくりするというくらい黙っていたので、一応の指示はした。
「ヒオトさん、戦乙女7人、すぐにでも動かせるようにしておいてください」
「え、ええっ、もしかして腹いせに…」
「勘違いしないでください、恐れた事態が起きようとしているのよ」
「セ、セルフィちゃん、何を恐れてるのよ?」
剣幕に近かったのか、少し周りがざわついたが黙ってディスプレイを見た、さっきも行ったとおり自分も信じられないからだ。
するとこれが始まりだと気付くのは、数秒後だった。
まず通信班が自分に振り返える。
『隣町で恐怖孤児と見られる傷害事件発生っ!!』
管轄内を示す円、そのギリギリに位置する場所を全体マップが事件の起こった地点に赤い点で示す。それをヒオトは振り向きながら、この事を警戒したのかと理解を求めながら頷いた。
「出動しましょう!?」
「まだよ」
手を引っ張り全員を集める事を言えるのは、自分でも、まだ自分の町ではないため余裕があった。
しかし…。
「た、大変です!!」
自分の目が真っ赤になっていくのがわかるくらいに、その町が点で真っ赤になっていく…。
どうして隣町からなのか後でわかったが、ヒオトはワケがわからないまま、セルフィを見て聞いて来た。
「いっ、一体何が!?」
答える代わりに校内放送を入れた。
「みなさん、緊急事態発生です。
治安部以外の方は学生寮への避難をお願いします。
これは訓練ではありません、迅速な避難をお願いします」
そして、自分は大切な事を言い忘れていたので、付け足すように答えた。
「…なお、警戒レベルは5です」
その一言に周囲がザワついた。
「セ、セルフィさん、いくらなんでも5は…」
ヒオトがいう通り、ほとんどがそんな心境だろう。
自分でも言い過ぎなのかどうかわからないが、自分の中で想定した数値が軽々と警戒レベルが最大である5だと思ったからだ。
それに不思議な事に、その騒動が起こるべき自分の町が一向に起きないからだろう。
そんな中、自分の町にも赤い点が付いた。
……。
「…ここまでくると化け物だな。
どうだ、命を捨てて掛かってくる敵ってのは、怖えだろ?」
レンジは自分のさきほど斬り付けられた仲間を見て言う。
「防衛本能が効かないから、全てみね打ち…。殺すわけにはいかないってか?」
彼女は何も言わず、ただレンジを見ていると、レンジは笑っていた。
「さすがに疲れが見えたようだな」
そう言って、レンジは前に出る。
「まあ、20人も相手にしてればそうなるわな。こっちとしても全快のアンタ相手をするのは、無理ってのはわかってるんでね…」
『わかってるな?』と言ってレンジはナイフを構成したので息を整えながら構えた。
「こっからは一対一で勝負だ」