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第三十五話

 「あの人、何やってるのかな?」


 「わかんない」


 小さな男の子と女の子が言うように、その男は橋の真ん中で『ぐいっ』と柔軟をしていた。


 十分に柔軟を終えたのか、橋の下を眺めたので聞いてみた。


 「そんなに用水路が珍しいか?」


 まるで何かでも落としたのかと勘違いしてしまいそうだが、ただ様子を見て思った。


 「セルフィ達に叩きのめされたと聞いたが、大丈夫そうだな?」


 「大丈夫じゃないですよ…」


 『ほら』と言いながら、彼は手のひらを自分に見せると、じんわりと『影』が浮かび上がった。


 それが『闇』だと気付くのにしばらく時間が掛かったが、ふざけてやっている訳でもないらしい。


 「魔力の量には自信があったのですがね…。ここまでやるとは、さすが貴女の妹ですよ。


 ああ、そうだ、こちらからの連絡です。


 レンジさんからですが…もう止められないだそうです」


 そう言って、振り向くとよほど体調が悪いのが顔色にも出て見て取れた。


 「…暴動は避けられないという事か?」


 「はい、レンジさんは、ここから向かってくるでしょうね」


 それきり、もう一人誰かの事を言わなかったので、冷徹に言った。


 「カエデは?」


 「自分が気絶している、一時間前にカドクラのトコロに行ったみたいです…」


 そうして『すいません』と謝った後、また黙るので聞いてみた。


 「どうして、追いかけていかない?」


 我ながら、酷な事を聞いたと思った。


 一時間に出かけた、その人物を見つける事、そして、追いつくには、よほど運が良くなければ捕まえる事も出来ない。


 彼はカエデがどこに向かうのか『ある程度』解るだろう。


 ただ所詮『ある程度』なのだ。


 それで一時間のタイムラグを埋めるのは無理だ。


 彼も理解した上でここにいるのかと思うと少し顔が曇ったが答えた。


 「私はここで彼らの前に立ち塞がっておきますよ…」


 「おい?」


 「レフィーユさんは、この周辺の住人に被害が及ばないように避難勧告を出しておいて…」


 「私は、カエデはどうするのかと聞いている!!」


 思わず、声を荒げてしまい…。


 「間に合うワケないじゃないですか…」


 そして、確かな現実論を言わせてしまう。


 「そうだな…」


 納得してしまいそうになる。


 嵐の前の静けさとは、こうも冷たさも入っているのだろうか風が冷たく感じた。


 間に合うワケもなく、多分、暴動を止めようとしたのも止められず。


 彼は健気にも、ここで最後の砦とばかりに立ち塞がろうとしている。


 そんな彼を…


 パンッ


 思わず、頬を叩いてしまった。


 仰け反ったまま、彼はゆっくり聞いてきた。


 「…貴女なら間に合うとでも?」


 そして、答えなど決まっていた。


 「ああ、無理だ」


 でも、言わなかればなからなかった。


 「お前はそれでいいのか?


 お前は、わかってるはずだ。


 ホントに助けてほしい人間を、そんな人を見捨てていいのか、今、誰が一番悲しい思いをしていると思っている!?


 そんな大事な事を『間に合わない』で諦めていいのか、そんな事は諦めていい理由には絶対にならん!?」


 随分と理想論を並べたと思っている。ただ、私はそんな現実に納得できずに苛立ちを鎮めるように言った。


 「…いいか、お前の役目は、ここで暴動を食い止める事ではない」


 抑えすぎて無様にも声が震えた。だが両肩を掴んで、ここに私がいるという決意を言っておこうと思うと冷静になった。


 「それは私の役目だ。


 お前は、追いかけて後悔しろ。


 今は後悔するな、今、全力を尽くして、その後、後悔しろ」


 すると、彼も返事をするのに少し時間が掛かったのか大きく深呼吸をして言う。


 「すいません…」


 謝る必要は、どこにもないと思う、決心は付いたようだった。


 「レフィーユさん、出来る限り橋の上で戦ってください。


 でないと、あっという間に囲まれてしまいますからね。


 あと橋から、落としても死にはしないでしょうけど、怪我をしますので、それはできるだけ避けてくださいね」


 「ふっ、用水路を眺めて、そんな事を考えていたのか?」 


 そう言って、身を屈めるように笑みをこぼして視線をそらしたのが災いした。


 「行ってきます」


 彼の笑顔を見る事が出来なかった。


 そして、これから起こるであろう暴動に緊張していた。かつて彼は、これより大きな橋で戦った姿を思い浮かべる。


 その時も、こんな緊張感の中で戦っていたのだろうか…。


 そう思っていると、背後から声がした。


 「あっ、やっぱり、この前のお姉ちゃんだ」


 振り向くと、病院で男の子とやってきたが、女の子の方は少し機嫌が悪く答えた。


 「ねえ、どうして、お兄ちゃんの方を叩いたの?」 


 「きっと怒られたんだよ」


 「そんな事ないもん、お兄ちゃんはまみを助けてくれたんだもん。


 そんな事をいう、あっ君は嫌い」


 すると、即座に『あっ君』は謝ったので、笑みをもらしながら答えた。


 「どうやら、私は悪者のようだな。


 彼の意地と言うのを、尊重してあげただけだ」


 「意地って、なに?」


 つい難しい事を言ってしまったと思ったので、私がブレザーを脱ぐと、二人は顔を赤くしていた。


 「さて、ここは危なくなるから、おうちに帰ってほしいモノだな」


 「危なくなるって、事件が起こるの?」


 「そうだな、前の爆発沙汰じゃないが…」


 「きっと、犯人がやってくるんだね、ここで一騎打ちなんだ」


 つい笑みが漏れたが、言っておいた。


 「犯人じゃない、だが、事件が起こるのさ。


 多分、悪いのは、どちらもなんだ。


 理解してやろうなんて思わなかった。こっちも悪かった、歩み寄ろうと努力もしないで心を閉ざしたままにした。あちら様も悪い」


 「あちらサマ?」


 「まあ…そうだな、この辺に住んでる人の事さ」


 「レンジって、人の事?」


 「ほう、そのレンジという男は、この辺に住んでいるのか?」


 「うん、そうだよ、ママは『ここに近寄ったら駄目』って言うけど、ホントはね、おかしもくれるしいい人だよ」


 「そうか…」


 「どうしたのお姉ちゃん?」


 「いや、なんでもない。さて、もう立ち話はここまでにしておかんとな」


 そう言いながら、いつもの白い手袋をすると、二人は『じゃあね』と元気良く手を振って仲良く帰って行った。


 そうだ、どっちが正しいのかもわからない、だが、確かめるためにここに立っていると考えたら、自然と力が入り。


 作ったサーベルがいつもより力強さを感じていると…。


 「随分と気合が入ってんだな?」


 日が暮れかかる中、レンジがやってきた。


 「お前の方こそ、こんなに大勢でどこに行こうというのだ?」


 「はっ、じゃあ聞くが、アンタがここに立つって事は、俺たちの相手にするって事でいいのか?」


 静寂の中で抑え切れない殺気が、自分を押し潰そうとするなか、レンジは片手を上げて冷酷に言った。


 「やれ…」


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