第三十四話
「それは出来ねえな」
「どうしてっ、貴方達の仲間が大変な目にあったのに、悔しいと思わないのですか!?」
「おいおい、勘違いすんなよ。後の始末は俺たちがするって事だ」
「それを信用しろというのですか?」
「ああ、そうだ」
「出来るワケないじゃないですか、確かにあの魔道士がカドクラに密告して許せないのは…」
「ふざけるな!!」
『ガシャン』とガラスを叩き割った音と怒声が、ヒオトの興奮を明らかに遮りレンジは声を荒げた。
「お前等、自分等の事を棚に上げてよくもそんな事が言えるな!?」
「ど、どういう事ですか?」
「そのまんまだよ、お前達が念入りにアカネのいる病院をパトロールなんかするからバレたんだろうが!!」
「そ、それは、パトロールは規則ですから…」
「規則、規則、規則、規則、正しい事を盾に言い訳すんな!!
そんな事をすれば、大事な事がそこで起こっている事がくらい、お前等は理解出来なかったのかよ!?
何でほっといてくれなかった!?」
「原則は破るワケには…」
「へっ、だったら、お前等がしくじったら、全て『漆黒の魔道士』に擦り付けるってのも『原則』まのかよ?」
「そ、それは…」
言い返す事も出来ずに、しかし、ここで引き下がったら、自分達の否を認める事になるのが、目に見えたのかずっと黙って言葉を捜しているのだろう。
―沈黙、そんな中で、レンジの乾いた笑いが何故か妙に聞こえ、この状態を終わらせた。
「なあ、もうあんた等が信用できないなんて、口で言わねえとわかんねえのか?」
「で、ですが…」
戸惑いそれだけしか、いえないのが自分達の非を認める事になったが、そこにセルフィがゆっくり答えた。
「帰るわよ」
ただ、それだけを言ったがレンジは笑いながら言った。
「正しい判断だな」
「ふん、忌々しいけど、どうやら貴方達を怒らせてしまったのは間違いないでしょう?
ある人がね、この後に起こる事を危惧してたから、私達はその『警戒』に当たらせてもらうわ」
『警戒』と強調して言うと、レンジはいつもの諦めた様子で答えた…。
「ああ、そうだな、そうなるわな…」
しばらくして、ヒオトが文句を言っていたようだが、三人分の足音が離れていくのを感じる、それが自分の中で安心したのだろう。
カエデに担がれてその場を離れようとした時、完全に身体の力が抜け切った。
「ちょ、ちょっと…」
心配そうにカエデは身体を揺するが、もう意識は完全に落ちていた。
……。
…ねえ、起きてる?
眠ってるようだから、こっちから一方的に言うけどさ…
ありがと…ね。
私さ、人を信じる事が出来なかったから、周りが全部敵に見えていたんだ。
アンタの事も、自分の能力を自慢するためにこんな事をやってるってね。
うん、ごめん、そんな事を言うつもりじゃないんだけど…。
なんているか…まあ、アカネを助けようとしてくれてありがと。
私、これからカドクラに会ってくる。
どうしてって、理由はわかるかな?
やっぱり、許せないから…。
はは、殺されるかも?
だから、ここで謝っていたいんだ。
ごめん…。
でも自分自身に決着つけるって、どうすればいいのかな?
私、学校行ってないからわかんないから、こんな事を考えるのは間違っているのかな?
…うん、ホントにゴメン、気絶してるからわかんないよね?
でも、その前に…。
-そんな話も誰が話しているのだろうか、眠っている状態では理解する事が出来なかった。
だが、次の瞬間。
何をしたのだろうか、脳が電気を流した。
「はは、私も女の子だから。一応、経験してみたかったんだ。
初めてだったんだけど…。
うん、悪くないね。
まあ、目が覚めたら、私、きっと行けなくなるね」
照れくさそうなカエデの声が、目覚めないときっと後悔するという事だけを理解させるが、目蓋が重い。
身体に流れたさっきの電流をまだ残ってるのがわかり、懸命に身体を痛めつける。
寝顔は自分ではわからない、ただ歯でも食いしばっているのだろう、顔を歪ませて、ようやく目がさめる。
「おおっ、起きた!?」
しかし、そんな心境とは裏腹に目の前で確認できたのは、レンジだった。
壁にもたれかかったままの体勢で寝ていたようだった、周囲を眺める。すると、太陽が起きていた頃より、傾いていたので時計を見ると、2時間くらい寝ていたようだった。
「カエデさんは?」
「おいおい、無茶は良くねえって?」
いつもの軽い調子だったが、明らかに暗かったのが目に見えて窓枠に手を掛けて、自身の気持ちを抑えながら答えた。
「行ったよ、もう一時間も前にな…」