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第三十二話

 うるさくサイレンが鳴っていた。


 あれから2時間くらいか、さっさとマンホールを開けて地下に逃げ込みたかったが周囲を治安部や警察で固められていた事もあり、そこへ逃げる事が出来ずにビルの屋上を飛び回って隠れるしかなかった。


 包囲網から抜けるために闇を撒き散らせ、魔力を使い込みながら駆け抜けたので、自分の身体は息を切らせながら疲れきってはいたが、あの後、にらみ合いを続けるより、自分が逃げる事でアカネが救助されるのなら、この選択は仕方がない事だと理解はしていたのだが…。


 ドンッ!!


 拳は正直に壁を叩いていた。


 ようやく人気のない場所にそんな音が虚しさが増すなか、空を見上げると休ませるつもりはないらしい。


 ヘリの独特の音がしたのでそれを探しながら確認すると、幸い自分の下を通る事はなく影に隠れてそれを回避していると別の空から気配がした…。


 振り向くと、その人は斧槍を振り下ろしていた。


 間一髪避けて、反撃に足払いをするがそれを跳び上がり、空中で停止したまま、セルフィはハルバートを突きつけていた。


 「二人は?」


 「私は周辺警備で遅れてやってきてわかんないけど、無事に保護したらしいわ。


 後、私はヒオトさんに貴方を探すように言われただけよ」


 「言われただけ?」


 「どういう意味かわかるでしょう?」


 捕まえろという事だろう。


 「…みんな、私の仕業だと?」


 「ふん、そんなの聞かなくてもわかるでしょう?」


 「私はアカネさんを助けようとしただけですよ?」


 セルフィは『そう』と軽い調子で頷いて、考えながら聞いてきた。


 「でも、それだけで貴方がこの騒ぎを予想して、カドクラに情報を流したという疑念は晴れると思う?


 だから、みんな思っているのよ、貴方の仕業だって…」


 ここは当然の展開だとわかっていたのもあり…。


 「そうですねえ」


 軽く答えてしまうと、意外にセルフィは顔をしかめながら聞いてきた。

 

 「ねえ、それだけ?」


 「『それだけ』といいますと?」 


 「貴方が普通の犯罪者とは違うというのはわかるわ。あまりにもあっさりしてない?」

 

 「じゃあ、私が『助けた』と言いました。


 ですが、貴女は『それだけでは、疑念は晴れない』と言いました。


 そこで貴女の考えは『疑念を晴らすために、私に捕まれ』となってしまいます。


 そうなると少なくとも、私のいう台詞はわかるでしょう?」


 「ふん、『私は貴女に捕まる気はありませんよ』とでもいうの?」


 「はい、その通りです」


 「ふざけないで!?」


 ハルバートが更に顔に近付くが、立ち上がりながら聞いて見た。


 「ですが貴女だって私が何をやった人間なのか知っているでしょう。


 そんな人物がこんな状況を引き起こし、どう証明しろというのですか?


 そして私は、次に起こる『災難』に危惧するとしましょう。


 その事ですら、私が企んだ事になるのでしょう?」

 

 セルフィはふわりと音も立てずに着地するとハルバートを握り閉めて答えた。

 

 「じゃあ、私に何をしろというのよ?」


 「残念ながら、こういう時って、人は自分が正しいと思った事しか出来ないと思いませんか?」


 黙ったまま見つめあったままだが、セルフィはハルバートを構えるのをみて、姉妹だからだろうか殺気を出すタイミングも一緒で、飛び込んでくるタイミングもほぼ一緒だった。


 ただ違うのは、槍か剣かの違いだけ。


 まるで野球のスイングのように軽々と振り斬ったそれは、受け止めた自分の身体を見事に浮かせていた。


 長さの分だけ威力があったかと、顔をゆがめて地面に着地しながらもケガもない自分は前に戦ったように、試しに龍を放つ。


 すると、ハルバートを振り回して構えなおしたセルフィは、前と同じように…いや、軌道を変えるなく、宙に浮いたまま通信を入れた。


 「こちら、セルフィ、漆黒の魔道士を発見しました…」


 最後まで聞こえなかったが応援を呼んでいるのか、さっさと逃げてしまいたかったが、宙に浮いているセルフィを見て、逃げ切れる相手ではないと諦めた。


 おそらく、彼女の東方術の付加能力は『浮遊』だからだ。


 上からの追跡から一旦、見つかってしまえば逃れる事など難しいのは昔から、有名な話なのをセルフィは知っているのか、逃げられないと見せ付けながら、斬りつけて来た。


 「ある人がね、今回、怒らせたら一番いけない組織はどれというのを、姉さんと私に教えてくれたから聞くけど、それが何か貴方は知ってるの?」


 話しながら、切り伏せ、突き、後ろに飛んで距離を取ると空を掛けてから攻撃というおかげで、返答する事はできなかったが、構わず攻撃をしながら話す。


 「もし、貴方がその事を知っていたら!!


 もし、助ける姿を周囲に見せて、恐怖孤児たちに『漆黒の魔道士は、味方』だと思わせてしまえば!!」


 パターンのないコンビネーションのお陰で防御で手一杯になって、斧槍を腕で受け止めてつばぜり合いで間近でセルフィの綺麗な顔を捉えていると聞いてきた。


 「双方の治安部を壊滅出来るのもあるけど、貴方にとって最大のチャンスでしょうね!!


 姉さんを倒す機会があるのだから!?」


 その目が純粋に姉を心配する目でもあり、純粋に敵意を表していたのがとても辛く、痛かった。


 蹴り転がされ、ビルから落とされる中、いつも思う…。 


 それを『違う』と、それを姉に…みんなに説明するにはどうすればいいのだろうか?


 何とか闇を使って落下する横に見える壁に手を伸ばし、触れて速度を緩めるが…。


 パンッ


 乾いた音と衝撃が自分の身体を襲ったので、落下してしまう。


 「ぐあっ!!」


 慌てて地面に闇を撒き散らせてクッションを作るが完全ではなく身体中に痛みが走った。


 「…とうとう、追い詰めましたよ」


 聞き慣れた声だったので『衝撃』の犯人はヒオトだったのはわかったが、もう一人、そこに掛けよってくる戦乙女が駆け寄ってきたので、痛みの中、その人物を注目すると…。


 最悪な事態だというのだけはわかった。


 「セルフィちゃん、大丈夫~?」


 ハンマーを構えながら、おっとりとした声のミュリがそこに立っていたからだ。


 セルフィも降りてくる中、三人の中で最も注意するのはこのミュリだろう。


 ミュリの東方術の付加能力は『振動』。


 あのハンマーに触れれば確実に身体全体を震わせる。つまり、一撃で動けなくなるくらいのダメージを受けるという事だ。


 「ふん、覚悟しなさい


 じりじりと囲まれて距離を詰められセルフィがハルバートを振り回して、柄で地面を叩いた途端、三方向から一斉に飛び掛ってきた。


 そこでヒオトは一度戦った『油断』からか、打撃からフェイントで彼女から捕縛しに掛かるが…。ヒオトはセルフィのように空を駆けて避け、手にしたエストックで胸を切りつけられた。


 幸い防御本能で防ぐ事が出来たが、何が起きたかはわからなかった。


 東方術の付加能力とは本人しか効果はない。他人に分け与えることの出来るなど、聞いたことがなかった。


 だが、このヒオトに攻撃しようと再度、なりふり構わず闇を放つが…。


 驚く自分をよそにヒオトはセルフィのように彼女は『浮遊』していた。


 それどころか…。


 ヒオトが放つ衝撃は自分の目の前で二つに別れて向かってきた。


 おかげで防御し損ねるなか、セルフィが飛び込みながら『答え』を言った。


 「ふん、思ったとおり、私の付加能力は『空を飛ぶ』と勘違いしていたようね。


 さっき、浮かんでいるところを見せて正解だったわ」


 そのまま自分に向かってくるので、それを防ごうと突き飛ばすように攻撃をしようと右腕をふりおろそうとした。


 「何!?」


 後ろに下がったセルフィを追う様に前に出た途端、その右腕が『何か』に引っかかった。


 すかさずセルフィは、攻撃をしようと距離を詰めて、攻撃を繰り出す。


 しかし、まだ間に合うと…。


 安心したのだろう。


 ガードに当てた左腕はセルフィの攻撃するであろう位置まで来たが…。


 セルフィは踏み込んだ足を揃えて、しばらく見ていた。


 その時間差でタイミングが完全に狂う。


 今度こそ、セルフィの攻撃がくると思った時はもう攻撃を身体で受け止めようと覚悟はしていたが、その攻撃はガードしていた左腕を持ち上げただけで、セルフィは言った。


 「今までの罪を…」


 そういって視線を逸らすので、目で追うとミュリが振りかぶる。


 「…償いなさい」


 

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