第三十話
状況は最悪だった。
現場に辿り着くと、まず目に映ったのは落雷、その後、それで出来た『巨人』。
これがアカネの西方術の『雷』が肥大して作られたのだとわかったのは、その巨人が前に見た絵に描かれていた自分にそっくりだったからだ。
雷の影響か、雑音だらけの受信機がようやく治安部の会話を拾った。
『…あの魔道士にそっくりだな?』
『はい、もしかしたら彼はそれを狙ったのかも知れません』
『ふむ…』
『どうしたですか、隊長?』
『…いや、何でもない…早く現場に救援を頼む』
『了解』
通信が終わったので、改めて巨人を見ていると肩を叩かれた。
「ふっ、一度聞いてみたかったのだが、どうして先に出た私がお前の背中を見なければならんのだ?」
「貴女のお株を奪ってみただけですよ」
そう言いながら、病院の駐車場から姿を覗かせようとした時…。
「本気なのか?」
何でそんな事を聞いてきたのが、多分、わかっていたが、あえて聞いてきた彼女に振り向くと、惨状を見ながら、自分の事をどう見ているのだろうか、ため息をついた。
「あの巨人、お前にそっくりじゃないか?」
「それが何か?」
「そんなのが出てきた後に、大変危ないお前が現れる…。
それがどういう事がわかってるのか?」
「わかってます。ですが、私は彼女を助けてあげたいと思って助けようとするのは、間違ってますかね?」
呟くようにそう答えて、構わず姿を現そうとした時、呼び止められた。
「疑われるぞ?」
当然の見解だったが、それだけしか言う事しか出来ないのは、昔、彼女がそれをした事がある人だからなのだと知っていた、しかし、目を合わせる事が出来なかったので背中を向けて答えた。
「疑われるでしょうね」
自分はその巨人を見つめていた。そして、逃げ惑う人達を見つめて答えた。
「ですが彼女は初めて、自分を見て『敵じゃない』って、思ってくれた人でしてね。
そんな人を助けられなくて、今まで通りをやっていくのなら、こんな生き方、誰が好き好んでしませんよ…。
それにこれは暴走じゃなくて、魔力自体の肥大なら、まだ生きてる可能性はあるのでしょう?」
答えを待たず、駐車場にて巨人を見上げて道路標識に闇を撒きつかせて、二本ほど引き抜いて、治安部のリーダーに聞いて見た。
「私は治安部というのをみて、結構思うのですが…、私が治安部が嫌いなトコロは、そこでしてねえ。
だから『治安部に入る気なんて起きなかった』のですよ?」
かつて『昔』と同じ様に自分の登場に驚くいつもの光景を見ながら、巨人に走る。
すると病院屋上でたたずむ、それは声帯でもあるのだろうか、見つけるなりおたけびを挙げて、雷光を放ってきた。
それを道路標識を二刀に構えた自分のもう一つの双腕で切り払うと、腕を大きく振り下ろしてきたので、横に走って横に逃げる。
地面に散った雷光に一瞬、視界を奪われると次に目に映ったのは自分の大きさをした雷光のレフィーユ達が自分にまとわり着いてきた。
「くうっ!!」
頭上にあった時計に闇を使って引き離すが、その拍子に宙に出た時、巨人は自分を殴らんと腕を振る。
狙っていたのかどうかはわからない。だが慌てて守りを固めようとするが、間に合わないので防御本能と闇の法衣の濃度を出来るだけ高め、覚悟を決めようとすると…。
「はああああぁっ!!」
巨人の腕を根元から両断され、それは自分の身体を空振りするように空に四散していた。
「ふっ、確かに救える命があるというのに、それを見捨てるのは治安部あるまじき行為だな。
だが、それだけの覚悟をお前は背負っていたのだな、昔から…」
巨人がようやく腕を再生したのをみるまでしばらく、向かい合っているとレフィーユは微笑んで背中同士を当てて答えた。
「だったら、助けてみせろ」