第二話
「イワトさん、やられたみたいですよ」
白薔薇の食堂にて、ガツガツと昼食を食べているイワトに報告をした。
「やっぱりのう、アイツやっぱり口だけじゃったのう」
「仕方ないですよ。
いくら腕自慢の精鋭を集めたといっても、相手は白薔薇のヴァルキリーですよ?
正面から当たる事自体、間違っていると思いますよ」
このやりとりだけで、今、自分達が何をやっているのかわからないと思うので説明しよう。
合同学園生活交流会とは、そもそも一緒に授業を行なうという事はしない。
自分達でイベントを考えて、招いた学園をそのイベントでもてなす事にある。
そして、白薔薇の考えたイベントはこうだ。
『お前、ボコボコにしてやんよっ!!2校で大っ戦争っ!!』
ルールは簡単、用意されたケガをしない程度に作られた棒やボールを用いて2校で戦争を行なうのだ。
勝敗は校章を印刷した旗を奪えばよいのだが、これは布の部分だけを取り外す事をして持ち運ぶ事が出来て、これを隠さず、持ち運んでのみ、旗を守る事が出来るというルールだ。
決着がつくまで戦い続け、一日で決着がつかなかったら、次に持ち越しもあり、自分としては…
「自分としては参加者は治安部全員と立候補者だったので、参観したかったのですがね」
するとイワトは『ガハハ』と笑いながらこう言った。
「参観する年齢でもないじゃろうが、それにワシは『アタシ、戦力にならないアルよ』って、ふざけて断るから逆鱗に触れたと思うぞ?」
「いや〜、迂闊でしたね。まさかネットが降って来るとは…」
この辺はさすがにレフィーユの前校なのだろう。
さらに『いや、母なる大地に帰るアル!!』と言って足掻いているとセルフィもやってきて。
「ふん、ふざけてないでアンタも参加するのよ」
セルフィのとどめの一声で、参加する破目になっていた。
「ちなみにそれで残り何人になったんじゃ?」
「そうですね…」
現在の状況が放送で流されていた。
『…セルフィさん。
以上、24名です。
続きまして、白鳳学園生徒の残りを報告します。
レフィーユさん。
ユカリさん。
アラバくん。
イワトくん。
ええっと、一人なんですけど、さっき突撃を仕掛けた隊長のようです。
報告があり次第、放送で流させてもらいます』
「まだ生きていたのですね」
「アイツ逃げ足だけは早いからのう」
ガツガツガツと食べて、イワトが笑っていると誰かがやってきたので、身を潜めて覗いてみるとレフィーユとユカリがやってきた。
何故、治安部でないユカリがここにいるのかというと、レフィーユさんの活動を肌で感じたいというちょっと危ない理由で立候補したからだ。
「いらっしゃい、何にいたしましょうか?」
「あなた達、こんなトコロに隠れてましたの!!?」
「『学園内なら、どこに行っても隠れても良い』のでしょう?
確かに総力戦を仕掛ける時に誘われはしましたけど、明らかに分の悪さが目に見えてましたからね。
早々に隠れさせてもらいましたよ」
そして『ああ、お前達っ!!』と総力戦を仕掛けた本人がやってきて、文句を言ってきたがレフィーユは無視をするように、この厨房に入ろうとしているのか入り口を探しながら自分に言った。
「だが、これで残り5人か…。
午後まで持ち応えると思ったのだが、セルフィ達も意外とやるようだな」
ようやく見つけて厨房内にあるテーブルを囲む5人…。
人数差にして、19人差…。
明らかに不利な体制を作った男が、これが理由だと言わんばかりに騒いだ。
「レフィーユさん、これも総力戦に加わらなかったこいつ等のせいですよ。
お前達さえ、ちゃんとこのジング…」
「一人や二人加わっただけでも、戦局は変わるモノでないとは思いますけど?」
「お姉さま、言い訳はありそうですわ」
「はっ、面白い。
聞こうじゃないか、言い訳をなっ!?」
…レフィーユは、彼女の腕には自分達の校章が縫い付けられている旗をワッペンのようにしていた。
今まで影で白薔薇側の生徒を打ち倒しては、それを見せて『校章はレフィーユさんが付けている』とあえて情報を流していたので、彼女は彼女なりに仕事はしていたようだ。
「それで何か言いたい事はあるのか?」
彼女自身も戦列に加わらなかった理由は『どうなるかわかっていた』のだろうから説明した。
「自分達がこの学園内の構造を知らない事にあるのですよ」
「何を言うかと思えばアラバ、このジン…」
反論としては『その程度の事くらい覚えた』と言っているが…。
「じゃあ聞きますけど、例えば、この科学室、どれくらいあるか知ってます?」
「最初の戦いの敗因を言っている事くらいは解るが、お前は何を私に言わせたいのだ?」
『わからんのか?』とレフィーユが、その人に呆れながら言い、代わりに答えた。
「隠れるトコロを知っているリスティア側、それに対して、知らない白鳳側は明らかに不利な状況で戦わされていると言いたいのだろう?
そして、最後の総力戦も挟み撃ちに合い、敗北といったトコロか?」
そのまま見つめられた敗北の将は、そのまま黙り込んだ。
「だが、そうなるとどうする?
この人数では、ロクな作戦も立てられないだろう?」
「ズバリ、特攻しかないでしょう!?」
今度はあまりにも無謀だと『みんな』わかったのだろう。
『却下』
その部分だけ厨房内に響いた。
「…たく、何を考えているのだ
まあ、他には?」
「ゲリラしかないでしょうね」
「まあ、そうなるのう。
じゃが、お前の事じゃ、『ただ』のゲリラはしないんじゃろう?」
笑いながらイワトは、そう言ったのでレフィーユは微笑んで聞いた。
「ほう、よからぬ事か?」
「はい、そうなりますね。
そのための腹ごしらえですから…」
そう言いながら、一冊の本を取り出してレフィーユに見せた。
そのまま、パラパラと見たので一度読んだ事があった本なのだろうか、そう思っているとレフィーユは納得した表情で了承した。
「それじゃあ、反撃開始に先制攻撃といこうじゃないか、ユカリ、手伝ってくれ」
「あのお姉さま、一体何をするつもりですの?」
「女しか出来ない戦い方を見せるのさ。
まあ、お前達も食事はそこまでにして手伝え」
――。
ここは白薔薇の正面玄関、ここを白薔薇のヴァルキリーと参加者達は本部にしていた。
「そろそろ昼食の時間だから、セルフィさん先に行きませんか?」
年齢は違うが、同級生のヒオトさんがそう言って来た。
「いえ、私はもう少し後からにします」
「この人数ですよ。こんな時に攻め込む何て人は…」
「それが姉さんなのよ。
あの姉さんの事だから、こういう時が一番危険なのよ。
それに…」
「あの噂の人の事ですか?
そんなに脅威には…」
『脅威と思えない』
ヒオトだけではない。
それが周囲の反応…。
だけどそれがとても『脅威』に思えて仕方がなかった。
「きっと気のせいですって…」
果たしてそうだろうか?
あの突撃以来、白鳳学園の生徒全員、隠れているのは分かっている。
静寂には余りある静寂が緊張を解かしてならないけど…。
「セルフィちゃん、それ身体に毒だよ。
ここの警備の人数を増やして、腹ごしらえくらいしといた方がいいよ?」
もう一人のヴァルキリーである、ミュリが通信機を弄って、勝手に『ここの警備よろしく』と言って脇を掴んで、さらに肩脇をさっきの人に掴まれ引っ張られた。
「ちょ、ちょっと!?」
「こんな時に来ませんって…」
「そうそう、セルフィちゃん、年上のいう事は聞くものよ。
それに、今日のデザートは見逃せないんだから」
「あっ、有名パティシエが作った。ケーキですよね?」
ズルズルと引っ張られてようやく、食堂に辿り着いた頃には人だかりが出来ていた。
「…レフィーユさんも、おすすめだって言ってましたよ。
あれ、どうしたのかな?」
明らかにそのケーキ目当てに騒いでいなかったので、人だかりを割くように掻き分けて騒ぎの元凶に辿り着くと、そこは厨房のデザートブースだった。
そして、背後からの声が騒ぎの原因を語っていた。
「どうして、ケーキがもう無いのよ!?」
「すっ、すいません!?
レフィーユ様がこちらにいらっしゃいまして…」
『ふざけないで!?』
『何で姉さまのせいにするの!?』
『そうだ、そうだ』と男子も声が混ざる中、私は直感した。
「ま、まさか…」
「間違いないわ…」
昔、姉さんに聞いた事があった。
『戦いの際は、敵に容赦するな』
これは明らかに姉さんの仕業だった。