第二十三話
「相変わらず、遅い登場だな?」
「すいませんね、わたくしには『校則』はございませんので、ゆっくりと来させてもらいましたよ」
「ふっ、それでお前は、どうしてここにやって来た?」
二人にしかわからない冗談を付きながら、カエデを見て彼女に言った。
「今回、彼女の相手を私にやらせてもらえないかと思いましてね」
「隊長の実力を一番良く知っている貴方が、言う台詞ではありませんね。何を愚問な事を聞いているのですか?」
「東方術を溶解するよどの高い熱を放つ手刀を持つ西方術者ですよ。
貴方はそんな相手が、東方術者の彼女にとって相性の良いと言うのですか?」
ヒオトは俯いて黙り込んだが、今度はセルフィが口答えした。
「ふん、アンタなら、大丈夫だというの?」
「ここまで私の提案に乗って頂いたのなら、最後まではお付き合い願いたいものですね」
返答を待たず、セルフィを横切ると何もしてこなかったので『了承』と受け止めて、カエデの前に立って、身構えて聞いた。
「カエデさん…でしたね?」
何で名前を知っているのか、よほどびっくりしたのか…。
「へっ、名前も知っているんだったら、事件が起きてまで傍観してたみたいだね」
そう答えるが声が震えていた。
「まあ、私としては爆発する前に貴女を捕まえるつもりでしたが、先に爆発が起きてしまいましたから、そこは悪態付いてもらっても構いませんよ。
ですが、『貴女とは一度、話がしてみたいという点』では狙い通りだったのでしてね」
「私に話?」
「簡単な事です、これ以上、今回の事件には関わらないでほしいのですよ」
「ふん、冗談じゃないね。
コイツの言ったとおり、私は楽しいし、ついでに金目の物も盗めるからやってるんだよ」
「盗みが目的ですか、レフィーユさん、被害届けは出ているのですか?」
「いや、出てないな…」
「おや、おかしいですね…?」
目がニヤついているのが見えたのだろうか、カエデは近くにある机を叩いたが、それは音もなく崩れ落ちた。
「う、うるさい、アンタに何がわかるってんだよ!!」
「何もわかっておりませんが?」
『ちっ』と椅子を蹴飛ばすと、何が言いたいのか聞いてきたので答えた。
「私が言いたいは、困っているのならここにいる、彼女達に助けを求めてみたらどうですかといっているのですよ?」
「へっ、悪い冗談だね。レフィーユなら、話くらい聞いたかもしれないけどさ、いない間、私達がどんな扱いを受けたか知ってる?
何かあったら、すぐに私達を疑って、そんな奴らを信用しろってのかい?」
背中の方で二人が黙ったのだろうか、沈黙独特の不快感が独特の嫌な空気を感じ取りながら、自分の気付いた事が確信に変わったので、ある意思を示すためにこう言った。
「ですが、やはりその様子だと、『何かあったから、従わなければならない』という事は確かなようですね。
詳しく、聞かせてもらいたいものですね」
言った意味が伝わったのか、それとも身に纏った法衣が『ぎゅ』と凝縮したのを見たからだろうか、彼女は身構えて飛び掛ってきた。
それを避けて、横薙ぎに鞭のような黒い影を放つとカエデは手刀を振り下ろす。
『ジュウッ』と鈍く干上がるような音と共に、影は切り落とされるのを見てヒオトはレフィーユに聞いてきた。
「隊長、あの魔道士がやるといっても、手伝わなくてよろしいのですか?」
「別に構わんだろう。偽者相手に私は不利らしいからな」
「それじゃ、隊長の立場が?」
「あの男は私が怪我をするのを警戒したのだろう。
珍しく『自分がやる』と言ったのだ、私はその言葉に甘えさせてもらうとするさ」
「そんな、私は隊長があんな危険人物より遅れをとるとは思えません」
ただ一言が少し彼女の顔を曇らせた。
「だったら、お前は私が怪我をする事を考えた事があるのか?」
聞こえなかったのだろうか『何でしょうか?』とヒオトは聞き返してきたが、こうなってしまえば…。
「いや、何でもない…」
と戦っている魔道士に視線を移すと、自然と呟きが漏れた。
「『…でした』か…」
それこそ聞こえない声だったが、その音に反応したのかセルフィが聞いてきた。
「でも姉さん、そんなに魔道士は強いの?」
「セルフィ、あの腕前はお前が良く知っているだろう?」
『ふん』と、いつものような態度で視線を戻すが、実際、魔道士の放つ鞭が切り裂かれていたので、心配になったのか聞いてきたのだろう。
「心配するな、あれでも私と共に場数を踏んできているのだ。見てみろ…」
ようやく鞭が偽者の腕に弾かれ、彼が鞭を繰り返して振っていた理由を答えた。
「ああやって、『溶けない強度』をあの男なりに探っていたのさ」
そういうと同時だろうか漆黒の魔道士は、初めて蹴りや拳を絡ませたコンビネーションを見せる。
「ふっ、意外と決着は早いかもしれないな…」
彼女の見つめる先には、昔、彼女が味わった事のある技を思い浮かべていた。
組み付いて、体勢を崩す、独特の体勢に彼女は呟く。
「柔道か、決まったな…」
「あっ、手放した」
ダメージを与える為に投げて手放したワケではない。
「熱ぅ!!」
魔道士は腕を抑えていた。
慌てて逃げるように…というより、完全に逃げて距離を取る魔道士、丁度、逃げる道筋にレフィーユが立っていたので聞いてみた。
「いや〜、弾いていたからわからなかったのですが、『熱』を通すようですね」
「知らなかったのか?」
「長らく使ってますが、『全て』を知っているわけではありませんのでね」
「ふっ、やはり手伝おうか?」
「ご、ご心配なく…」
そう答えると『闇』が彼の身体から噴出した。
辺りは黒い煙に包まれ、その中で顎の先端を殴りつけようとするが、慌てて偽者は受け止めて、熱を込めているのだろうか目を細める。
それに魔道士は気付いて、また慌てて距離をとるので、今度はセルフィが聞いてきた。
「姉さん、ホントに手伝わないでいいの?」
だがこの姉は『闇を噴出させた』という行為を知っていたのでこう答えた。
「いや、終わりだ」
もう一度、顎を狙ってきた。
同じ角度、同じ速度…。
人間には『慣れ』という修正がある。
何度かあった攻撃パターンというのは徐々に反応されてしまうモノ。
その偽者はそれに習うように、受けようとするが…『ガクンッ』と急にガードしていた腕が下がった。
相手は何が起きたのかわからないという顔をしていた。
「破廉恥だな」
ただ、経験のあるレフィーユだけが答えるまでは。
服の中に侵入した闇が内側からガードを解いて、完全に反応が遅れた偽者は『アゴには、かすった程度のダメージなのではないか』という感覚しかないのだろう、そのまま床に倒れたのであった。
指摘も受け付けておりますが、設定でわからないトコロがあれば説明など受け付けております。