第二十二話
「数、多いです…ねえ」
タイミングを見計らい、窓から潜入を果たすと犯人側もそれを予想していたのか、それとも、ここが『たまり場』だったのだろうか、予想以上に発狂者は多かった。
「そんな事で弱音を吐くとは、やはり悪党ですね」
ヒオトはそう答え、エストックという突剣で発狂者の胸元をすばやく突いてから、距離をとって構えなおし、更に斬り付けるように空振りをする。
しかし、ヒオトは構わず『ビュンビュン』と自分で作った武器で数回、そして、最後に突きを放つ頃には『パンッ』とまるで小さな風船を膨らませて割った時のような高くて軽い音が響いた。
それがヒオトの東方術、付加能力は『衝撃』、それは前に訓練の時に見たようにヒオトの斬る動作で閃光と共に衝撃波を放つ。
初弾で視界を奪い。残りの数発でその身体は、まるで踊るように着弾を許し、防御本能でも防ぎきる事なく、相手はその場に倒れていた。
凡庸ゆえに柔軟、柔軟ゆえの強さがあるとヒオトを、レフィーユが称していた事も頷けたように、味方になればこれほど心強い事はないと思えたくらい、戦いやすい環境が…。
「ぐあっ!!」
…前言撤回、彼女にとって自分は敵なのだろう。
こうやって隙みせたら、こっちに衝撃波が飛んできた。
思わず捕獲した発狂者を盾にしてしまったが、彼女は悪ぶる様子も無いので少し『ムッ』としていると、構う事無く自分にさらなる発狂者が斧を振り下ろして来た。
『ドゴッ』という鈍い音をさせて床に斧先がめり込み、その瞬間、発狂者の視界が濁った。
顎の先端を捉えて殴りつけられ、発狂者はこっちに近寄ってくる。
しかし、自分の身体の変化に気付いたのだろうか足がガクガクと震えた事に気付いた頃には、その場に倒れ込んで痙攣を起こしていた。
「漆黒の魔道士が人に触れれば命を奪う…。その噂はホントだったんですね?」
一段落する頃、よほどさっきの『光景』が異様に見えたのか、ヒオトは警戒しながら身構えながら聞いてきた。
「気絶させただけで、命まで奪ってませんよ。
物が飛んできて当たった時に、当たり所によっては気絶したりするでしょう?」
『にわかに信じられるか』と言いたいのか、ヒオトは一瞥したまま、さっきの発狂者の様子を調べているとホントに気絶していたので驚きを隠せない様子だった。
「信じられない人ですね、人には防御本能があるのですよ?」
「それは人類に魔法が使えるようになってから言われている概念でしょう?
不意に転んだり、割れたガラスを掃除している時に気をつけているつもりでも怪我をするように、人間、結局は『不意』に反応できないのですよ」
「じゃあ、貴方はその防御本能が働く前に打撃を加える事が出来るという事ですか?」
どう思っているのか、自分は心を読む事など出来はしないが何となく見てとれた。
昔はボクシングなど、テレビで放映されていたらしいが、魔法が使える今では戦場を丸腰で出歩く者は愚か者といないといったように、その技術が衰えていった。
そのため、身を守るためには『武器を要した護身術』が流行り、ドラマでは武器を手にして拉致監禁と言ったように…。
見た事がないのだ…。
殴りつけて、気絶させる人間や光景を…。
今、驚くように見ている彼女は、そんな自分が異様に見えたのだろう。
その噂を流した、『彼女』のように…。
「どうしたのですか?」
ただ答えることもなく目を瞑ってしまったのが、どう思われたのかをつい気にしてしまったが、とりあえず偽者を探そうと階段を上がる事にした。
するとそこではセルフィとレフィーユが偽者を挟んでいた。
「観念して、捕まってほしいモノだな」
思わず、普段のクセで影に隠れているとカエデは強気に答えていた。
「お断りだね。アンタらに捕まるくらいなら、それこそみんなに迷惑が掛かるって話よ」
「ふん、アンタが、カドクラにそそのかされて協力してる事くらいは、もう調べているのよ」
その一言にカエデの表情は変わっていったが…。
「お金欲しさで、そんな事に協力する加わるなんて、見下げたモノね」
『違う…』
カエデと同じ様に自分が呟いたのをヒオトは聞いていたのか『何が違うのか』と聞いてきた。
セルフィと同じような『前置き』を言って。
「あなた達は恐怖孤児の実生活というのを見た事がありますか?」
「あっ、ありません。ですが、この事件は貴方の偽者がカドクラにそそのかれた事件だと隊長が…」
「私は恐怖孤児の事をどれくらい知っているのか聞いたのですが?
『隊長が』と言いかけましたが、もしかしてあなた達は、あの人が言ったから『恐怖孤児の全体』への疑いを無くしたと言うのですか?」
「…人を疑うという事は、人に対して大変、失礼な事です。
犯罪者の貴方にはわからないでしょうけど、疑いが晴れた以上、迅速に新たな疑いを調べて真相を明かす事が私達に出来る唯一の罪滅ぼしなのですよ」
まるでサスペンスに出てくる警察の様な言い分だった。
最初の容疑者を捕まえて、『お前がやったのだろう』と少々乱暴に尋問して、主人公の登場して、『犯人じゃない理由』を説明して、ようやく新たな容疑者を探し出す。
ただここにある、その『役』は決まって…。
「謝りにいかないのですか?」
「貴方も見た事がありませんか、事件にあった多くの被害者はこう言います。
『早く、事件を解決させてほしい』と、だから、私達のやっている事は、決して間違いじゃないと思ってます」
「ですが、また事件が起きれば、またあの人たちを疑うのですか?」
つい睨みつけられたが、つい笑ってしまったのがヒオトは気にくわないのだろう。
「あの人が『呆れた』と言ったのも頷けるような気がしますよ」
さらに悪態を付くと、とうとうこう言った。
「貴方に何がわかるのですか!?」
「…あの人は、貴女達の学園には、もういないのですよ?
頑なに、そんな姿勢を保ち続ければ、彼女でなくても呆れますがね」
その一言でヒオトが黙り込んだのを見て、さらに続けた。
「それに被害者が『早く、事件を解決してほしい』なんて、そう答える事しか出来ないから言ってだけでね。
それを理由に他の真相を知ろうなんて事を怠けていたら、ホントに真相など遠ざかってしまいますよ」
「な、怠けてなんて…。
じゃあ、貴方は今回の『真相』を知っているとでもいうのですか?」
そう聞いてくるのと、眺めていた偽者が身構えたのが一緒だったので、黙ってこちらも出る事にした。
「やあ、レフィーユさん…」