第二十一話
『レフィーユさん、今、出てきました。
仲間の皆さんに誰も会わない様に隠れて、手荷物一つで、この区域から出るところをみると、多分いよいよでしょうね』
見下ろしているのだろうか、無線から聞こえた鈍い声は、その声は少し余裕を持っていたので、私は『了解』と一言答えて、徐々に彼女を包囲するような体勢を取らせるように指示していると驚きながらセルフィは答えた。
「ふん、あの魔道士の言った通り、ホントに偽者騒ぎが起こるようだけど、まだ気が抜けないわね」
「何だ、セルフィ、お前は信じていないのか?」
そう答えると、彼女の表情が答えを物語っていたので、続けながら答えているとこう言う事だ。
犯人側からしてみれば、今、最も呼び込みに使える。その『危険人物』が捕まったのだ。
そうなると、偽者を利用した手段が使えなくなり、犯人側はもう一回、同じ犯行を繰り返さなければならないのだ、
それこそ『こっちに現れた漆黒の魔道士がホンモノかもしれないのに、レフィーユはどうして動かないのだろう?』と世間に思わせて私を呼び込むようにと、実際、漆黒の魔道士が言ったようになっていた。
だが、セルフィは不満を漏らしながら答えた。
「私が犯人なら、他の手段を考えるけど?」
「ふっ、目的があって事件を起こす犯人というはな。
どうしても事件を起こして目的を果たすまでに同じような『被害総額』をたたき出してしまうのさ」
「被害総額?」
「言い方は悪いかもしれないがな…。
今回の場合、爆破されて、薬物発狂者と共に漆黒の魔道士が現れているだろう?
それまでに発生する、爆破したモノの金額と死傷者の数字の事だと思っていい。
繰り返される犯罪というのは、その被害総額は、どうしても自然と一定になってしまうモノなのさ。
そして、それを踏まえた上で今回、犯人側にとって、もう一つ重要な項目がある…」
するとまた通信が入って来たので、さらに範囲を狭めようと自分も車に乗って、彼女の向かう方向に車を走らせる。
セルフィは、続きが気になるという顔をしていたが、その間に重要な項目の事を考えていたようだったので答えてきた。
「確かに姉さんが目的なら、重要かもしれないかも…」
被害総額+死傷者=目的と考えていたのだろう。確かに考え方としては合っていたが、答えは少し違っていたので首を振りながら答えた。
「セルフィ、重要なのは、その方程式を使って、いかに目的が世間に知られないかという『確率』だ。
確かにお前の言ったように事件というのには目的が存在する。
だが一定を繰り返した数字というモノは、どちらか一方が大きくなると世間や人に目的がバレてしまうモノなのさ。
そうなってしまうと犯人にとってはそれほど目的を果たし難い状況はないだろうな。
私とて『自分が犯人ですよ』と発炎筒を片手に握手を求めてくるような輩は、ご遠慮願いたいものだ」
そして、今、偽者が騒ぎを起こすとなると、世間は『また同じ事件が起こった、もしかしたら、本物かもしれない』と捉える人の多い方だろう。
「でも姉さん、それで偽者が誰だかわからないからという理由で、漆黒の魔道士を釈放するなんて…」
「ヤツは戻って来ると言ったのだ。それくらい信じてやっても構わんだろう?」
セルフィの言い分はごもっともだろう。
だが『信じれる理由』を言うわけにもいかないので…。
「二兎を追おうと考えるな、今のアイツは敵ではない。それを踏まえて『柔軟』に偽者の確保に向かってほしい」
と答えると、セルフィは『わかった』と言って、どう捉えたのだろうか別の無線を手にして言った。
「だったら姉さん『柔軟』にやらせてもらうわよ」
と言って、おそらくセルフィは信用出来ないのだろう。
彼の後ろに尾行しているらしい、ヒオトに連絡を取っていたがこっちからも彼から通信が入る頃には自分でも、おそらく爆破されるであろう建物の目星は付いて来ていた。
セルフィも目的を果たそうと通信をする。
「ヒオトさん、相手は漆黒の魔道士です。くれぐれも慎重にお願いします」
そして、返事が帰ってきた。
『確かに偽者が相手ですからね、しかし私も心配してほしいですね』
「何でアンタが出てくるのよ!?」
『ご心配なく、ヒオトさんには怪我のないように取り押さえて、見てますから…。
それよりレフィーユさん、偽者が手荷物から黒い法衣を取り出して、身に纏い始めました。
おそらく…』
「そろそろか?」
『はい』と軽く答えると、彼も警戒を始めたのだろうか、それ以上何も言わなくなった。
……。
「大した読みですね、私の監視に気付いていたとは…」
静かにカエデの監視をしていた自分に捕らえられたヒオトは身動きも取れないのでそんな皮肉をもらしていた。
「開始数十秒で、捕縛された人がそんな皮肉を言っても、格好はつきませんよ?
私が信用されないのはいつもの事ですからね、貴女が私の予想を超える事といえばおのずと一つだけになるのですよ」
「それは何ですか?」
「何もしないで、じっとしてる事ですかね」
にこやかに答えるのがよほど気に入らなかったのか顔を背けたまま、自らを取り押さえている闇から逃れようと足掻いていた。
「無理しない方が良いですよ、私がこうやって完全に取り押さえられたら、どんなに足掻いても…ねえ?」
そう言う途中でも、ヒオトは自分の東方術で作った、エストックで何とか自分を取り押さえている闇の柱の一本を切り落とす事が出来るが、どうしても自分が倒れている体勢のために脱出が遅れてしまい、また新たな柱に阻まれていた。
「まあ、良いじゃないですか、誰にも見られず、こうやって屋上まで上がって絶好の場所で監視が出来るのですから?」
「それを言うなら、さっさとこれを外しなさい」
尚も足掻くが、今のヒオトの様子だと、外したら外したで自分に向かって騒いでしまいそうだったので、とりあえず無視して監視をする事にした。
すると、カエデの方は着替え終わっていたようだった。
周囲を伺って、自分のいるビルの隙間にある窓から入るつもりなのだろうか、しばらく待機していたので、自分はカエデの見上げているビルの位置をレフィーユに教えるついでに聞いて見た。
「やはりあちらのビルが爆破目標になるのですかね?」
その時だった…。
「きゃああ!!」
ヒオトの普段聞くことのない叫びを上げて、自分はそのまましゃがみ込んだ。
カエデの入り込もうとした、自分の向かいのビルが爆発が起きたのだ。
『始まった様だな…大丈夫か?』
彼女は冷静に聞いてきたが、しばらく動けなかったので『大丈夫』と言うまでに少し時間が掛かった。
「どうやら考え方を間違えていたようです」
『どういう事だ?』
「まだ、カエデさんは、ビルの中に入っていません。『爆発』はどうやら犯人側が起こしていたようです…」
『偽者がという事か?』
「違います、彼女は何もやっていないという事です。
多分、『あのビルにタイマーをセットしたから、お前はそこに立て』とでも言われたのでしょう」
『なるほど実行犯はタイマーを仕掛けて脱出、そして彼女は偽者という役割をするというワケか?』
「おそらくその爆弾をセットさせる役目が発狂者なのでしょうね。
『爆弾を仕掛けた隣のロッカーの中に薬はあるから』といえば、中毒者は従いますからね。
そして、強すぎる薬物を飲ませてしまわせて、証拠隠滅を兼ねた発狂者を作り上げるワケでしょう。
レフィーユさんは、先に偽者の確保に向かってください」
そう言うと、カエデがすでにそのビルに入り込んだようで、屋上からその姿を現した。
「あれ、漆黒の魔道士じゃない!?」
「捕まったんじゃないのか!?」
予想通りの反応を見せて、そんな騒ぎを起こす中、逃げ惑う人たちを見て、更に空を見上げると始めて本物と偽者が目を合わせた。