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第二十話

 そうして、自分の提案を話すと当然の処置と言えば聞こえは良いが、その後、留置場へと幽閉された。


 この地下にある留置場、白鳳学園にもあるが、ここまでの大きさを有するのも、さすがは彼女がいた学園だと思いながらも、牢獄の中にぽつんと一人残されると、鉄格子に背中を預けて座る事しかやる事がない。


 そのため、誰もいない静寂だけを耳を済ませて聞き取っていると『隊長、ご苦労様です』と聞き慣れた声が聞こえたので、鉄格子の構造上、見えるはずの無い入り口を眺めていると、入って来るのだろう。


 重いドアの開くような音が聞こえたので、簡易ベッドと小さく格子で塞がれた窓に顔を戻して目を閉じていると、それはこっちにやって来た。


 そして、周囲を眺めたのだろうか、少し間をおいて、その人物が聞いて来た。


 「昔、監視カメラを付けようという話をしていたが、流石にそれは可哀相だと中止になってくれたのは幸いだったな。どうだ、居心地は?」


 「トイレが個室だという事が、唯一の救いですね」


 そんな悪い冗談を言う自分は彼女にとってどう見えたのだろうか、『そうか』と一言答えて、しばらく黙ったままだったが、先の取調べの事を口にしていた。


 「しかし、お前が捕まる事によって、犯人側にとってとても不味い事だという事が、セルフィ達が気付かないとは…。


 すまなかったな、苦労を掛けてしまった」


 「いえ、お構いなく、それだけ一筋縄だといかない人たちだと言う証拠でしょう。


 ですが、カドクラでしたっけ?


 その人は今まで私を利用して、貴女を呼びこむ事を繰り返して来ました。


 必ず、動きがあります。その時は…」


 「わかってる」


 「お願いします。私も、何とかして駆けつけますので…。


 ですがね、まさか今回の主犯格まで調べるまでに至るとは思いませんでしたよ」


 『お前は知っていたのか』と彼女に聞かれたが、いずれわかる事だろうと後回しにしていた事もあり、『知りませんでしたね』と振り向きもせず、首を振っていると彼女は答えた。


 「そのおかげでセルフィに『お前の協力なんか必要ない』と言われて、提案が無駄になりそうだったがな。


 まったく、どうもセルフィ達には証拠もない内に一番、怪しい相手の周りをかぎ回れば、権力がある人間であればあるほど、尻尾を出さなくなるのを知らんらしい。


 私は偽者を事件に関わらないようにさせてから、事件を解決させるという、お前の考えの方には見習うべきトコロがあると思うぞ」


 流石だなと感心したように、『ふっ』と笑みを浮かべていたのか…、少しそれは違ったので、彼女に後ろを向いたまま答えた。


 「実を言いますと、これは私が考えた『提案』では無いのですよ」


 「ほう、恐怖孤児の一人か…?」


 どうもレフィーユは『協力者』がいる事を知らなかったらしいので、その経緯を話しアカネの事も話した。


 彼女が病弱だという事、そして、おそらくだが偽者も彼女の薬を買うお金を稼ぐためにこんな事をやっているのだと思っている事も…。


 「実際、アカネさんが『どうにかしてみんな助けられないか』と言われなければ考えつきませんでし…あれ、レフィーユさん?」


 「そうなると、お前は女の所に転がり込んでいたという事になるな?」


 「それは成り行きですから…」


 「理由になってないな」


 「なりませんかね?」


 「ああ、ならないな。


 相変わらず失礼な男だなお前は…」


 ホントはそんな事を話す為に、ここに来たのではないのはお互いわかっていた。


 というより、自分自身がこれ以上、何も話す気が起きなかった。


 「こたえたか?」


 と、格子に背中を預けている男に彼女は的確に今の心境を一言だけ聞いてきた。


 「はい…、そういう貴女も、元気がありませんね?」


 「作画の崩壊している。お前に言われたくないな」


 レフィーユがそう答えると言い返すには、少し時間が掛かった。


 気が付くと『こつん』と後頭部が鉄格子に当たっていた。


 後ろを向いているため、彼女の様子はわからなかったが、しばらく月を眺めているとようやく口が動いて言葉がでた。


 「これでもここに来る前までは、狂人とか色んな事を言われるのは覚悟していたのですが自分の認識がまだ、甘かったのでしょうか…。


 同い年の人やら、昨日、出会っている人に『人殺し』ですよ…」


 闇を使いながら、腕に掛けられた手錠を外し、背伸びをしながら先の取調べを思い出すが、実際掴み掛けられ『過去の悪行』を唱え出すやら、さっきもあったような単語が飛び交うという、あまりいいものではなかった。


 そのおかげで背中を預けていた格子に更にもたれ掛かり、ズレていく。


 すると後頭部の辺りが少し暖かくなったので、初めて後ろを振り返るとすらりと伸びた背中が見えたので姿勢を治した。


 そして、二人とも同じ様にして座る頃、不意に聞いてきた。


 「何故、『やっていない』と言い返さなかった?」


 言うとおり、殺人などはやった事はない。彼女の言うとおり言ってしまいたかったが…。


 「多分『コイツは何を言っているのだ』という目を皆さんはするでしょうね」


 その時、レンジ達の『諦めた』心境がわかったような気がした。


 言っても無駄だという事なのだろう。


 どんなに自分が正しい事をしても、人の先入観が変わる事は少ない。


 例えば、自分が人を助ける事が出来ても『漆黒の魔道士』という名前は消える事はない。


 ただの『悪役』…。


 悪役だから、信用してはいけない。ましてや死者が出るような騒ぎを起こした人物であれば、近寄ってはならない。


 このように、恐怖孤児も一般市民からみれば事件を起こす悪役なのだ。


 どんなに正しい事を訴えても悪役…。


 だから諦め、だからその偏見に負けないように、気を張るような生き方をしなければならないのだろう。


 同情はされたくないだろうが、つらい生き方だという事には変わりはない。


 それを知っているからこそ、アカネの言う願いを叶えようとしたのかもしれない。


 そう思っていると、背中を押して彼女が呟いた…。


 「私のせいだな」


 だから、自然に呟いてあげた…。


 「はい、貴女のせいですねえ…」


 「こういう時くらい、気を使え…」


 だが、そんな返答も、彼女はわかっているのだろう明るい調子で背中を背中で小突いたので答えた。


 「でしたら、今度はどうか間違えないでくださいね」


 それだけだったが彼女は言われるまでもないと、鉄格子越しだったが体重を預けてこう言った。


 「だったら、今日はもう眠れ、お前は確か眠れば、闇は解けるはずだっただろう?


 その間の見張りくらいにはなってやるさ」


 「私がそれに初めて気付いたのは『十四話』なのに、良く知ってますね?」


 「長い付き合いだからな、あのビルの火災の事件のとき、どうしてお前が倒れていたとか考えると、自ずと答えが出てくるのさ」


 「…そうですか、ホント、長い付き合いですね」


 つい、笑いながら答えたが、今日はこれ以上何もすることが無かったので、遠慮なく、そこに寝転り眠らせてもらう事にした。


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