第十九話
『―続きまして、あっ、今、中継の方を見てみましょう。
現場のホリコシさん?』
「『漆黒の魔道士 逮捕』本日のワイドショーは、これ一色って感じですね」
『ポチリ』とテレビを消した、白薔薇学園、この取調室は…。
「……」
多くの学生に取り囲まれていたので、今日何度目になるだろうか同じ事を答えた。
「だから、何度言えばわかるのですか、私はあなた方に協力するためにやってきたと言ってるでしょう…」
「ふざけるな!!」
「お前は、こんな騒ぎを起こして何が『協力』だ!!」
周囲は『聞く耳持たず』といったところだろうか、この白薔薇の治安部員が外を指した通り。
生徒同士の隙間から外を眺めると学園の周りに多くの中継車を見えて、さらに野次馬でフェンスが黒く見えた。
「もう少し、騒がしくなるとは思ったのですがね…」
そこまで騒ぎにならなかったのはレフィーユが動いたからだろうか?
実際、起きた事件の際に普通に西方術が飛んで来て妨害されたり、後ろから斬り付けられたりする日ごろだからか、自分の予想より、酷い『騒ぎ』にならなかったと思えた。
「それがお前の本音だな!!」
だが、そんな呟きが聞こえていたのだろうか、この男が答えた。
「お前は、元から我等に『協力』するつもりなどなく、この『騒ぎ』を起こすのが目的だったのだろう。
そして、その騒ぎに乗じて、お前はレフィーユさんに手を掛けるという計算なのだという事くらい、このジング…」
「違いますよ…」
『見抜けない思ったのか』と言いたいのだろうか、呆れてまた同じ事を呟いていると…。
「ふん、何が『違う』のか、説明してもらおうかしら?」
セルフィ、ヒオト、ミュリの三人が入って来た。
何やら得意げな顔をしている。この男を一瞥して、セルフィは正面に座ると自然と周囲も静かになったので聞いて見た。
「おや、セルフィさん、デパート以来でしたかね?」
「正確には、痺れ薬を飲んで囲まれているトコロに登場して以来ね。
まったく、敵対していたと思っていたら、助け出してくれたり、そして今度は逮捕されて、アンタ、一体何を考えているのよ?」
「先ほど言った通りなのですが?」
「アンタ、それを私達が信用すると思って言ってるの?」
そう言われたので周囲を見渡してみる。
すると、答えは自ずと出てきた。
「まあ、出来ないでしょうねえ…」
自分が『漆黒の魔道士』だからという理由だけで、信用されてないというワケではないのはわかっていた。
「『漆黒の魔道士』、あなたは殺戮を好む犯罪者だという事を、私達が知らないとでも思っているのですか?」
ヒオトが言うように、自分のやっていない事ですら、お前がやっただろうと言うように言ってくるのが、普通の人の反応であり、いい証拠だったので、少し鼻を鳴らして答えた。
「とりあえず、これまでのあなた方を見ていると余りにも後手に回り過ぎてるのが気になったのですよ。
そこでですね、協力して先手を打ってみないかとですね…」
「なるほど、お前らしい言い方だな」
凛としたそんな第一声が、この取調室に響いて、その声のする方をみんなが注目したので、代表して答えた。
「おや、レフィーユさん、遅い登場ですね、今までどこに?」
自然にセルフィが席を退いたのを見て、彼女はそこに座りながら答えた。
「すまない、あの例の三人組の事情聴取をしていたからな、少し遅れてしまった」
『ふっ』と微笑む彼女を見て、自分でも少しあの三人組の事が気になったので聞いてみた。
「それで、あの三人組は、やはり『恐怖孤児』でしたか?」
周囲は『何を当然の事を聞いているのだ』と言ったところだろうか、構わず聞いて見ると、彼女は答えた。
「ああ、そうだ、それもこの二枚の写真の内の一枚の関係者だった」
そう言って、二枚の写真を自分の前に出してそれを見せたが、その写真は見た事があった。
「前の事件で、犯行に及んだ三人組ですか?」
「ああ、そうだ、一人はある男のおかげで判明する事が出来たのだが、後の二名はどうしてもわからなかったからな。試しに聞いて見たのさ」
「そうですか、それでどうでした?」
「『大当たり』だったよ…」
落胆の色を隠せないで、ため息を付いたので聞いてみた。
「という事は、やはり…?」
「まあ、お前の想像している通りだろうな」
そんな曖昧な会話は、周囲にとって理解しにくいモノだったのだろう、妹が代表して聞いてきた。
「姉さん、一体、何の話をしているの?」
「気にするな、後でお前達が調べればわかる事だ。
そんな事より、この男の『提案』というのを知りたいと思わないか?」