第十八話
「いや〜、レフィーユさん、こんな朝早くから、ご出勤、ご苦労様です。
たまには休む事くらいお考えになったらどうですか?」
「私とて、それくらいは考えて今回は『熟睡』しようとまでは考えたのだがな、『誰かさん』が、それを許さなかったのでな」
『ふっ』とこちらに笑みを浮かべた姿が、セルフィ達から逃げる時に感じた『悪寒』が走ったが、世間では二人は敵対しているという演出をさせていると、やはり彼女も『ここ』が気になっていたのだろうか。
辺りを見回している彼女を見て、つい聞いた。
「…よりによって、こんな場所で『騒ぎ』を起こしますかね?」
自分の呆れた様子が彼女も頷いたのは、ここがあの廃墟と化したデパートだったからだ。
「…それでお前はどうして、やってきたのだ?」
しかし彼女にとって、場所より自分が漆黒の法衣を身に纏ってここにやってきた事が気になったのか、『ふむ』と自分の姿を眺めながら聞いてきたが。
その時、疲弊していた一人の孤児が仲間を助け起こすように答えた。
「やったみんな、漆黒の魔道士が助けにやって来たぞ!!」
「どう言う事ですか?」
「なあ、アンタ、俺たちを助けてくれるんだろう?」
「おや、どうしてそんな事を?」
「どうしてって、俺たちが苦しんでいるのを見かねて、アンタが俺たちの味方をしてるんだろう?」
どうやら治安部と恐怖孤児の衝突を避けるために間に割って入っていた自分は、この孤児たちにとっては、そんな感じで捉えられてしまっていたらしく、この三人にとっては自分は味方、レフィーユは敵に見てるのか、まるで対立しているように勝手に話を続けた。
「これで形勢逆転だ!!」
「ちょ、ちょっと?」
「構わないでくれ、アンタからすれば俺たちは足手まといかもしれないが、手数は多いには越した事ないだろう?」
「私はそんな…」
「さあ、俺たちの無念を思い知れっ!!」
「待ちなさいって!!」
彼女に飛び掛った三人の足元から、闇の津波を発生させて三人を取り押さえた。
「な、なんで!?」
「まったく、話を勝手に進めないでくださいよ」
少し『ムスッ』としていると、彼女は笑みを浮かべながら聞いてきた。
「じゃあ、漆黒の魔道士はどうしてここにやってきたのだ?」
「まあ、今回は『爆破』がありませんでしたからね。気になってやって来たのもあります。
ですが、ホントに私に一つ『提案』がありまして…」
「提案?」
「事件がある場所にやって来れば、貴女の性格上やって来ている事でしょうし、ところで治安部の方々は?」
「残念ながら、恐怖孤児関連の事件が起きるとすれば、真犯人も近くにいる可能性が高いので周囲を包囲してから、やって来るそうだ。
まったく…、こっちとしては今回は爆破も起きてない事を疑問に思って、迅速な行動くらいとってほしいものだがな」
「まあ、そんな毎度毎度、後手に回っている貴女方に一つ、先手を打つ方法を貴女方に授けてあげようと思ったのですよ」
「それがお前の『提案』か?」
『そうです』と頷きながら、そろそろ辺りが騒がしくなった。
もう少しすれば、セルフィ達が雪崩込んでくると思ったので、話を進める事にした。
「『爆破』『暴動』『恐怖孤児』『偽者の登場』『治安部の出動』…。
これが今回の、まあ、言い方が悪いですが『パターン』ですよね?」
「そうだ、そして最終目的が『私』まで続くパターン…だろうな…」
「犯人側にとっては、先手を打ち続けて『偽者が現れる』までは、計画でしょうね。
でしたら、根本を絶って見てはどうでしょうか?」
「根本…どうするつもりだ?」
取り押さえた三人の内の一人が騒ぎ出した。
「ま、まさか、ここで雌雄を決するとは!!」
「魔道士さん、俺達は応援して…」
「うるさいですよ」
「うわあああっ!!」
三人を取り押さえていた黒い布を大きな玉に変えて、しばらくゴロゴロさせていると、そのときだった。
「そこまでよ、漆黒の魔道士っ!!」
勢い良く、扉のある方向からそん聞き慣れた声が聞こえたと思ったら、自分の周囲をヴァルキリーを中心にあっという間に取り囲んだ。
「ふん、今度は本物が騒ぎを起こしていたなんて…」
セルフィが自分を敵意むき出して、こっちを向いてハルバートを構えていたが、自分は黙って両手…というより、両腕を差し出した。
「な、何のつもりよ!?」
自分が何かをやっていた事が、何かの意思表示に『見え過ぎた』ので、セルフィは驚いていたので、自分は、改めて『提案』を口にする。
それは、事件の根本…漆黒の魔道士を逮捕する事だった。