第十七話
「…という事は、お二人が喧嘩して、今、レフィーユさんは行方がわからなくなったって事?」
「まあ、あの人なりに考えた行動だと思うのですがねえ…」
何らかの悪寒から逃げて、自分は昨日の夜をアカネの部屋にて、一晩を明かしていた。
「う〜ん、ここにもね。
兄弟で住んでいる人もいるんだけど、やっぱりこういうのでもめてるんだって、あの人でもあるんだ…」
「どうかしましたか?」
「やっぱり魔道士さんでも、あの人の事が気になるの?」
「ま、まあ、一応は気にもしてますよ。
あの人にとっては妹なのですから、やっぱり仲良くしてもらわないとねえ」
「魔道士さんには、ご家族は?」
「…いませんよ」
「もしかして、魔道士さんも、私と…」
「いえ、私の場合は…事故でね…」
つい声を落としてしまい、そんな事を聞かされたアカネは『ごめんなさい』と謝ったので、『気にしないでください』と言うが、やはり人の不幸を聞かされて平然とするのは難しいのだろう。
自分から話を切り替える様に答えた。
「まあ、私としては、何でこんな体勢を維持しないといけないのか、少しばかり貴女から説明してほしいのですが?」
それは窓の下から外の様子を伺っている体勢から、『ある事』をアカネに聞こうとしたのだが…。
「モデルさんは動いたら駄目、これは私の寝所に無言で入り込んだ罰」
「ですがねえ…」
「言い訳はだめ」
『めっ』と言った感じでそんな事を言われたので黙ってしまうが、その事がアカネにとって余程、面白かったのだろう。
『クスクス』と笑って、おそらくカエデが用意したのだろうか、その鉛筆を手にして下書きをしながら答えた。
「『漆黒の魔道士』を黙らせちゃった」
言葉を濁しているその態度に、さらにアカネは呟いた。
「でも、優しいんだね」
「どうして、そう思うのですか?」
「だって、私があなたの家族の事を聞いた時、普通は怒ったり機嫌を悪くするでしょう?
それなのに気を使って、話を変えたり…。
こうやって、素直にモデルをやってくれるから」
どうやら最初の気遣いはアカネには見抜かれていたらしく、微笑みながら下書きをするためか、こっちを見たのでその視線から逃れるように聞いた。
「で、ですが、困りましたね。
あの人が行方不明、偽者も動きがないとなりますと…、正直、手詰まりでしてね。
そちらの方は何か変わった事とかありませんでしたか?」
「あっ、そういえばレンジさんとカエデもね、この前、何か喧嘩してたの」
「喧嘩ですか…」
おそらく『偽者がどんなヤツなのか』聞いたレンジが『偽者』の事を聞いたのだろう。
「何か心あたりは?」
とぼけながらカエデの親友のアカネに聞くが、首を振って『知らない』と答えた。
その時だった…。
「コホッ!!」
アカネが咳き込んで苦しみ出して、座っていた椅子から崩れるように倒れそうになったので、慌てて『闇』を使って、アカネの身体を受け止めた。
「だ、大丈夫ですか!?」
ゆっくりと床に下ろしながら、辺りを見渡して薬とペットボトルに入った水を探してアカネに手渡すと、しばらくして咳き込むのが収まり。
アカネはニコリと笑って、こう言った。
「抱きかかえられちゃった」
そんな冗談を言うが、とてもじゃないが明らかに息切れを起こしていたので、こっちは心配して答えた。
「誰か呼びに行きましょうか?」
しかし、また首を振って…。
「咳き込む度に忙しく頑張って生きているみんなを呼ばないで、苦しくなったら自分の足で歩くから…」
「ホントに言ってくださいよ?」
「優しいんだね」
そして三度、言葉を濁していると、アカネは抱きかかえられたまま微笑みながら窓の景色を見て答えた。
「でもね、その偽者も、ここの仲間でしょう。
だから、どうにかしてみんな助けられないかな…」
「『みんな』を…ですか?」
「うん、もし私が元気だったら、その偽者も助けてあげたい…」
にこやかに答えるのアカネを見ながら、しばらく一緒に下を眺めていると、今度は周囲が騒がしくなり、廊下へと向かうドアに耳をすませるとこんな声を聞いた。
「おい、また俺らの仲間が暴れ出したらしいな!?」
「ちっ、あの魔法使いの仕業か!?」
どうやらまた『事件』が起きたらしい。
……。
「はぁぁ!!」
掛け声と共に彼女がサーベルで斬りつける。
「ぐあっ」
『防衛本能』を働かせているのだろうが、あまりにも彼女の一撃は早すぎて『ダメージ』という概念を発生させる。
動きを妨げるほどのダメージを受けたのを見て、他の仲間達は怯んだかのように見えたが…。
攻撃を仕切った彼女の体勢を見過ごす事はなかった。
すぐさま彼女の背後から、その仲間の西方術だろうか氷の塊が振ってきた。
戦局は3対1という、一般的に見れば、たった一人の彼女にとっては不利だと思われるだろう。
しかし…。
それが『不利な状況』とされるなら、彼女、レフィーユ・アルマフィはこれほどまで『有名』にならなかっただろう。
2人掛かりの剣撃を捌き、隙さえあれば一撃を軽々と加えていた。
そして、この氷塊が彼女の頭上から振って来ると、普通は避けるのに対して、サーベルで背後にいる二人に当たるように真っ二つにして、背後にいる二人を怯ませて、完全に怯ませた片方に彼女の付加能力『残像』が、それに飛び掛り斬りつけて、今度は『激痛』を与えて動けなくしていた。
「どうした、まだやるのか?」
気が付くとサーベルを残りの二人に突きつけたまま、息も上がる事も無く、凛として2名に完全な実力差を見せ付けていた。
「うるせえ、お前に何がわかるってんだ…」
「そうだ。俺達はまだ…」
残りの二人は『ぜえぜえ』と息を切らせて、なんとか強がりを言うがそれ以上なにも答える事もなく疲弊しきっていた。
「いつまで、そこで隠れているつもりだ?」
どうやら、さっきまで自分が隠れて見ていた事もわかっていたらしい。
パチパチ…。
とりあえず拍手をしながら、彼女の前に出てくると『ふっ』と笑みをこぼした。
「漆黒の魔道士…こんなトコロで会えるとはな」