第十話
少し少なめです。
すんません…。
「昔、あいつの知り合いが高熱で倒れたらしくてな…」
重い空気のまま、レフィーユの運転する車に揺られていると、彼女はふと口を開いた。
「『知り合い』ですか、もしかして?」
「いや、あの被害者ではないが、まあ、その知り合いが倒れたからと、ある日の事だ。
当時、リスティア学園の生徒であった私に頼んだのさ。
『何でもする。だから頼むからアイツを助けてくれ』
…とな、正直驚いたさ。
あの恐怖孤児のレンジが直談判してきたのだからな」
その時に『約束』を取り付けたらしい。
内容はシンプルなモノだった。
『通院手続きをすませるまでの一週間掛かるから、指定したトコロで働いてみせろ』
「『だったら、レストランで働かせてくれ』と言ったアイツは、目つきは悪いが真面目に働き、帰りにはみんなへの食料だと言って、残り物を詰めて帰って行くいった感じでな。
私もその姿を見た事があるから、一言でいえば、真面目なヤツだったらしい…。
だが、そんな約束を取り付けて、明日には入院出来るという時。
アイツは…警察に捕まった」
「どうしてですか?」
「『何かが』あったのだろうという事くらい、当時の私にしてもわかっていた。
だがその時、アイツに出会った時にはもう『変わって』いたよ」
『結局、金持ちに貧乏人の気持ちなんてわからねえんだよな
アンタだってそうだ…。
何もかも、規則正しくやりやがって…』
と、これ以上、レンジは何も言う事なく口を閉ざしたらしい。
そしてレフィーユは、その助けて欲しい人物を探していたようだが、非協力的な他の恐怖孤児に阻まれ、その人は三週間後に亡くなったらしい。
そんな話を黙って聞いていると、いつの間にか白薔薇の駐車場ついたので、先に車を降りて『ギッ』というサイドブレーキ独特の音の後に、レフィーユが降りて空を見上げたので、自分もみるともう日が暮れようとしていた。
「よくよく考えてみれば、やはり私のせいなのだろうな。
あの時、私が始めに快く、頷いて緊急入院させてさえいれば…」
「それで昔の自分に貴女は何か出来たとでも?」
遮るように不思議と冷たく、自然に呟いたのでレフィーユは驚いた様子でこちらを見たので、ある話をする事にした。
「昔、ある町にこんな人がいたそうです。
その人は、薬物利用者が引き起こした交通事故で両親を亡くしてはいましたが、そんな環境にも挫けず、そんな態度に友達も共感してくれて協力してくれたおかげで、何とか普通に生活をしていたそうでしてね。
非行に走る事もなく、知り合い、友達への感謝の気持ちも忘れる事もなかったのですが、ある時、そんな彼の前にある事件が起きてしまうのですよ」
「ある事件?」
「『闇』です…」
「おい、それはお前の…」
彼女はある思い当たる人物を口にしたが、それを手で制してさらに続ける事にした。
「正直なトコロ、怖かったらしいですよ。
年齢が、その事態の重大さを理解させてくれたのは良かったらしいのですが、その時にはもう、両親はいませんでしたからね。
友達のイワトにも言えませんでしたから…」
『怖かった』
その言葉を使うと、今でも少し『寒気』がする。
将来の不安、日々を過ごす中でも友達に隠し事をして過ごす毎日が辛かったからだ。
『何で…』
『どうして自分が…』
前にカエデの言った台詞が当時の自分を苦しめて、そうやって色々と考える事が自分の能力を強めたのだろうか、日を追うごとに比例して強くなっていったのが、更なる苦痛だった。
「どうしようと考えて続けていくと、ある考えが生まれました…
『自分しかない能力なら、他人を助ける事に使おう』とね。
そして、ある人物に出会う前の『事件』を解決したのですが、それは『幼い考え』と思い知らされたようです。
慣れない犯行現場で、何とか犯人を倒したモノの、私は人質を助けようと『大丈夫ですか』と手を差し伸べた時でした…」
『その人は私を東方術で斬りつけてきました』
自分の言った言葉に、少し身を強張らせてしまったが認めたくないが、これが世間の見解なのだった。
そして、その時、自分の『良い事』だと思った人助けで、世間は自分を『悪』として捉え初められてしまった。
「だがその事件は、あの時、お前がその事件の犯人を倒していなければ、その人は助けられなかったかも知れないのだぞ?」
「でしたら、あの時、貴女が助けようと思わなければ、レンジさんの仲間は他の人に助けられていたと思っていますか?」
彼女が黙ったのが答えだろう。
「思うのですが、レンジさんは…
『…ですから、皆様の協力が必要なのです』
頼る事が出来なかったということは…。
それは貴女が『だから、私に清き一票を、ワタナベに清き一票をお願いしまう』だからで…」
『私はこの町の発展を切に考えているのです』
さっきからここまで割り込んでくるこの選挙演説に彼女は『クックッ』と笑いを堪えていた。
「相変わらず決まらん男だな」
そして、とうとう笑い出したので、少し『ムッ』として答えた。
「笑わないでくださいよ。
これレフィーユさんの力で何とかできませんか?」
「ふん、選挙演説を注意したら選挙妨害になるのよ?」
突然、後ろの方で声がしたので、振り向くとセルフィがいらいらした表情でこちらを見ていた。
「悪いけど、今から私は姉さんに言いたい事があるから、先に帰ってほしいのだけど?」
それだけ言って『帰れ』という空気を作るのは姉譲りだったので、大人しく帰る前に言っておいた。
「まあ、こういう後悔はすればするほど『改善点』は見つかってしまうモノので、残念な事に現在の自分が過去の自分に対して何も出来ないものですよ。
でしたら…」
少し目を閉じると、今は自分では何も出来ることの出来ない昔の自分を思い出したから言えたのだろうか、自然と答える事が出来た。
「強くならなければなりませんでしょう?」
それだけ言って、帰路に着こうと歩き出そうとするとレフィーユは聞いていた。
「一つだけ聞かせてほしい。
その話に出てくる『彼』は、今をどう思っている?」
「私に聞かないでほしいですね。
ですが、いままで彼にとっては先も見えない戦いでしたでしょうが、『ある人物』が考えを変えてくれた事が、とても嬉しい事だったと聞いていますよ?」
セルフィがいるので、あくまで遠まわしに、彼の名前を言う事が出来ない事が悲しかったが、それが『彼』、そして自分の生き方だったので…。
「その事だけで、少なくとも私は人は変われるモノだと信じていますよ」
そう言うと、流石に照れくさくなってのが自分でもわかったので、先に帰る事にしたが呼び止められ最後とばかりに聞いてきた。
「じゃあ、私は彼に何をしてやれると思う?」
『レンジ』の事だろうか『自分』の事だろうか、とてもあいまいに聞いてきたのでわからなかったが、少しばかり明るい表情で言ったのでこれだけを言った。
「それは自分で考えてください」
今、彼女の出来る事は、セルフィの愚痴を聞いてやる事だ。