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第0話

 「これで上がり、私が一抜けだな。」


 「さすがに早いですね。」


 「いや、大した事じゃない、私にジョーカーが一度も来なかったからな。

 上がるのは時間の問題だっただけだ」


 そう言って、レフィーユは自分が持ったトランプを2枚を捨て場に出して、アラバとこの男の友人であるイワト、三人でババ抜きをして一番で抜けていると列車での景色をちらりと眺め自身のカバンを取り出してそれを見ていた。


 このお話は、そんな彼女がこころなしか凛々しい目つきを鋭くしていたのが気になったので、アラバが聞いて見るトコロから話は始まる。


 「それは?」


 「ああ、コレか、私たち白鳳学園の治安部の活動内容の資料だ。

 少し目的地まで時間があるから、確認の為に少し目を通しておいた方がいいだろうと思ってな。」


 人類に東方術、西方術という魔法が使えるようになって、3000年がたった現在…。


 繁栄を約束されたかの様に見えたが、その力が有効利用されるモノとは限らなかった。


 犯罪行為に利用する者達が増加の一途を辿り。

 治安が極端に低下してしまったのだ。

 それに危機感を感じた世界の政府は自治体の設立を計画したのである。


 だが、そしてこの自治体も万能ではない。


 数々の問題を抱えている。


 それは各学園における管轄範囲内で生じる境界線の問題というのも、そのうちの一つだ。


 そして治安維持という活躍の場を、この学園に移した有名人でもある。

 さっきから資料を見ている彼女、レフィーユ・アルマフィは、当然話し合わなければならない義務があった。


 「あの建物がそうでしたっけ?」


 そんな自分たちは今、列車に乗ってどこに向かっているのかというと…。


 自分たちの白鳳学園の隣に位置する学園…。


 聖・リスティア学園。


 通称 白薔薇学園―。


 周囲からそう呼ばれている理由は実に単純、その学園は、偏差値もさる事ながら、文字通り格式の高い学園だからだ。


 そんな学園にどうして白鳳学園の生徒全員が向かっているのかというと…。


 『合同学園生活交流会』


 今日から数日間の学園行事を迎えたのだ。


 そして、大事な事がここに一つある。

 その学園は前にレフィーユがいた学園だという事だ。


 ――。


 「…やっぱり、すごいですね。」


 学園に到着して、ゲートを潜り自分達を出迎えたのは、純白という表現が正しいくらい白すぎる制服を纏った全学園の生徒たちだった。


 だが、そのせいで気になった事が一つ。


 「あれ、あの人たちだけ、どうして制服が違うんです?」


 おそらく、この白薔薇の生徒というのはわかる。


 だが自分達に向かって前列、その数名の生徒たちは全部白という統一の中でアクセントの様に紺色の制服を着ていたので、思わずイワトに聞かずにいられなかった。


 「噂じゃと、あれがあっちの治安部の制服らしいぞ?」


 「それにしては人数が少ないと思いますよ?

 それに、その制服着ている人、みんな女子ですし…」


 そう言うと、ユカリが呆れたように口を挟んできた。


 「あなたたち、何も知らないですのね。


 あの制服は共学になる前の昔の女子校時代の制服ですのよ。


 昔の伝統を『守る』のに、治安を『守る』をかけて治安部の精鋭と判断された女性だけに授けられるものらしいですわ。


 その東方術のみをまとめた部隊編成、精鋭と語るに相応しい戦闘能力、いつの日か周囲は畏怖の念と、尊敬の念を込めて彼女たちをこう名づけましたの。


 白薔薇を守る戦乙女(ヴァルキリー)…。」


 「…戦乙女(ヴァルキリー)ですか。

 という事は、レフィーユさんも?」


 だが、その疑問はユカリに聞くまでもなかった。

 証拠に彼女たちがレフィーユと目が合うと、自然に黙礼をしていたからだ。


 すると、その中でただ一人、彼女に近寄ってきた人物がいた。それに気付いたレフィーユは先に声を掛けた。


 「久しぶりだな。

 元気だったか、セルフィ」


 明るい調子だったのが、とても珍しかったので続けてユカリに聞いて見た。


 「ユカリさん、あの女性は?」


 「あ…ああ…」


 ユカリは驚きのあまり声が出せないのだろうか、あわあわと口を動かしたままだった。


 「だ、誰って、あ、あなた、あの人を知らないの?」


 「知らないから聞いているのですよ?」


 「セルフィッシュ・アルマフィ、レフィーユ姉さまの妹よっ!?」


 「話には聞いた事がありますけど…あの人が…」


 「ああ、なんて凛々しい2ショットなのでしょう…」


 なるほどとユカリは顔がうっとりとし出したので、これ以上何も聞けない事を自覚しながら、視線を戻しているとセルフィは再会の挨拶を始めていた。


 「姉さん、久しぶり。

 男の人を追いかけて、その学園に転校したと聞きましたけど?」


 ホントに『良い』再会の挨拶だ。  


 「フッ、どうとでも言え、私は後悔はしてはいないさ」


 レフィーユは、そんな皮肉にも怒る事無く受け流すのが、その態度がセルフィにとって『よほど』気に喰わなかったのだろう。


 「突然転校して、この白薔薇に残された人たちの事を姉さんは考えた事があるの?」


 さらにそんな皮肉を、腕を組みながら姉に言うと…。


 「お前はそのために白薔薇に転校して来たのではないのか?

 その証拠に、今や、お前は戦乙女(ヴァルキリー)の一員ではないか」


 『スルリ』と見事な受け流しを周囲に披露するレフィーユ。


 というよりなんだろう、このギスギスした再会挨拶。


 「私はただ姉さんの負担を軽くしようと思って、この白薔薇に転校したのよ。

 その姉さんがいなくなったのなら、意味がないと思わないの?」


 「そうだったか?


 確か私の携帯に連絡して来た時は、こう言ってたではないか…。


 『私は白薔薇に転校する事にした』とな。


 この文章のどこに『私の負担を軽くしようと思って転校する事にした』という、文章があるのだ?」


 気のせいだろうか、空が曇りだしていた。


 「まったく、姉さんはいつも勝手なんですから…」


 だが、この姉…レフィーユの勝手なトコロは、この妹にとってはいつもの事らしく、これ以上言わず。いつの間にか、空も晴れ渡っていた事に自分が気が付いた辺りで、セルフィはこちら側を見つめて姉さんに聞いていた。


 「…で、その人は?」


 「ああ、そこにいるのが、そうだ」 


 そう軽く言って、レフィーユは、指で自分を指したが、示すには距離があったらしい。


 「えっ、どこ?」


 そう言いながらセルフィがこっちに近付いて、自分と目が合うが…。


 「……」


 すぐにその場を離れて他を探し始めるのを見送りながら、我ながら自分の特殊能力は素晴らしいと思った。


 『レフィーユ・アルマフィがとても気に入っている男』


 こういう風に世間が自分を捉えだした頃、マスコミはレフィーユだけではなく、自分にもやってきてカメラに何回か映った、写真にだって何回か撮られた事がある。


 だがその時点で自分に特殊能力が身に付いた事に気が付いた。


 『あれ、あの人、噂の人じゃない?』


 『きっとそうだよ。名前、何だっけ?』


 『ええっと、確か…でも違う人かもしれない』


 『そっくりな事で名前を間違われたら、可哀相だから声掛けるのをやめよ』


 『そうだね…』


 といった感じで…。


 あまりにも普通過ぎて、名前を覚える至らず。


 レフィーユの存在感が強すぎて、顔を思い描く事すら出来ないのだ。


 名付けて…



 姿の見えるステルス迷彩。



 …情けない能力と思わないでください。


 この能力のおかげで普段と変わらない日常を送る事が出来ているのですから…


 「残念ですが、私はこの治安部のレフィーユさんに次ぐ実力を持つ、ソウ…」


 「あっ、そう」


 よほど見つからないのだろう。


 セルフィは誰かれ構わず名前を聞き出そうとしたので、レフィーユが自分に近付いて来て、セルフィを呼び止め自分を指してこう言った。


 「どこまで行っている。さっき目が合ったじゃないか?」


 普通なら、この時点で気付くだろう。


 だが…。


 「えっ、この人?」


 自分の特殊能力の高さが原因だろうか、よほどセルフィが天然なのだろうか、セルフィは自分の後ろにいるイワトを指差していた。


 「…違う。

 まったく、お前は…」


 自分から名乗らない事に呆れているのだろうかレフィーユは、とうとう自分の手を引っ張ってセルフィの前に立たせた。


 「えっ、ええっ!?」


 ――。


 お決まりの学園行事における各学園長の挨拶が終わり、学生寮を案内されて彼がようやく一息ついた頃、彼の心境は言うまでも無く不愉快だった。


 普通…。


 白薔薇の生徒たちが口々に呟いたセリフは数々ある中で、共通した単語がそれだ。


 大体何だろう、普通で何が悪い?


 だがそんな不愉快もあの妹の事で、自分の中で些細な事にして片付けてしまっていた。


 セルフィッシュ・アルマフィ、彼女の事だったので…。


 「レフィーユさん、確か年齢は4つ下じゃありませんでした?」


 と、いつの間にかレフィーユが自分の向かいに座っていたから聞いてみる事にした。


 「それは『飛び級』というヤツだ。


 話には言ってなかったが、セルフィはIQ180以上じゃないと入ることの許されない教育機構、インテリジェンス…聞いた事あるだろう?」


 「確か天才機構でしたっけ?」


 「まあ、それくらいの認識でいい。

 その中で特にセルフィはIQ 230を維持しているのさ。


 それでその機構には、早く社会出てすぐに役立てられるような知識と免疫を得られるようにと『飛び級制度』が設けられてあってな、私がお前のいる学園の転校した後に、白薔薇に転校して来たというワケだ」


 「なるほど…天才ですか、『飛び級』って、漫画の中での話と思ったんですけど、ホントにあったんですね」


 「私からしてみれば、末恐ろしい妹さ。

 しかし、我が妹ながら失礼な事を言ってすまなかったな」


 そういって、素直に謝るのも人気の秘密なのだろうと思いながら、気にしないでくださいと言って、改めてセルフィの事を思い浮かべた。


 身長はレフィーユより少し小さいくらいだろう、だが目線はレフィーユと変わらない高さを維持しており、髪はレフィーユの黒に対し、セルフィは金色、姉のショートとは対照的に長く、それを妹はポニーでまとめていた。


 顔はレフィーユに負けないくらいの美人顔で、二人が立っているだけで、それはどこかの歌劇団があるのではないかと印象を持つくらいだった。


 しかし、気になるのは…。


 「確かに胸はある方だな」


 「突然何を言ってるんですか?

 違いますよ。というより、人の回想にいちいち口を挟まないでくださいよ」 


 「何だ。その顔は…。

 私だってお前は、男という事くらい知っている。『そこ』に興味が行くのが普通だろう?


 …まったく、どうして男というのは、そこなのだ?


 一応言っておくが、お前たち男どもにとって胸は女性の象徴の証かもしれんがな。


 発達してから、その視線に慣れるまでの心地の悪さをお前たち男どもに…解るか?」


 「知りませんし、指を差さないでくださいよ」


 それ以前に、現実に『胸がでかい』と指摘したら、セクハラで訴えられる事を忘れないでほしいが、レフィーユは構わず悪態を付きながら続けた。


 「忌々しい事に、なおも成長中らしい。


 まったく私ですらその領域に達してないというのに、身長、体重の比率もそのままで勝手に成長だと…。


 恐ろしい限りだ」


 「末恐ろしいって、そういう意味ですか…って、そんな贅沢な悩みを男の自分に打ち明けないでください。


 私はそんな事を気にしていたワケではないですよ」


 「何が違うというのだ…」


 そこで睨み付けないでほしいが、顔を背けながら自分はある事実に向き合う事にした。


 「自分より背が高いのですよ…」


 …いや〜、発育って恐ろしいですね。


 「ま、まあ、何だ。それでセルフィの事だが、気をつけるのだな」


 「どういう事ですか?」


 「まあ、これは姉の身内自慢みたいなモノだが、一応の『警戒』はしておけという事だ」


 「『天才』だから…ですか?」


 『そういう事だ』と言って、立ち去るレフィーユを見送りながら、ふと思った。


 ―どう警戒すれば、良いのですか?


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