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第13話

沢山の本が格納された木の棚と、少し豪華な木の机と座り心地の良さそうな椅子。机の上には羽根ペンと、大量の書類。

それ以外には何も無い殺風景な執務室。

彼女は必要最低限の物しか揃えない。それが彼女の流儀だ。


そんな執務室の中に二人の人物の影。

一人は屈強な大男。机に座っている女性を前に行儀よく直立不動をしている。

そしてその女性はきちんとした姿勢で椅子に座りながら書類に目を通している。

見た目は四十代前半。人によっては三十代に見えるかもしない。髪はきっちりと一本に纏めて結んであり、やや紫紺色に帯びていた。顔は東洋人ぽさを感じる。


「なるほど……つまりレクス。あなたが入所を認めたと。」

「はい、見た目はちんちくりんですが、確かに俺に擦り傷……いや、一撃を加えました。これが証拠です。」


レクスがゆっくりと腕についた痣を女性に見せつける。

刃の無い、なまくらな剣に叩かれた痣。


女性は小さくため息をつき、体勢を崩し椅子の背もたれに寄りかかる。


「確か……あなた流の入所試験に合格できた者は……今回を含めると二人だけでしたっけ?」


「そうです。一人は擦り傷でしたがね」


レクスの言葉を聞くと、女性は再び書類に目を通し始めた。

書類には件の少女の事が書かれていた。


と言ってもほとんど名前ぐらいしか情報が無かった。


「たく、アルベルは……もう少しマシな書類を寄越してほしいです」


一番最後の文に少女の持ち物について書かれていた。


「それにしても古龍の骨粉ですか……それはまた珍しい剣を…」

「彼女の剣は魔法に物理干渉できる武器です。それだけならまだしも、彼女自身が爆炎魔法を使えます。装備的には十界でも通用するレベルです」


「技量はともかく……装備的にはこの場所では充分過ぎるほど通用する……ということですか、分かりました。彼女の入所を許可します。しかし、彼女は幼すぎるので管理はレクス、あなたに任せます。死にかけの老躯とはいえ、アルベルの義娘(むすめ)。きちんとするように」


「承知しました」


レクスは女性からの言葉を聞くと右手を左胸……丁度心臓の位置に拳を握りながら置き、軽く会釈をする。

これがこの世界での最上位の敬意を表す敬礼である。


そして、すぐさま踵を返し部屋から退出した。


レクスが去った後、女性は頬杖をつくと再び書類に目を向けた。


「美しい少女と神剣……さて、これからこの場所はどうなることでしょうか?」


女性は小さく呟くと口元を軽く綻ばし、手元に置いてあった判子を片手で持ち上げそのまま力強く朱印を入れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


木造の校舎。一昔前の学校を連想させる廊下。

そんな廊下の中、俺は一つの部屋の扉の前で立って待っていた。


勿論、その廊下は普通に活用されてるらしく、生徒らしき人物(ほとんど歳上)と時折教師らしき人物が俺の目の前を通り過ぎていく。


ほとんど全員が俺の目の前を通ると必ずをこちらへ視線を向けてくる。

確かに見知らぬ人物が自分の学校の廊下にいたら奇っ怪な目線を向けるのは当たり前だろう。

しかも、今の俺の容姿は腰まである白髪と藍色の瞳という目立つ容姿と。そして魔術師……しかも女では絶対に持ちえないはずの剣を腰にぶら下げている。

注目するなという方が無理だろう。しかも白髪というのはとても珍しい髪色らしく通り過ぎる誰一人としてそのような髪色はいない。

多いのは黒と金、そして茶色という感じだろうか。


話を戻すが、何故俺がここに立っている経緯を話すと、あの女性にプレスされた後、レクスの説得によりようやく開放された。

その後、レクスと女性がヒソヒソと話をするな否やここまで連れてこられて、レクスと女性は俺の目の前の部屋へ入っていった。

時間は既に三十分を経過しているだろうか?


レクスと女性の反応を見る限りでは、女性はレクスの上司という感じだ。

多分、目の前の部屋で俺を入所させるかどうか話し合っているのだろう。

まさかとは思うがここまで来て駄目と言われる事はないと思うが一応心配になる。

しかし、俺に出来ることは何も無い。ここで結果を待つしかない。


俺はそう判断すると壁に寄り添う様にゆっくりと床に尻を付ける。



その様子に他の生徒達は更にこちらを見る。中にはヒソヒソと話す声も聞こえてくる


(あの子誰?かわいい)

(ここにいるってことは魔術師?なんて剣なんかぶら下げてるんだ?)

(あんな美人見たことないぞ。どこの貴族出身だ?)


なんというか……ムズ痒い。今の俺の体は美少女だということを忘れていた。早く何とかしていきたい所ではある。


そうして暫く顔を真っ赤にして耐えていると目の前が勢いよく開かれてレクスが出てきた。


「ソル来い」

「はい!!」


急いで立ち上がり、レクスの後に引っ付く。

生徒達はレクスを見つけると端へ寄る。こんな厳ついオッサンがいたらそうなるが。


暫く長い廊下を歩くと一つの教室の前で立ち止まる。

そこの教室からは異様な感じがした。


まず初めに、教室から誰も出てこない。

そして空気が明らかに重い。

そして廊下にいる生徒達が確実に避けている。


俺の本能が入りたくないと強く訴えているが、レクスは俺に後戻りをする時間を与える暇もなく、その教室の扉を勢いよく開ける。そして、中へ入っていく。

腹を括るしかなさそうだ。


ゆっくりと教室の中へ入っていく。

教室の造りはやはり木造校舎に似ている。案外、どこの世界も学校いうものの造りは変わらないのかもしれない。


ーーーーーーーーーーーーーーー


腰まである長い白色の髪を優雅に揺らし、その藍色の瞳を見つめるだけで心の奥に何かが渦巻く。

その少女を見た瞬間、教室にいた男子はその見た目に心を奪われ。女子には嫉妬と羨望を持たせた。

それほどまでに少女は圧倒的だった。

そして、腰には美しい一本の長剣。魔術師なら絶対に持たない得物。それが何を意味するのか、教室の生徒は一瞬で悟った。


彼女は剣士だ。


▽ ▲ ▽



「おら、ソルこっちに来い。自己紹介しろ」

「もう、レクスさんが代弁してますよ?」

「いいから早くしろ」


ゆっくりと歩いて黒板に似た板の前、皆の前へ立つ。元の世界でこんなにも皆の注目を浴びたことはあんまり無い。

元の世界とは違い黒板に名前を書くということはしないみたいだ。


俺を見ている全員が、やはり俺の体より歳上そうだ。俺の体が十歳前後だとすると大体が十三から十八歳だろうか?小学生頃高校生や中学生がやたらと怖く感じる感覚だろう。


「ソ……ソルです。よろしくお願いします」


軽く会釈をする。会釈がこの世界でも通じるか分からないが、一応丁寧な対応している感じは強い。

ゆっくりと顔を上げるが、皆何の反応を見せない。


「アハハ……」


苦し紛れに苦笑いをする。

それでも反応はない。


いや、反応はあった。

目の前から蝿ぐらいの速さで飛翔するパチンコ玉ぐらいの鉄球がやって来た。

いきなりの事だったが首を横へ傾け避ける。


鉄球はその速度故に、俺の背後の黒板に衝突すると若干の凹みを作り床へ落ちていく。

鉄球が飛んできた方向を見ると左一番奥の席に座っている明らか東洋人の特徴を持つで切れ目でミディアムヘアー黒髪の男が指先を向けていた。

恐らくは彼の魔術だろう。


「おい、なんでここに剣士がいるんだ?ここは選ばれた魔術師がいていい場所なはずだが?」


(あらら、やっぱりこうなりますか)


心の中で呟く。分かっていた事だが少し心に何か来るものがある。

ここは穏便に済ませたい。


「黙ってろキース。これは学長が決めたことだ」


俺に鉄球を発射した少年__キースに向かってレクスが威圧感のある声をあげながら睨みつけた。

少し意外だった。レクスがこういう事には口を挟まない人物だと思い込んでいた。


「いくら、学長の決定でも納得できません!!俺達より一回りも年下……しかも、剣士をここへ入所させるなんて前代未聞です!」


あんだけ厳ついオッサンである、レクスに反論するとは彼は結構肝が据わっている。

俺だったらあの目線で口を紡いでしまう。


「前例が無いだけで別に規則には問題ない。それにこいつもきちんと魔術を使える。この腕を見ろ……俺流(・・・)の試験でこいつは見事に一撃(・・・)を叩き込んだ。技術面と経験面を除けば、ここで一番の素質がある」


レクスはそう言うと、俺が右腕に叩き込んだ痣を皆に見せつける。

少し強く叩き過ぎたかもしれない。それなりに酷い痣になっていた。


教室がどよめく。

急に目つきを変える者も入れば、目の丸くて賞賛の目を向けてくる者もいる。

どうやら穏便には済まなくなったみたいだ。


「俺達はその現場を直接見てないから信用する事は出来ません!」

「ほぅ……俺が手を抜いた…?とお前は言いたいのか?ならばどうすれば納得する」


明らかにレクスの声が不機嫌になっていくのを感じる。キースという少年の肝っ玉を尊敬するが、まさかレクスともう一度再戦という条件はやめてもらいたい。

今度こそ死ぬ。


「その必要はありません。簡潔で、最も明確な方法があります」

「ほう?それはなんだ」


キースがレクスから目線を外し、ゆっくりとこちらを睨みつける。嫉妬、憎悪、見下し、あらゆる負の感情が積もったその目を直視できない。


俺は久々に悪意のある目を見てしまった……。

これは元の世界でも向けられた目線。



こいつさえ邪魔しな(いな)ければという感情。

俺は一体なにがいなかったんだろうか?



「このクラスでの主席魔術師……俺は彼女との決闘を申し込みます」


こうして俺の生活は幕を開けた。

俺はとことんこの世界に歓迎されてないらしい。

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