3話 共同戦線
「それじゃあ、質問続けるぞ」
圭吾は、簡単に頭の中で状況を整理しながら言う。元々頭のデキは悪くない。勉強などに反映される賢さというより、頭の回転が速く、思考の瞬発力があるタイプだ。
『どーぞー』
ハルは、相変わらず適当に相づちをうつが、圭吾は気にしないようにしながら質問を続ける。
「まず、“ゲームクリア”と“ゲームオーバー”の条件と、その結果に起こる事はなんだ?」
『だいぶ、質問が具体的になったね。助かるよ。』
「全てを理解出来ずイライラしてるより、一部でも理解してスッキリしようと思ってな。」
『いい傾向だね。まず、ゲームクリアは、侵略側のユーザーのキャラの全滅か、1年間この【命珠】を守れば今回のゲームはクリアだね。』
ハルがそう言うと、圭吾の胸のあたりから、野球のボールぐらいの薄い緑色に輝くガラス玉のような珠が出てきて、目の前にフワフワと浮かぶ。
「おっわ!」
『それが【命珠】だよ。』
「命珠…なんか脱力感スゴイんだが…。」
『キミの命と繋がってるからね。とゆーか全人類と繋がってる。』
「全人類…?」
『そう。だから、その珠が砕けると、“人間”という種族は消滅するね。』
「消滅ってお前…。」
圭吾は命珠を見つめて呟く。
『君たちの歴史では、恐竜って氷河期とかで絶滅したことになってるでしょ?アレはボクの前の地球の所有者のキャラが恐竜で、その命珠をボクが砕いたからだよ。それで恐竜という種族は消滅した。そして侵略側のボクのキャラだった“人間”って種族を替わりに繁栄させたんだ。入れ替わりのタイムロスがそっちの時間で5000万年とかあるけどね。その子孫がキミ達って事になるね。』
「…ちょっとまて、スケールでかすぎて追いつかねぇ…。」
圭吾は少しの間命珠を見つめて考え込む。
「要するに、この珠砕かれると負けで、俺も含め人類は消滅。で、コレを砕いたヤツのキャラが人間に替わって繁栄する。ってことか?」
『概ねそれで間違ってないね。』
「…要するにお前は、何十億って命を使ってゲームしてるクソ野郎ってことか。」
『それも概ね間違ってないね。』
「っざっけんな!お前何様なんだよっ!お前に俺らを弄ぶ権利があんのかっ!」
『あるさ。キミ達は前回の侵略時にボクが創造したボクの所有物だよ。ボクが造らなければ今のキミは存在してない。』
「っ!お前が造った事を信じるとしたもだっ!それから長い時間をかけて繁栄してきた俺らにも尊厳はあるだろうがっ!」
『ふむ。確かに長時間放置していた領地でこれだけの繁栄を見せて、なおかつここまで自己主張する種族も珍しいのは事実だし興味もある。キミの言う尊厳とやらを認めてどういう結果を生むのかもまた興味はあるね。』
ハルは少しの間を置いて続ける。
『少しお互いの感情と思考の整理をしようか。』
圭吾も少し熱くなっていた自分を認め「ああ…」とだけ呟いて話を聞く姿勢をつくる。
『まず、ボクは敵じゃない。敵は侵略側だよ。確かにキミらには荒唐無稽で唐突な事かもしれないけど、造られた意味と存在意義を考えれば、侵略者からボクのこの領地を防衛するのは当然なんだ。今までボクの関与なく自由に生きて来たのは侵略が無かったからであって、それは休暇みたいなもの。いざ侵略が始まれば休暇はおしまいでお仕事の時間ってことだよ。』
「…。」
『それに、ボクとしても、キミたちが消滅するのは本意じゃない。種族としての興味もあるからね。だから命珠を砕かせる気はないし、領地を明け渡す気もない。何より負けるのは嫌いなんだ。』
「はた迷惑な話だな。」
『理解まで時間はかかるかもね。でもいつかは侵略されてたし、キミじゃない誰かが選ばれてただけだよ。』
「全人類背負うとかガラじゃねぇよ。重いわ…。」
『プレッシャーっていうのは、この地球上では人間独自のものかもね。あと、余計な事かもしれないけど、ゲームクリア出来ればご褒美もある。謂わば選ばれた者だけに与えられる特権だね。』
「ご褒美?」
『そう。ゲームクリア時のメインキャラの願いを1つだけボクが叶える事が出来る。基本的にボクはキミたちの世界に干渉してはいけないことになってる。それがゲームクリア時は一度だけ干渉出来るんだ。』
「願いってどんな事出来るんだよ?」
『キミが想像しうる全ての事が出来るんじゃないかな。富、名誉、永遠の命、獣人ハーレム、ギャルのパンティ。』
「後半おかしいだろ。」
『概ね実現出来るってことだよ。まぁ、過去と未来に直接干渉するのは禁止されてるけどね。』
「よしわかった。」
圭吾はおもむろに立ち上がると
「ぶん殴らせろ。」
『うん?』
「ゲームクリアしたらお前ぶん殴らせろ。」
『あはは。欲がないねぇ。』
「お前の言い分は分かった。丸々信じるのはともかくとして、昼間のゴブリンの件を考えると、俺の身に何か起こってるのは間違いない。正義感も道徳心もある方じゃねぇけど、理不尽に今の生活や周りの人間まで消滅させるわけにはいかねぇ。」
「そして何より」と圭吾は続ける。
「俺も負けるのは好きじゃない。」
『くすっ。気が合うね。』
「合わねぇよ!」
圭吾はベットに腰を下ろす。
命珠が圭吾の胸へと戻る。
「とりあえず共同戦線に納得しただけだ。お前は領地を守る。俺は今の生活を守る。」
『それでいいさ。』
圭吾はふぅっとため息をつく。
「まだ聞きたいことは山ほどあるが、今日は疲れたな。」
『そうだね。情報処理速度が低いから仕方ないさ。』
「人を型遅れのPCみたいに言うな。」
『それじゃ今日はここまでにするよ。あ、呼び出したい時は、胸に手を当てて呼ぶといいよ。この部屋でならキミにもその権利がある。』
圭吾は胸に手を当てる。説明しようはないが、何かがそこにあることを感じることが出来た。
「ああ、分かった。」
『明日またこの部屋にキミが戻ったら来るよ。少しレベル上げとかないとね。』
「いい予感しねぇな…。」
『キミの世界の時間で一ヶ月後に一回目の、侵略者との戦いがあるからね、それまであんまり時間あるとは言えないからね。』
「帰り際に気になる話振るんじゃねぇ。少年誌の連載か。」
『まぁ今日は色々整理したらいいよ。よろしくね【ケーゴ】。』
「気安く呼ぶな。」
『リンク率上げるためには呼び方からさ。』
「ちっ。」
『ケーゴもハル様とか呼んでいいんだよ?』
「誰が呼ぶか!…ハルで十分だろっ。」
『おっ少しだけリンク率上がった。 ヤッタネ!』
「うっせぇ!早く帰れ!」
『はいはい、じゃぁねー』
ハルがログアウトした通知音と共に、圭吾が見つめていた部屋の時計の秒針が動き出す。
「ふぅ…脳が疲れたわ…。」
圭吾はベットに転がると、一旦考えるのを放棄して疲れた脳を休ませるべく、目を閉じ少しでも情報を遮断する。
浅い眠りに落ちるまでそう時間はかからなかった。