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水泳しかできない  作者: 野菜ジュース
最終章、インターハイ予選
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感謝の気持ち

<感謝の気持ち>


いつまでも鳴り止まないせみの声、道の奥に見える景色が蜃気楼のように揺れ動く。


高すぎる日差しが、真夏を思わせるほど、気温を高くする。そんな外の暑さとは違い、普通の室内は冷房設備のおかげでひんやりと涼しい空間を作り上げてくれる。それでもこの水泳会場は、集まる人達の熱気と室内プールによる暖かさで、その外気温と変わらない猛烈な暑さをしていた。


晴人「ついに、やってきたな。」


今までの数々の困難を頭に思い描き、この瞬間をかみ締めるような晴人の一言だ。

そして選手達それぞれが、強い眼差しで見つめあい、無言の会話を目と目で繰り返す。


道春の母「道春・・・・・・・」


そんな4人の前に現れたのは、道春の母。晴人はあのクレーム以来始めて会う道春の母親に、少し気を使うようなテレある会釈をした。するとそのまままっすぐに晴人に近づくと道春の母親が深々と礼儀正しく頭を下げた。


道春の母「今日まで、本当にありがとうございました。」


あの頃の態度とは一変。素直に感謝の気持ちを言葉に表す。


道春の母「今日の結果がどんな結果でも、私たち3人には悔いはありません。」


結果だけを求めてきた母親の姿勢。誰よりも父親はその結果に大きな期待をしていた。そんな自分達の水泳に対する思いを全て一変させるその一言。


『どんな結果でも、悔いはありません。』


晴人が一生懸命に教えてくれた水泳。道春が一生懸命に続けてくれた水泳。そんな日々だけでもう悔いはない。たとえ結果が出なかったとしても、誰も晴人を責めたりはしない。そんな気持ちが込められたその重い一言を熱い目頭で語る道春の母親。そ姿を見て、晴人もまた、もらい泣きのように涙を目に溜めた。


松山「おっ・・・・全員揃ってるな!!」


そんな感動のシーン味わっていたのに、それを壊すようないつも通りの雰囲気で登場した松山。


彩香「松山コーチ!いらしてたんですか?」


松山はそれを聞くと、歯を見せる大げさな笑顔で答えた。


松山「巣立っていくヒナは、飛び立つまで見送らないとな。」


晴人の大一番である今日。晴人が職人としてしっかりと飛びたてるのかどうか・・・・・。そんな言葉を言うと、松山はドカッと晴人の近くの席に堂々と腰を下ろして・・・・・・


松山「さーてと・・・・・・奇跡のレースが見れるのかね・・・・・・」


と言いながら、腕組みをして遠くを見つめた。その脳裏には、翔太の姿が映っているようだ。


松山「そういえば、神田は来ないのか?」


晴人「あっ・・・・・はい。今日は社長と大切な話があるみたいで・・・・・・」


松山「社長??あいつまだ出世するのか??」


晴人が、笑顔でうなずく。


するとプールに向き直りまた腕組みをする松山。


松山「そうか・・・・・これないのか・・・・・」


昔なじみの競泳コーチ。燃えていたその時代を、一緒に過ごして来た親友の神田。そんな旧友との水泳レース観戦・・・・・・それを期待していた松山は、少し悲しそうな表情で遠くを見つめた。

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