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水泳しかできない  作者: 野菜ジュース
最終章、インターハイ予選
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翼の気持ち

<翼の気持ち>


翼の母「翼!!もう準備はいいの?忘れ物はない?集合場所はいつものプールよね?間に合うの??」


心配性の母親が、どたばだと準備をする翼を見て一緒くたに質問を叫ぶ。


翼「うるさいな!大丈夫だって・・・・・・・」


翼は、そんな母親の態度をうざがるように、その質問全ての返事を『大丈夫』という一言でまとめてあしらった。


翼の父「朝からうるさいぞ!!世間様はまだ寝ている時間だ!!少しは静かにしなさい!!」


新聞を広げながら言う父は、すでにスーツに着替えていて、出勤の準備万端だ。几帳面でキッチリした性格が、その早い準備からも見て取れた。


翼「おやじ・・・・・・今日も仕事?」


騒がしかった準備の手を止めると、父に目を向けながら小声で呟いた。


翼の父「・・・・・?ん。そうだが、どうかしたか?」


その言葉を聞き、一瞬うつむき黙る翼。そしてまた父を見て言いにくそうに言葉を口にする。


翼「今日のレース・・・・・見にはこれないよね・・・・・?」


その言葉に、いつも通りの冷静さで翼を睨み付ける。


翼の父「何を言っているんだ!!!見に行けるわけがないだろ!!」


スーツに着替え終えている父親は、そのスーツを見ろと言わんばかしの態度で言っていた。


勉強と水泳。どちらを選ぶかと言う衝突を繰り返し続けた父親と翼。今でこそ水泳をやる事に文句は言わなくなったが、翼の父は『水泳が嫌いだ』と常日頃から口にしていた。もちろん、翼の水泳など見に行った事もなく、大会になんて一度も足を運んだ事もない。それを一番良く知っている翼であったが、なぜだかこの日だけはしつこい態度で無理な誘いを続けた。


翼「・・・・今日で、俺の水泳が終わるかもしれないんだ。インターハイを切れなかったら、今日で引退。俺が続けてきた水泳がここで終わる。最後の水泳の大会になるかもしれない・・・・見に来てくれないかな。」


それを聞いても新聞を読む目線も変えずに、当たり前のような態度で口を開く。


翼の父「俺が水泳嫌いなのを知っているよな?くだらない事言ってないでさっさと準備をして行きなさい。」


変わらない厳格で平坦な態度。さすがにその態度には諦めが付いたのか、目の前の荷物を持ち抱えると足早な言葉だけを残し、家を後にした。


翼「そうだよな・・・・・ごめん。じゃっ、行ってきます。」


立ち去る翼を新聞越しに目で見送る父。何かを思う深い目をしていた。


翼の母「あなた。もうすぐ会社の時間ですよ。」


玄関まで翼を送り届けた母が、また部屋に戻ると、


翼の父「・・・・ああ・・・・わかっている。」


そう言いながら新聞をきれいに折りたたむと、重い腰を起こすようにゆっくりと立ち上がった。


そしてまた思い悩む深い表情を見せる。すると、なにやら思い立ったような顔に変え母親を見た。


翼の父「母さん!携帯電話を取ってくれないか?」


翼の母「えっ??携帯電話??」


すぐに母親が携帯電話を探し差し出すと、父はそれを手に取り、おもむろにどこかに電話をし始めた。


その表示される電話先の名前を見て、母親が驚きの表情を作り不思議そうに首をかしげる。


翼の母「あなた??今日・・・・・会社に行くのよね?」


そんな父親の行動など、何も知らずに自転車をこぎ進める翼。ただただまっすぐにプールを目指していた。

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