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水泳しかできない  作者: 野菜ジュース
最後のレースまでに出来ること
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晴人の決断

<晴人の決断>


翌日、『一ヶ月でタイムを縮める方法』その明確な答えが何も出ないまま、4人は練習をスタートさせた。答えが出ないからといって止まっている時間もない。最低限今出来るその全てに、努力をし続けるしかないのだ。もう4人には、晴人に対する不信感などはまったくない。しっかりとした信頼がある。それでも、『このままで大丈夫なのか・・・・』という不安だけは、その表情に隠しきれずにいた。


選手達がそんな不安を抱えたまま泳ぐ中、晴人は鬼のような形相で一人ひとりの泳ぎを細部にわたってじっくりと見つめていた。そして、腕組みをして首をかしげ何かを考える。するとまた彼らの泳ぎを釘いるように見つめて、また腕組みで首をかしげて・・・・そんな事を繰り返し、とうとう2時間の練習全てを終わらせてしまった。


練習を終えた選手達が、プールから上がり整列をする。その表情は、『練習をやりきった!!』というものではない、腑に落ちない暗い表情。いつもなら、簡単な練習に対する注意や、今後の練習の流れを説明して終わりにする挨拶だが、晴人はいきなりの予想しない一言で、選手達の注目を集めた。


晴人「男子のメドレーリレーメンバーを変更する!!」


4人だけしかいないそのチーム。メンバー変更なんてもちろん不可能だ。その言葉の意味を理解できない4人は、難しい顔で首を傾げた。


そんな4人を見て、その意味を理解させるように晴人がオーバージャスチャーを取りながらで言う。


晴人「いやいや違う違う・・・・・泳ぐ種目の変更だぞ!種目変更!」


翼「・・・・・・・えっ?どういうことですか?自分に背泳ぎを泳ぐなって事ですか?」


晴人「翼と道春は変更なしだ。そのまま背泳ぎと平泳ぎを泳いでもらう。」


驚く翼を見て落ち着かせるように伝える晴人。そこで、道春が確信をつく納得の表情を見せる。


道春「え・・・・・という事は・・・・・」


晴人は大きくうなずいて答えた。


晴人「そういうことだ。拓也と翔太は2人ともクロールがスタイル1(得意種目)だ。どうしてもいないバタフライの選手を、今まではずっと体力があり安定していた拓也に泳いでもらっていた。」


拓也と翔太が、お互いを見つめあい、その通りと言った軽いうなずきを交わしあう。


晴人「最後の予選会・・・・・・バタフライを翔太。クロールを拓也に泳いでもらう!!!以上だ!!」


説明も少ないまま、その全てを押し切ろうとする晴人。


拓也「ちょっと待って下さいよ!!自分だけ納得して終わりにするなんて・・・・・・僕達にも納得させて下さいよ!!」


翔太「そうだよ!!俺、バタフライを100mも泳げる自信なんかねーし・・・・・・・」


うつむき口ごもる翔太を見て、翼がわだかまりある表情で前に出る。


翼「こないだ自分が言った通り、翔太には体力がなさすぎます。そんな翔太に一番体力を使うバタフライを泳がせるのは不条理だと思います。」


翼の言葉に、誰もが納得した表情を浮かべる。


晴人「みんなの意見もわかる。だがまず一回納得をしてもらって、明日・・・・・翔太の練習を見てくれ。それで、全ての答えを出すから。」


それでももちろんまだ納得しきれない4人だったが、挨拶を終えると少しの愚痴をこぼしながら更衣室へと戻り始めた。


そんな中、1人だけ片づけが遅れる翔太。それは『明日、翔太の練習を見てくれ』と言い切ったその言葉が引っかかるからだ。『あれだけの事を言ったのだから、俺には何か話があるだろ・・・・・』そんな予想も含めてのわざとらしい遅い片づけ。


晴人「翔太!!ちょっといいか?」


予想通りの声掛け。翔太はそんな晴人に少しやる気のないため息交じりをアピールして近づいていった。


晴人「お前に見せたいものがある・・・・・・・上にあがったら、スタッフルームの横にあるモニタールームまで来てくれないか。」


翔太は返事も返さず自信なく頭を下げると、無言で更衣室へと歩いていった。


プールがのぞける大きな窓。そこには腕組みをした店長が、何かを思いそのやり取りを見ていた。その表情は今までとは違い、どこか松山に似ている・・・・・・そんな職人の顔をしていた。


店長「よく気が付いたな・・・・・・・だがそれだけじゃ、だめなんだ。」


意味深な一言を漏らすと、スタッフルームへと消えていった。

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