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水泳しかできない  作者: 野菜ジュース
選手の故障、選手の恋愛
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水泳に託した思い

<水泳に託した思い>


レース前、そのレースを待つ選手達はプールに設けられている『招集所』という所に集まる。そこで、大会役員がそのレースの順番通りに選手達を並べていく。そして、そのまま順を追って前に進んでいき自分のレースを迎えるのだ。


女子選手達4人は、もうその招集所に全員で揃っていた。話もしない気まずい雰囲気ではあるが、レース前の緊張感がその気まずさをうまく誤魔化してくれていた。


いつものレース前と変わらず、気合いの入った表情をする4人。それでも沙羅は、時折何かを言いたそうな、そんな複雑な表情を見せた。


ついに自分達のレースが直前にまで迫ってきた。更に緊迫した空気が一帯を包む。そんな中、押し黙る3人を見ると、誰に話すでもなく意を決した沙羅が口を開いた。


沙羅「みんな!!・・・・・・・こんなレース前の時に、仲直りしようなんて私は言うつもりはない・・・・・・・・だけど・・・・・・・」


いきなり話し始めた沙羅に、3人みんなが注目をした。そんなみんなを見渡しながら沙羅が強い眼差しで言う。


沙羅「だけど・・・・・私は、みんなが信頼できる仲間だと信じてる!!だから、その気持ちをこのレースにぶつけるつもり!!!水泳が・・・・水泳が答えを出してくれる気がするから・・・・」


ずっと信じてきた水泳・・・・・それが正しい答えを出してくれると言う沙羅の熱い気持ち。そしてもう一度、一人ひとりがそれぞれ素直な顔で見つめあうと、また沙羅がその思いを言葉に出した。


沙羅「もし、みんなも私達が仲間だって思ってくれてるなら・・・・・今日のレースにそのすべてをぶつけて!!いい??」




観客席では、そのレースを不安そうに見つめる2人がいた。


彩香「ちゃんと・・・・うまくいってますかね・・・・・」


晴人「俺達にはもう何もする事ができない。後は、本人達に任せるしかないだろ・・・・・・・ずっと一緒に水泳を続けてきた仲間だ。この問題は自分達で乗り越えてくれる!!俺はそう信じてるよ。」


そんな晴人のもっともらしい言葉を聞き、彩香も静かにうなずいた。


彩香「来ましたよ・・・・・次です!」


プールサイドに目を向けると、そこには気合いの入った女子選手達4人が立っていた。その4人を見ても、ストップウォッチも握らず興奮もせず、ただただ黙ったまま座り見つめるだけの晴人。


彩香「??応援・・・・しないんですか?」


晴人「今日は応援をしない。タイムもとらない。彼女達に全てを任せます。」


頑固おやじのような強情な態度。そんな晴人の態度を見て、彩香は小さなため息をついた。


ピッピッピィィィィ~・・・・・・


出発員「よーい・・・・・・」


ピッ!!!!!


ついに、そのレースをスタートさせる合図が鳴り響いた。


スタートの合図とともに飛び込むのは舞。誰もが認める努力家だ。その泳ぎを真剣な顔で見つめる姉の華。


どんなに努力をしても、どんなには練習をしてもその妹には勝てなかった。いつの間にか崩れてしまったその姉妹という上下関係、それから逃げるように水泳を離れ、恋愛に夢中になった。それでも今、また水泳を続ける決心をしてここにいる。それは逃げずに戦っていた妹の努力がわかったからだ。


舞がその泳ぎを終えると頭上に見える電光掲示板に目を向けた。間違いない実力を見せつけたそのタイム。舞はそのタイムを見てほっとした表情を作るとプールから上がった。


スイムキャップもゴーグルも取りそこに座り込む舞。その横には、次泳ぐ事になる華が気合いの入った表情で立っていた。太ももや肩などを自分で強く叩き、その気持ちを高ぶらせる。そして、静かに座り込む舞に目を向けると、熱いまなざしで自分を追い込むように言った。


華「私が姉だから・・・・・・しっかり見てて、絶対に負けない!!」


舞にとって一番のライバルで、一番の目標だった華。華がいたから速くなれた。それは、いつも自分より努力をする華がいたからだ。そんな強く頼りになる姉の華。そんな姿に戻った目の前の姉を見ると、舞は嬉しそうな涙顔を見せた。


舞「お姉ちゃん・・・・・・お姉ちゃんなら、できるよ!」


2泳で泳いでいるのは腰痛が治ったばかりの美月。さすがにいつもの勢いがない。それでも何とか今の実力を出し切って、100mの全てを泳ぎきった。プールから上がると電光掲示板を見て、あまりよくない自分のタイムに苛立つ。そして、悔しい表情を見せると肩で息をしながらスイムキャップをプールサイドに叩きつけるように脱ぎ捨てた。そんな姿を見た沙羅が、心配するような優しい顔で声をかける。


沙羅「辛い腰痛だったのに・・・・・良くここまでいいタイムが出せたね。もう誰も美月のことは責めたりしないよ!!」


衝突していたのがうそだったかのような優しい言葉。それを聞いた美月は、泳ぎ終わった興奮状態のまま沙羅に叫んだ。


美月「まだ・・・・まだこの4人で水泳続けたいよ!!!だからお願い!!必ず結果を出して!!」


すでに誰が見ても、もう以前の結束ある4人に戻っている。そんな4人ならもうどんな結果でも、最後の夏に向かって再出発が出来るはずだ。それでも、レース前に沙羅が言ったその一言にすがるように美月が叫んだ。そう・・・・・


『水泳が答えを出してくれる』


その言葉だ。


そして、運命の第4泳者への引継ぎとなった。


飛び込む沙羅、全てを振り切るように泳ぎ進んでいく沙羅を必死で応援する美月。その横では、舞が姉に向かって、そのタイムを叫んでいた。


舞「お姉ちゃん!!すごいよ!!私より全然速い!!」


それを聞いた華は、整わないを呼吸そのままに笑顔で答えた。


華「当たり前でしょ・・・・・私が・・・・姉なんだから!!」


強がった言葉を言いながらも、その目にはうれし涙がしっかりとたまっていた。


4人の思い、全ての時間を水泳につぎ込んで戦い続けたその思い。どんなに努力をしても結果が出ない日々。諦めかけた時は何度もあった、それでもまた前を向き、努力をして・・・・そんな事を繰り返していた。


そして最後に泳ぐ沙羅が、ゴールのタッチをする。3人は、応援をしていた沙羅への目線を静かにゆっくり電光掲示板に向ける。ゴーグルをはずし、電光掲示板を見る沙羅がそのタイムを見て涙をごまかすように顔を水面に沈めた。


美月「やっと・・・・・ベストが出た・・・・・・・・」


そのタイムは紛れもないベストタイム。4人のベストタイムだった。待ち続けていた結果がついに出た瞬間・・・・・・4人はずっと夢にまで見ていたその瞬間をかみ締めるように涙を流し抱き合った。その友情はもう誰にも壊す事ができない強いものになっていた。

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