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水泳しかできない  作者: 野菜ジュース
ぶつかり合う気持ち
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すれ違いの繰り返し

<すれ違いの繰り返し>


数日後のプールサイド・・・・・


晴人「よし!今日もみんなの為に練習メニューを作っておいたぞ!!さあベストタイム更新を目指して、頑張っていくか!!」


練習時間の18時30分になり集まった選手達の前に立ち、わざとらしく明るい笑顔で言葉を投げかける。それを見た沙羅が、ため息をこぼすと嫌々な表情で腕組みをし、晴人に細目を見せる。


沙羅「なんでわざわざ毎日練習メニューを作るんですか??言ったじゃないですか!自分達で練習メニューも作るし、自分達で練習するからコーチは必要ありませんって!!」


女子選手の中でも一番気が強くてまじめな沙羅サラ、中学2年生だ。女子選手チームではリーダー的名存在で一番意志も強い。一度決めたら曲げられないというその性格が、一言一言のきつさからも感じられた。そんな彼女だからこそ、水泳に対しては真面目で本気、ストレートな熱意を誰よりも持っていた。


晴人「いいか・・・俺は君達が俺を認めてくれるまで、使わなくても毎日練習メニューを作り続けるぞ!!練習中の2時間、どんなに俺を無視しようが邪魔と思われようが、俺はプールサイドに立ち続ける!!これが君達に見せられる、本気さを伝える唯一の誠意だからだ!!」


スポ魂漫画のような恥ずかしさや臭さまで感じる熱血漢丸出しの晴人。そんな古さをかっこ悪く感じたのか、沙羅は・・・・・


沙羅「あっそ・・・・勝手にやってればいいじゃないですか!」


と、肩透かしの冷たい一言であしらった。


こんなやり取りを、もう何日もプールサイドで続けている。いつまでたっても心を開いてくれない選手達。結局この日も、いつも通りの挨拶なしでみんな勝手に泳ぎ始めてしまった。


選手達の為に何もする事が出来ない晴人は、ただただそこに立ち選手達の泳ぎを見るだけというほぼ無駄な時間を過ごし続けるしかなかった。しばらくすると、プールサイドにあるスタッフルームの出入り口ドアを荒々しい音とともに開かれた。


木島「おい水元!ちょっと話があるからスタッフルームに来てくれないか??」


そのドアから出ってきた木島が、なんだか鼻につくむかつく態度で晴人を呼び寄せる。


晴人「何ですか??木島さん!今指導中ですよ・・・・」


木島「何が指導中だよ!あいつらは、お前なんか無視して勝手に泳いでるんだろ!?とにかく早くスタッフルームに来い!」


先輩肌というか上司っぽくというか、そんな上から目線を利用した強引な言い方。確かに上司であり目上の人であるのは間違いないので、晴人は仕方なくといった表情を見せながらスタッフルームに続く階段を上がっていった。


店長「いったいいつまでこんな事を続けているつもりだ!!!」


上がるとすぐに、店長からの怒鳴り叱りが響き渡る。


晴人はビクッと身体を震わせ驚きを表現すると、すぐに廊下で立たされた子供のように、じっと押し黙り肩をすくませた。


木島「店長。ちなみに、このポスターも作れていないし、このチラシも準備できていません。ほんっ・・・・と、まったく何も手をつけていない状態です。」


木島が言うそれらは、晴人が担当している事務仕事の事。見るとそこには、何も手がついていない残された晴人の仕事が山積みになっていた。


店長「自分の仕事全てほったらかしにして、選手の練習メニューを作るのに1時間。選手の指導に丸々2時間。合計3時間も選手の事だけをやって・・・・・挙句の果てに、選手はその練習メニューには手をつけず、自分達で勝手に練習をやっているだと??仕事中にまったく無駄な時間を3時間も費やしているって事なんだぞ??わかっているのか!?水元!」


晴人の手には、その無駄と言われた手書きの練習メニューがしっかりと握りしめられていた。晴人はそれに一瞬目を向けると、熱い眼差しで店長に目線を送る。


晴人「すみません店長。だけど自分は・・・・」

店長「言い訳はやる事をやってから言ってくれないか!!?」


何も言わせまいという態度で店長は終っていない仕事である山積みの紙を、晴人の前へと無造作に撒き散らした。こうなってしまってはもう何も言い返せない。仕方なく晴人は撒き散らかった紙を拾い集め、プールサイドには戻らずそのままスタッフルームで仕事に手をつけ始めた。


ひと段落をして急いでプールサイドに戻ると、練習を終えた選手達はもうプールを上がり、片付けを始めている最中だった。


晴人「ごめんごめん!!どうしても外せない仕事があって・・・スタッフルームに戻っていたよ・・・。」


沙羅「何がごめんごめんですか??誰もコーチの事なんか待っていませんでしたよ。男子達はもう帰ったし、私達ももう上がる所です。」


晴人「あぁ・・・そうか・・・・」


そんな事は分かってはいたが、あまりにもそっけない沙羅からの一言に、晴人が返す返事は小さく弱弱しかった。


舞「どこが誠意だよ。結局、なんだかんだ言っても練習なんて見る気がないんだ・・・・・・・」


追い討ちをかけるような冷たい一言を言ったのは、女子選手の中でも最年少、中学1年生のマイだ。


晴人「いやっ・・・待ってくれよ・・・今日はほんと仕方がなくて・・・・」


華「コーチが言い訳をするんですか??情けないですよ。」


そう言ったのは舞とは実の姉妹である、姉のハナ。中学2年生だ。


美月「何を言っても、正直私達コーチの事は信用しませんから。さっ行こっ。」


心に突き刺さる言葉ばかりを、相手の気持ちも考えずにズガズガと言いまくる女子選手達。晴人はそんな態度の女子選手達を見ながら、役立たずで無力な自分の存在だけを酷く痛感させられていた。


仕事は出来ずに怒られるし、選手の練習も見られない、更には選手からの信頼も完全に失って・・・・求めていた理想の職場とはまったくかけ離れてしまったその状況。その何もかもが、かみ合わない歯車のまま回り続けた。


晴人は、片付けを終え更衣室に去る4人の後ろ姿を見ながら、そんな何も出来ない自分の存在を情けなく思い、ただただその場で動けず立ち尽くしていた。

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