華への説得
<華への説得>
ピンポーン・・・・・・
家の呼び鈴であるボタンを押す彩香。そこは、華と舞の家の前だ。すると、すぐに母親らしき人がドアを開け、出てきてくれた。
母親「あれ?どちら様・・・・・・あっコーチ!!」
彩香の顔を見るなり、すぐに彩香だという事に気が付いた。
母親「いつもうちの2人がお世話になっています。」
彩香は、深いお礼の会釈をする母親に気を使うと、その自宅訪問の理由を伝えた。
彩香「いえいえこちらこそお世話になっています。今日は・・・・・華ちゃんに用がありましてお伺いしました。」
母親「ああ・・・・華ですか・・・・最近練習にも行っていないようで、本当にご迷惑をおかけしています。」
申し訳なさそうな顔をする母親。家の中に入ると、その華の部屋まで案内をしてくれた。
母親「華!!!森下コーチが見えてますよ!」
華がその部屋のドアが開くと、驚いた顔で気まずそうに言葉を漏らす。
華「森下コーチ・・・・・」
その部屋は女の子らしいというよりは、清潔感ある整った雰囲気。真面目な彼女の性格が出ているようだ。そこで、母親から出されたオレンジジュースを飲みながら自然な口調で話を始めた。
彩香「最近・・・・・練習来てないよね?勉強にでも熱が入っちゃったの?」
その理由が勉強ではない事を知っている彩香。それでも、核心を突かずにじっくりという流れで話を進めようとしたのだ。そんな彩香の思惑を知ってか知らずにか、華は、なんと自分からその核心を堂々と暴露し始めた。
華「彼氏です。もう4ヶ月付き合っています。」
彩香はそんな華の姿勢から、『もう水泳の事を何言われても彼氏しか見えない』という若い力強い恋愛の意思を感じた。それでも食い下がるように華を問い詰める彩香。
彩香「水泳は?もういいの?」
華「彼氏がいれば・・・・もう水泳はいいです。」
強い薬物の副作用にある幻聴や幻影のように、恋愛だけしか見えなくなってしまっている華の発言。
彩香「あれだけの時間を使って続けてきた水泳よ?姉妹で一緒に頑張ってきた水泳よ?それをそんな簡単に諦めてしまってもいいの?」
その言葉には、一瞬うつむき黙る華。それでもまた前を見て強く言い切った。
華「いくら頑張っても・・・・いくら本気になっても水泳は結果が出せない!!それでもそんなに時間を使うんなら・・・・私は、違う事に時間を使いたい。」
今の華が言う『違う事』とは恋愛の事。それでもストレートに『恋愛に時間を使いたい』と言わなかったのには、理由があった。それは、水泳をやめる理由が恋愛だけではないという事のアピールだったのだ。
華はただただ若い恋愛にとらわれて、無我夢中になっているだけではなかった。水泳から逃げる理由は他にもあった。それでもそれに気づかない彩香は、恋愛を否定するように華に言った。
彩香「恋愛はいつだって出来る!夏までの水泳の後でもいいんじゃないの?」
気持ちが伝わっていない事に気が付いた華が、苛立ち叫ぶ。
華「もういい!!水泳はいいって言ってるでしょ??帰ってください!!」
そんな態度にムッときた彩香は、華にきっぱりと言い切った。
彩香「まだ話は終わっていません!」
華「もういいの!!出てってよ!!!」
良く見る反抗期にも似たその態度。そんな態度で、華が彩香を押し出そうとしていると、それに見かねた部屋の前にいた妹の舞がドアを開けて大声で怒鳴った。
舞「お姉ちゃん!!何でそんな態度とるの!!!」
華は、怒鳴る舞に気づくと、冷たく心無い表情であしらうように叫んだ。
華「あんたには関係ないでしょ!!!」
舞「関係なくない!!お姉ちゃんがいなくなったら私達の全国中学校はどーなるの?いけなくなるんだよ?」
華「全国中学校?どっちにしてもそんなの行けないよ・・・・妹にも負けるような私が足を引っ張ってるから・・・・そんなの行けるわけ無いじゃない!!!!私はみんなにとって邪魔者なのよ!!」
水泳から逃げたくなる本当の理由。それは悔しさだった。妹に負ける自分、足を引っ張っている自分。そんな自分の力の無さがあまりにも悔しかったのだ。ましてやそのまま全国大会の予選会に臨んで、自分の遅いタイムが理由で全国大会に行けなかったら・・・そんなことまで考えてしまう。そんな思いをするなら・・・・・いっそのこと水泳をやめてしまいたい。その逃げ道として選んだのが、たまたま身近にあった恋愛。自分の事を必要としてくれる彼氏の存在だった。
華「私はもう・・・・・みんなに迷惑をかけたくない・・・・・・・」
つぶやくように言うその本心の言葉を聞いて、舞もまたその心にある本心を言葉に漏らした。
舞「お姉ちゃんがいたから、速くなれたんだよ・・・・・・私の目標はお姉ちゃんなんだよ。私が一番年下だから・・・・私だってみんなの足を引っ張らないように努力した。みんなの何倍も努力して、頑張ってみんなに追いついた!!それなのに・・・・お姉ちゃんはそんな簡単に諦めちゃうの?恋愛なんかに逃げちゃうの??」
決して力があったからではない。決してずば抜けた素質があったからではない。誰よりも、人一倍努力を続けたから掴めた結果。辛いから逃げるのではなく、辛いから戦い勝ち取る。そんな行動を見せた舞の水泳に対する気持ちだった。
そして涙を流した舞が、姉妹の・・・・・4人の水泳への気持ちを華に叫びぶつけた。
舞「私達の水泳は、そんな簡単には終わらない!!!」
その一言を叫ぶと、舞は涙をぬぐいながら、家を駆け出ていった。




