ぶつかる思い
<ぶつかる思い>
インターハイの最終予選、ついにその日まで残り2ヶ月を切ってしまった。それぞれがそれぞれの思いを胸に、残り少ない期間の練習に打ち込む。そんな切羽詰った状況は、もちろん女子選手達も一緒だった。
全国中学校を決めるレースまで後1ヶ月半ほど。男子チームよりも少し早くそのレースを向けえる事となる。練習こそは、晴人のおかげもあり以前よりいい練習が出来ている。それでも男子チームとは違い、まだその結果をレースとしては確認できていなかった。そんな女子達は毎日、焦りと緊迫感ある練習を続けていた。
そんな練習をするある日・・・・その緊迫感が悪い方向に出たのか、沙羅と美月の言い争いが始まった。
沙羅「なんで泳がないの!!練習できなきゃ全国なんて絶対行けないよ!!」
美月「私だって練習したい!!だけど泳げないの!!」
事の発端は練習の途中・・・・・・・プールを上がった美月が原因だ。理由は、腰痛。水泳選手としてはよくある身体の故障だ。それを見た晴人も、初めての対応なのではっきり泳げとも泳ぐなとも言えず、中途半端な対応をしてしまった。それを見た沙羅が、練習をしない美月に不満をぶつけたのだ。
美月「腰が・・・すごく痛いの!わかるこの気持ち?泳ぎたくても泳げないの!!」
沙羅「そんなのいいわけじゃない!!気持ちが弱いから甘えているだけでしょ?」
沙羅が、勢いそのままに晴人を睨みつける。
沙羅「コーチ!!無理やりにでも美月を泳がせてください!!甘えていては、結果は出せません!!」
押し負けしそうなほど勢いある沙羅のパワー。だが、晴人はそれにも動じず冷静に答えを返した。
晴人「まー待て沙羅!!お前の気持ちはよくわかる。だけどここで無理をさせて、その腰が大会に出られないほど悪くなってしまったら意味がない。ここは様子を見たほうがいいだろ。」
そのやり取りを見ていた姉妹スイマーの姉、華が割って入る。
華「私もそう思います。時間が無いのはわかる。だけど身体の故障だけは冷静に対応しないと・・・・」
沙羅「甘いの!!!!そんなんだからいつも結果が出ないんじゃない!!違う??」
もう自分の考えしか信じられない沙羅。そんな沙羅は勢いが止まらず、その矛先が美月だけではなく、割って入ってきた華にまで向けられた。
沙羅「だいたい華も華よ!!!そんな練習で速くなれると思っているの?いつもいつも妹の舞にだって負けてるじゃない!!妹にまで負けて悔しくないの??」
誰もが気づいていたその姉妹の不条理な上下関係。いつの間にか華は、妹の舞にまで負けてしまうほど練習が弱くなっていた。成長しなければならないのに伸び悩み続ける姉、華のタイム。沙羅はそんな華への苛立ちを、このきっかけで爆発させてしまったのだ。
いきなりそんな事をそこまで言われてしまった華は、思わず悔し涙を流しながら泣き崩れてしまった。
華「何でそんな事言うの!!?私だって悔しいに決まってるじゃない!!」
妹や弟にスポーツで負ける・・・・・それは姉妹や兄弟では良くある事。それでもそれはあまりにもデリケートな問題で、晴人もそれに対しては、うまくここまでの練習は出来ているつもりだった。割れ物を扱うように丁寧な対処を続けてきた晴人。せっかく続けてきたその努力を、全てぶち壊すように沙羅がまた華に叫び散らした。
沙羅「悔しかったらもっと練習で勝てばいいでしょ?足りないのよ、気持ちが!!水泳に対する気持ちが足りないの!!!」
その叫びに、華は一瞬顔を曇らせた。そして、プールから上がり練習道具を片付けると、更衣室に向かって歩き始めてしまった。
舞「・・・・おねえちゃん・・・・どこ行くの??」
心配になった舞の優しい一言。言い争いの後だからか、そんな言葉もどこか上から目線にまで感じてしまう。それを腹ただしく思ったのか、華は振り返ると舞に怒りをぶつけるように怒鳴った。
華「あんたが原因でもあるのよ!!妹のあんたに負ける私の悔しさがわかる??」
完全に正当ではない間違った文句。それでも、もうその場に入れなくなるほどの失態をさらけ出してしまった華はまた前を見ると、更衣室へと消えていった。
美月「もう・・・・・いいよ・・・・」
水泳への諦め・・・・・腰の痛みだけではなくチームすら大きく崩れてしまった。そんな事態を見た美月の水泳への諦めの言葉だった。
女子達の大きな亀裂。近づく目標が与えるプレッシャーによって、それぞれの苛立ちがぶつかり合ってしまった。その亀裂が抱える問題はあまりにも多く、深く、一瞬の頭で考えただけでは全てを消化しきれなかった。そんな難しい問題に直面したこの事態に、ただただ唖然と佇む事しか出来ない晴人がそこにいた。




