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水泳しかできない  作者: 野菜ジュース
晴人の転勤
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ヘッドコーチと店長

<ヘッドコーチと店長>


あくる日。選手の練習を終えた晴人が、気分良くスタッフルームに戻ってきた。


晴人「いやぁ~今日の選手は気合いが入ってたな!!やる気が違うよやる気が!!!こりゃ、インターハイ・全国中学校なんて言ってられないな!!日本選手権だよ!!日本選手権!!はっはっはっ!!」


いい練習も出来て大満足の晴人。その横にいる彩香も、笑顔でうれしそうな表情を見せる。


彩香「ほんとですね!!日に日に選手達の練習タイムが上がってきてる・・・・調子がいいですよ!!」


深刻な表情をした店長が、そんな笑顔の2人に近づき晴人に声をかける。


店長「水元!!大切な話がある・・・・・・・ちょっと来なさい。」


『やばい!!やっていなかった仕事を怒られる!!』店長の深刻な声を聞き、そんな事を思った晴人は、悪さをした後の子供のような情けない声で答えた。


晴人「あ・・・あぁ・・・ハイ!すぐに行きます。」


2人はスタッフルームからは見えない奥の部屋、最初の対面の時に使ったあの応接室のような部屋だ。そこまで移動をすると座椅子に腰をおろした店長が、落ち着いた表情で晴人を見上げる。


店長「ちょっと・・・・そこの席に座りなさい。」


晴人「・・・・なっ・・なにか仕事に不備でもありましたか??」


無表情の店長に別室まで呼び出されて・・・・・・・そんな状況になんだか不安でいっぱいになった晴人は、座るより先にその深刻な雰囲気の理由を焦りある聞き方で尋ねた。


店長「まーまー・・・・とにかく座って落ち着きなさい。大切な話があるんだよ、今日は。」


晴人が座ると、店長はその本題をストレートに話し出した。


店長「君は・・・今月いっぱいで転勤だ。」


晴人「えっ??なんですか?もう一度お願いします。」


あまりに唐突なその言葉に、晴人は聞き間違いかと思い、またすぐに聞き直した。店長はそれでも動じず、その話を先へと進めていく。


店長「転勤先は、ここよりも更に大きい最先端のスポーツクラブだ。うちの会社でもトップクラスの会員数をほこっている。君にも出世のチャンスが巡ってきたって事だ。」


そんな言葉には耳も傾けず、動揺しながら自分が聞きたい事だけを質問した。


晴人「競泳は???ここの選手達はどーするんですか??」


店長「ここにいる選手達の話しをしているんじゃない。君の話をしているんだ。ちなみに、転勤先には子供の会員はいない。なので、もちろん選手コースもない。」


淡々とその晴人に置かれた状況を説明していく店長。ゆっくりと事態を飲み込んでいく晴人。


店長「いいか・・・・・君が今いる選手達の事が気にするのは良くわかる。しかし、いつまでも選手選手、競泳競泳なんて言ってられないんだよ。これは、出世のチャンスだ!今いる選手達の事より、未来の自分の事を考えなさい。」


それでも、腑に落ちない表情で黙りうつむく晴人。そんな晴人を見て、店長は間違いを正すように叫んだ。


店長「まだわからないのか??君が目指しているのはヘッドコーチ!!でもうちの会社にはヘッドコーチなんて者はいらないんだよ!!店長!!店長になるのが出世なんだ!!!その為には、立派な競泳指導ができるよりも、売り上げを上げる事が必要なんだ!!!」


それまで黙りうつむいていた晴人。晴人が顔を上げると、流れ落ちる大粒の涙がテーブルへとこぼれた。


晴人「自分は出世なんかしなくてもいい!!だから、ヘッドコーチを目指させてください!!!」


晴人のまっすぐすぎる気持ち。その気持ちのおかげで選手達も変わる事が出来た。

一つ一つのトラブルも乗り越え、ゆっくりでも前に進んできた晴人。晴人の想う競泳には、出世にも負けない軒並みならぬ想いが込められていた。さすがの店長もそんな晴人の気持ちが伝わったのか、悲しい目で晴人を見つめた。それでもまた、きつい目に切り替えると冷静さを取り戻しはっきりと言った。


店長「本社の言う事が絶対だ!転勤を断る事はできない・・・・・・もし断るというのなら・・・・・」


店長が一瞬の間をおいて、その事の重大さをより感じさせる表現をする。


店長「・・・・・・・・会社を辞めてもらう。」


きっぱりと言い切る店長。2人は無言で見つめあった。


今まで作り上げたものを全てぶち壊すような店長の言葉。天敵に怯える小動物のように小刻みに震える晴人。その震えから、店長の言葉があまりにもきつく重いものだった事を感じさせた。

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