爆発する翔太と晴人
<爆発する翔太と晴人>
あくる日も、あくる日も、変わらずの態度で選手のコースを奪い泳ぎ続ける大久保。それを見る度に苛立ち文句を言い合う選手達。そして、文句を言いながらも続ける1コースでの練習。そんな状況に、最初に痺れを切らしたのは、事の発端の翔太ではなく男子達と一緒に泳ぐ女子選手達だった。
沙羅「いい加減何とかして下さい!水元コーチ!!」
華「男子選手達とすれ違う度にぶつかりそうになるんですよ?」
美月「抜いたり、抜かされたり・・・・練習中、どれだけ気を使っているかわかりますか?」
舞「こんな状況じゃ、満足いく練習なんて出来ません!!」
一列に並ぶ女子選手達は、晴人を取り囲むように文句を言った。
大柄な高校生が揃ったこのチーム。さすがに1コースで8人ともなるとすれ違いも多くなり、軽度ではあるが衝突も少なからずある。もちろんそんな時、被害が大きいのは女子選手達。そんな衝突なくしても、スピードもパワーも違う女子達は、男子達が泳ぐ波に流されて満足に泳げないほどの現状だ。
そんな腑に落ちない練習を日々続ける辛そうな女子選手達を見た翔太は、完全に若さむき出しのけんか腰な態度で、声を震わせた。
翔太「あいつ・・・・・選手コースをつぶそうとしてんだ、絶対。」
翔太は泳ぐ大久保を睨みつけた。そして、その泳ぐコースに駆け寄ると、叫び散らしながらプールに飛び込んだ。
翔太「ふざけやがって!!もうゆるさね-!!」
ついに心配していた事態が起こってしまったようだ。溜め込まれた思いが一気に爆発する翔太。止めに入ろうとした晴人だったがそれよりも早く翔太は行動に起こしてしまった。一直線に大久保の近くまで泳ぎ進む。その先には壁をターンして、泳ぎ続けようとする大久保がいた。その足を掴むと逆さになるほど足を持ち上げ力強くコースロープに叩きつけた。
翔太「てめぇ!!いい加減にしろよ!!!」
一瞬沈んだ大久保が浮き上がると、足をさすりながら痛みをアピールする。そして、すぐに翔太を睨み、大久保もまたその溜め込んできた怒りを爆発させた。
大久保「また君か!!人が泳いでいるのに何をするんだ!!」
翔太「邪魔なんだよてめぇは!!こっちは、インターハイ目指して練習してんだ!!いつまでもてめぇにこのコース遣わしてられねーんだよ!!」
大久保「まだわからないのか君は?それがスポーツマンの態度なのか?」
溜め込まれた思いを爆発させながらヒートアップする2人の喧嘩。今回は殴り合いにまで発展してしまいそうな勢いだ。その事態に危険を感じたコーチである晴人、その間に叫び割って入る。
晴人「翔太ぁぁ!!!上がれぇぇぇ!!!」
前回とまったく同じのこの状況。それでも晴人の態度は前回とは違い、翔太への怒りをむき出しにしたきつい態度だった。
いつもと違う迫力で叫ぶ晴人の声を聞くと、さすがの翔太も睨む目線を大久保から外し、渋々といった態度でプールから上がっていった。すると、今度は晴人に食って掛かる。
翔太「俺達には時間がないんです!!!コーチはこんな1コースの練習で速くなれると思ってるんですか?」
それに応じる晴人は、先ほどの怒りと興奮を抑えながら翔太にまた正しい教育で気持ちを伝える。
晴人「そんな態度をとっても、大久保さんは認めてくれないぞ!!」
翔太はチラ見のように一瞬大久保を見ると、舌打ちをする反抗的な態度を見せた。
翔太「別に・・・・・あんなやつに認めてもらわなくても・・・・・・」
次の瞬間。プールサイドが一瞬にして静まり返り、流れる空気が止まってしまったかのように思えた。予想もしていなかった晴人の行動に、誰もが驚き動きを止めてしまったのだ。
『今の時代・・・・子供に手をあげてしまったら会社を首になりますよ・・・・・』
そんな台詞を言っていた晴人は、抑えていた興奮する感情をそのままに翔太を力いっぱいに殴りつけていた。
彩香「みっ・・・・水元コーチ!!」
すぐに、倒れこむ翔太に駆け寄る彩香。
彩香「・・・・・・・手をあげるなんて・・・・・」
いつも味方になってくれていた彩香も、さすがにこの時だけは翔太を守るような態度をとった。
美月「コーチ・・・・・なんで翔太君を殴るんですか・・・・・・・」
沙羅「コーチは、私達の味方じゃないんですか?」
無表情にも感じる真顔で選手達がゆっくり晴人に近づく。
バラバラだった選手達。その選手コースを、ゆっくりでも努力と心ある気持ちでまとめあげてきた晴人。その築き上げてきた信頼が一瞬にして崩れ去ってしまった。
信頼を失う・・・・・・・『選手を殴る』という暴動にはそれほどの事態を引き起こしてしまうほどの力があった。
瞬く間に選手1人ひとりが、初心の頃のような大きな不信感を抱き始めた。
そんな一歩引いた態度をとる選手達を見渡すと、晴人はそれにも動じず慌てる事もなくはっきりと言い切った。
晴人「何だその態度は!!!!俺が間違っているとでも言うのか!!!」
昭和、平成・・・・・その時代にはその時代にしかない教育の正論が存在した。昭和の堅物と言われる大久保。まさに叫び散らす晴人の態度は、大久保と同じ時代錯誤した昭和の堅物そのものに見えた。
頭に血が上っているわけでもない当の本人晴人は、もちろんそれには気が付いている。ため息混じりに息を吐き、気を落ち着かせると続けるように選手達に語る。
晴人「インターハイに出場したい!全国中学校に出場したい!そんな気持ちばかりが大きくなっていつしか周りも見えず理性も失っている!!今のお前達の態度を見ているとそんな風にしか見えない!!スポーツって何なんだ??強ければ何でもいい!!勝てれば何でもいい!!速ければ何でもいい!!そうなんじゃないだろ??」
ゆっくりもう一度周りを見渡す晴人。誰も何も言わないのを見ると、またその続きを静かに話し始めた。
晴人「スポーツも教育だと思っている。人間として成長する為の教育・・・・・・今、みんなに教えたい教育は、礼儀だ。人としての礼儀!!泳ぐ為だけに来るプールじゃない。別の何かも学ばなければいけないんじゃないのか??もう一度、今までの自分達の態度を振り返ってみろ!!」
無言で思い描くそれぞれの礼儀という態度。その態度に自信がないのか、どの選手も顔色を曇らせただの無言ではない、押し黙るといった表情へと変えていった。
店長「それでも、お客を殴るというその暴動はどう訂正するつもりだ!!」
いきなり割って入ってきたその声。騒がしいプールサイドの事態を察っして現れた店長の、その不足な事態への対応を迫る問いかけだった。
店長「社会人として、教育者としてあってはならない事態だと私は思うがね!!!」
ここぞとばかりに晴人を追い込む店長。その横では、見下す笑顔の木島もしっかり付き添っていた。そんな2人に目を向けると事もあろうかその殴りつけたこぶしを突き出し、曲がり無い顔つきで2人に言い放った。
晴人「昔はこれだけで、全てを押し付け、全てを正当化する教育もありました。でも今は違う、一切手も上げず冷静に何が正しいかを教え込む、そんな姿勢が今の教育です。」
それを聞いた木島が、馬鹿にする失笑をする。
木島「ならなおさら今のお前の行動は間違ってるじゃないか!!子供に手を上げるなんて・・・・・社会人として間違ってるだろ!!首だよ首!!!」
そんな権限もないのに軽々しく懲罰を下す木島。晴人はそれにも動じず、伝え終えていないその話の続きを話し続けた。
晴人「権力だけで全てを正当化する!それでは本人も納得しない!!説明だけで正しさを教え込む!!それでは心の奥底にある本当に伝えたい事も伝わらないんじゃないですか??」
深みあるその台詞。それを聞いてすぐに興味を示したのは、割って入った店長だった。
店長「・・・・・・何が言いたい?その意味を教えてくれないか?」
プールサイドでそんなやり取りをじっと見つめていた大久保も、核心ある表情で晴人に目を向けた。
晴人「自分は、全てを伝える為に翔太を殴りました!!今の選手コースを変えたいから・・・・・もっともっと成長させたいから殴りました!!自分は彼らを信じています!!だからこそ殴れたんです!!この程度の事で問題になるほど、彼らと自分の関係は浅くも薄くも無い・・・・・・自分はそう信じています。」
感情的な表情で全てを言い終えると、また選手達と向き直りしっかりとした教育者としての態度を見せる。
晴人「今日の練習はもう終わりだ。人としての礼儀がわからない君達にここのプールを使う資格はない。もし・・・・本気でインターハイや全国中学校に出たいと思っている奴がいたら、明日ここに来てちゃんとした礼儀と熱い気持ちで大久保さんを納得させてみろ!!それができなければ・・・・・俺も君達を諦めるからな。」
晴人は伝えたい事すべてを話し終えると、静かに背を向けスタッフルームに向かい歩き消えていった。




