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水泳しかできない  作者: 野菜ジュース
大人のクレーム
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トラブルの予感

<トラブルの予感>


季節は春、年度も変わり男子選手4人も高校3年生を迎えた。近づく高校生活最後の夏、目標のインターハイ。その目標に向けた練習は、それまで続けてきた練習より更にハードに厳しく、より激しさを増していた。


翔太「やべぇ・・・・次もたねぇよ・・・・」


スピードの持久力を上げる為、1本1本を全力で泳ぐというハードな練習。100m20本と言う本数の多さと、インターバルの短さに翔太がきつい表情で根を上げる。


道春「バカ!!遅くてもいいから今の力、全部を出すんだよ!!」


その目からは、もう悩みも弱さも感じられない。その目は以前の道春とは違う、まっすぐで積極的な強い目をしていた。


他界した父が求めていた息子の姿。その本当の意味を理解した道春は、もう依然とはまったくの別人。何かに取り付かれたかのように前向きな性格に変わっていた。


複雑な家庭環境、それでも道春はその家庭環境のおかげで人間として大きく成長できていた。


あの一件から大きく変わった道春は、水泳でも自分から追い込む姿勢を完全に見につけた。晴人はそんなやる気ある道春に納得のうなずきを見せると、すぐに翔太に目を向け笑顔で強く煽った。


晴人「翔太!!道春に負けるな!!次、行くぞ!!よーい・・・・ハイ!!!」


晴人は練習を終えると、達成感あるため息をつきながら選手達にいつも通りの一言を漏らす。


晴人「よーし・・・・ダウン行っていいぞ・・・・・」


練習後のケア。ゆっくり身体を休めながら泳ぐそのダウン。次の日に疲れを残さない為にも必要な大切な時間だ。そんなダウンをゆっくり各自で始めていると一人の中年男性が、まだ選手が泳いでいるそのコースなのにそれを無視するように勢いよくプールに入ってきた。


晴人「あっ・・・・すみません。まだ選手のダウンがあるので・・・・・・」


練習が終わったと勘違いしてプールに入ってきたと思った晴人は、すぐにその男性に近づき優しく言い伝えた。それを聞くと、あまりにもオーバーリアクションな水を叩くジェスチャーで怒りを表現する男性。


大久保「いったいいつまで何コースも使っているんだよ!!こっちだってプール使いたいんだから!!早くどけろよ!!」


毎日行われる選手達の練習。6コースの内、2コースを常に夕方の2時間使っている。残りの4コースを使って、いわゆる大人が自由に使えるといった、フリーコースが設けられていた。大人の会員数が3000人、もちろんその全員が毎日プールに通っているわけでもないが、いつも大人のフリーコースには、4コースでは足りないくらいの人数の人でひしめき合っていた。


大人のスポーツクラブと言っても間違っていないこの施設。もともと場違いにまで思えていた競泳の選手コースの存在だ。店長やスタッフの木島、彼らのようにその存在に敵意を抱いているお客の大人がいても不自然ではない。


晴人「すみません。すぐに終わらせますから・・・・」


その対抗的な空気を読んだ晴人は、相手に謝るとあわてて選手達を指示するアピールを始めた。


晴人「おーい!!早くダウン終わらせろ!!」


その声を聞いて渋々といった表情でプールのスタート側に集まる選手達。


沙羅「何ですか?コーチ。」


晴人「ほら大人の人が早くこのコース使いたいって言ってるから・・・・・すぐにダウン終わらせて上がれ!!」


見るとそこにはまだ、そのコースから上がらずに、スタート側で選手が上がるのをイライラと待っている腕組みの男性がいた。もちろん晴人の一言は、その男性に気を使っての選手への一言だ。それを横で聞いていた翔太が馬鹿にするような表情と態度で言い放つ。


翔太「そんな・・・早くダウンしろって、それじゃダウンの意味がないじゃないですか!!こっちは大人と違って、2時間で7千も8千も泳いでいるんですよ?ダウンくらいゆっくりさせて下さいよ!!」


横でイライラしている大人への当て付けのように、その男性をチラ見しながらの翔太の言動。それに気が付いた男性は、キッとした睨む目で翔太を見ると、何も言わずにゴーグルをつけ、泳ぎ始めた。


翔太「チッ・・・なんだよ!あの態度!!」


翔太は、より深いむかつきを表情に出し、泳ぐその男性を睨み返した。


そのやり取りを、プールサイドで見つめる晴人と彩香。


彩香「大久保さんって言うんですよ、あの会員さん。気をつけてくださいね。こないだの道春君のお母さん並のクレーマーですから。」


黙々と自己流の泳ぎで水しぶきを上げるその男性を見ながら、晴人はまた何やらアクシデントの前兆のような空気を感じた。

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