深刻な事態
<深刻な事態>
店長「本社クレームはまずいぞ。」
スタッフルームで椅子に座り話す店長の表情は、いつになく落ち着いていた。
店長「いままで何度となくクレームを言ってきているお母さんだ。自分も含めてだが、過去何人ものスタッフがあの人からのクレームを受け続けている。だが、誰がなんと言おうがあの人は納得をしてくれない。」
店長の前に立つ晴人が、シュンッと縮こまるように肩を落とす。
店長「さっきの捨て台詞の通りの内容で本社クレームが行ってしまえば、間違いなくお前には競泳選手コースを降りてもらう。そして場合によっては・・・・・会社も辞めてもらう事になるだろう。」
声は漏らさずに驚きの態度を表情だけで見せる晴人。ここにきて、やっと事の重大さに気づかされたようだ。
彩香「そんな・・・それはあまりにも酷くないですか??店長だって分かってますよね??道春君をいじめてるなんて・・・・・水元コーチの指導中、そんな場面がありましたか??」
店長は腕組みをすると、思い返すように答えた。
店長「はっきり言って、今回の一件については・・・・向こうが悪いだろうな。水元にそんないじめているような態度はまったく見受けられなかった。」
初めて聞けた店長からの味方ととれる優しい言葉。その言葉を聞いた晴人は、今までにない信頼の笑顔を分かりやすく作った。それを見ると、店長がまたキッとしたきつい表情に作り変える。
店長「ただし!!結局は選手に熱くなりすぎたお前が悪いんだ!!そこまで本気でやるなら最後まで責任を持て!!正直、本社クレームまでいってしまえば立場上、私にも何らかの罰則が科せられてしまうだろうしな!」
結局自分の事しか考えていない店長の言葉。晴人はそれを聞いて、すぐにその笑顔をまた真剣な顔に変えた。
あまりにも理不尽すぎるそのクレーム。その対処法など、到底晴人には見つからなかった。それでも、自分が教える選手の保護者がここまで間違った見解に辿りついてしまうのには、何らかの理由があり、自分にも責任がある。そんな事を感じた晴人は、信じられない言葉を店長に発した。
晴人「わかりました。自分が責任を持って納得をさせます。そしてもし、本社にクレームが行くようなことがあったら・・・・・責任をとって、自分はこの仕事をやめさせて頂きます。」
彩香「ちょっと!!何を言ってるんですか水元コーチ!!やめる必要なんてありませんよ!!」
あまりにも大胆すぎる晴人のその答え。クレームや店長の態度によって苛立った晴人が、勢いで口にしてしまった売り言葉買い言葉なのは言うまでもない。それでも、晴人はその言葉を訂正する事もなく強い態度で店長を見つめ続けた。
机に向かい仕事をする振りをしながらずっと聞き耳を立てていた木島。店長のほうに顔を向けると、にやっとした口先だけを上にあげる表情で合図を送った。それに答えるように店長は木島に向かって微笑みながら軽く顔をうなずかせた。




