4人の気持ち
<4人の気持ち>
松山と出会ってから数週間、晴人はその全てに全力を注ぎ続けた。
選手の指導に毎日2時間、そこには翼と翔太の姿はなかったが、それでも必死で残り2人の選手の為にプールサイドに立ち指導を続けた。そして、深夜・・・・店長との約束通りに夜遅くまで残って仕事を続ける晴人。更には、休みの日・・・・・・・・その休みを使って松山の元へ水泳指導の勉強に向かう。晴人は、自分で言った事をしっかりと守るように、身を削る日々でその毎日を過ごしていた。そんな、まっすぐで一生懸命な姿に打たれたのか、身近にいる彩香は、次第に晴人と一緒に選手指導の手伝いをし、松山の元に付き添ってくれるようになっていた。
そんなある日、男子選手達が通う高等学校。その授業と授業の合間にある休み時間を使って、教室に揃った男子選手4人が水泳について会話をしていた。
拓也「なぁ、ほんとに最近練習変わってきてるから。あのコーチなりに色々勉強してるんだよ!!もう一度一緒にやろうって!!」
翔太「いーの!俺らはもういいから!な!翼!」
そんな軽い返答をする翔太に対して、相変わらず持ち前の感情ない無表情で答える翼。
翼「ああ・・・」
3人から一歩下がった所で4人目の選手である道春が、自信ない声で答えた。
道春「なんか最近は、毎日の練習に変化があるような気がする・・・・・」
翔太「ば~か!!お前がわかるのかよ!!お前はいつものようにお母さんの言いなりになっていればいいんだよ!!このマザコンが!!」
道春は少し太り気味の見た目をした高校2年生。無口で引っ込み思案な性格でいつも目立たないが、それでも黙々とひたむきに努力を続けてきた確かな努力家だ。翔太はそんな道春がいつも母親の事ばかり気にしているのを見て、『マザコン』という印象悪い言葉を使ってバカにしていた。
拓也「いいじゃないかよ、お母さんっ子だって!!道春だって道春なりに頑張って練習しているんだから!!くだらない理由で練習にこなくなるお前らよりも全然立派だよ!!」
拓也がそんな道春をかばう。ずっと黙っていた翼が、『くだらない理由』という言葉を聞いて、反抗するように拓也を睨みつけた。
翼「くだらない理由なんかじゃねーよ!!練習によって俺達の夏が変わるんだ!!いつまでも納得行かない練習なんかやってられねーだろ!!」
あらぶる翼を見て、拓也が何かを思うようにうつむき、机を見つめる。
拓也「俺・・・聞いたんだ、森下コーチに。水元コーチはあの日から毎日、俺達の指導をする為に深夜まで残ってちゃんと他の仕事やってるんだってさ。水泳指導も勉強不足だからって、休みの日に違うプール行って教わってるらしいよ。やっぱり、今までのコーチとは違うんだよ!必死で俺達を変えようとしてくれているんだよ!!今は確かに練習内容だっていいとは言えないのかもしれない・・・・・それでも、あのコーチなら絶対に変わってくれるって!!」
動きを止め、一度目と目を合わせると、そのまま視線を落とし黙りうつむく翼と翔太。心動かされ始めている翼と翔太に気づいた拓也が、そのまま続けて畳み掛けるように訴える。
拓也「お前ら、あれからまったく泳いでいないんだろ??そのままでほんとにいいのかよ!!お前らの水泳はこれで終わりなのかよ!!俺達が目指すインターハイはもう終わりなのかよ!!」
その言葉には、さすがに黙っていられなくなった翔太。
翔太「そりゃ、良くはねーよ・・・・インターハイだっていきてーよ・・・・でも、無理なら仕方ねーし・・・・・」
小声で最後は聞き取れなくなってしまった。そんなやり取りを聞いていた翼は、窓から校庭の遠くを見ると、何か別のことを思い悩ませるような複雑な表情を見せた。




