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【その狂気! 貴様は断じて トキではない!】第1話 帰ってきたアルデンテ先輩

「あ」


「あ、どうぞ。食べなよ」


 サークルの部屋で桜井がマスカラスマンを『ドラゴンボールZ3』でボコボコにしている様を見ながらおやつを食べてた良崎と星野が残った一つのこんにゃくゼリーを譲り合い。


「食べなって」


「いいって言ってるでしょう」


「ヤだよ……ここで譲らないと食い意地張ったみたいになるじゃんか」


「おいなんですか。わたしが食い意地張ってるっていうんですか?」


 寝転がってた良崎が上体を起こし、星野の胸ぐらを服が破れたり皺にならないように器用に掴んで一触即発に。そしてその手を放し、パンパンと両肩と叩くオカダ・カズチカ式クリーンブレイク。もう暇すぎてこれぐらいしかやることがないのだ。桜井とマスカラスマンの『Z3』の連敗はもう約半年。半年間一度も勝てない男のプレイなど面白くはない。


「にらめっこかなんかで決めますか」


「そうするか。にぃらめっこしまっしょあっぷっぷぅ」


 ガチャ、バァ~ン!


「……」


「……」


 やべぇ……。いい年(成人)した女子二人がにらめっこしてるところに人入ってきちゃったよ……。


「変わっちまったな、この町も。どうした。クアトロホルマッジオのゴルゴンゾーラでも俺の顔についてるか? 俺だよ俺。アルデンテだよ! 俺に見覚えアルデンテ!?」


 雨の日にしぼむタンポポの綿毛のように良崎と星野が正気に戻って意気消沈。


「俺だよ俺、サウナとアツ~い風呂は大好き、でも一本芯の通った硬骨漢、アルデンテだよ! みんなどこ行っちまったんだ? 映画館の二階にあるゲーセン前の喫煙所は? 中古ゲーム屋のすっぱいにおいのするトレーディングカードゲーム用のテーブルはどこに行っちまったんだ? モダンなビルやラムちゃんの銅像はこの街の熟成されたチーズのような風情さえもカプレーゼにしちまったのかい?」


 もうにらめっこの顔見られちゃった女子二人に不審者とからむHPは残っていない。ゲームを中断したマスカラスマンと桜井が代わりに玄関へ。


「先輩にその態度はないんじゃないか? 俺だよ俺! アルデンテだよ!」


 決めゼリフと同時に一番イケメンに見えそうな決め角度。アルデンテ先輩は紺のシャツにオールバック、胸に真っ白なバラを飾った伊達男。だが絶妙にイタリア人のパチモン感がある。


「オレオレ詐欺ではないようだな」


「名乗ってますもんね」


 圧をかける男子勢。


「じゃあ挨拶代わりにパスタが伸びるぐらいにグツグツ沸かせるイタリアンジョーク、まずは前菜プロシュートから。ソバとうどんとフェットチーネでナンパをしたんだぁ。みんなビンタをされてしまったけど女の子は手を痛めてしまったよ。何故ならフェットチーネだけは、アルデンテで芯が強いからね」


 フアァ~ン!


「手ごたえアルデンテ!」


 凡リアクション。俺たちがいくら非常識な大学生だとしてもお通夜でももう少し喜怒哀楽を出す。


「別にフェットチーネじゃなくていいと思うのですが……」


 雨宮さんがツッコミ。確かにアルデンテがキモならパスタの種類は関係ない。


「あとビンタした女の子の芯が強いのであってフェットチーネがアルデンテという事前情報は……」


「アモーレ! カワイコチャンともアペニン山脈(さんミャク)アルデンテ! 僕とカプレーゼになるペッシ!」


 女子からのツッコミ待ちだったか。これでもう優等生の雨宮さんも何も言わなくなるだろう。


「これ先輩なんですよね?」


「俺だよ俺、アルデンテだよ!」


「この先輩が成功例のOBとして来てるなら本当にこの大学が心配です」


「まだ思い出せないようだな。じゃあ次はイタリアンジョーク前菜チーズの盛り合わせ」


 居酒屋かよ。カッコイイいい方しろよ「チーズの盛り合わせ」。アペニン山脈(サンミャク)とかいうマニアックフレーズ出すぐらいなんだから。


「ボロネーゼとペペロンチーノとカルボナーラで、一人だけバニラアイスに共演NGがいるんだ。もちろん、カルボナーラさ!」


 ここでフリップを構える。


 カルボナーラ→カルボナラバ→アルボナラバ→アルボスナラバ→アボナラスナラバ→アボラスならば


「アボラスならばバニラと共演NGさ!」


 フリップ2枚目は『ウルトラマン』に登場した怪獣アボラスと怪獣バニラのヘタクソイラスト。『ウルトラマン』第19回『悪魔はふたたび』で同時に出現したアボラスはバニラを殺したのだ。


「矢印が5個もないとたどり着けないのはもう連想じゃないな。な! 桜井!?」


「ええ。ダジャレはジャパニーズジョークであってイタリアンジョークじゃねーよ! ですよねマスカラスマンさん!?」


 あくまでも会話はマスカラスマン⇔桜井。アルデンテ先輩に会話の矢印は向けていない。


「あぁ早く帰ってきてくれ陣内さん」


「なんだ呼んだか。うわ、なんだコイツ」


 出口を塞ぐ形だったアルデンテ先輩の背後からハイジさんの声が。


「……?」


「……誰だお前は」


「……そういうアンタは……?」


「俺は陣内一葉という者だ」


「知らない人だな……」


 アルデンテ先輩が顎に手を当て高速思考モード。


「ここ、もしかして」


「ここは東京都練馬区大泉学園にある大学だ」


「あぁ、スミマセン。フッ、場所間違えましたぁ。メガネの君! 君にはまた会うこともアルデンテだといいんだがね!」


「なんだコイツ! 大学の警備員増やすぞぉ。大丈夫か雨宮。あんまり変なヤツと話すな。俺を基準にしろ。俺より変なやつとは話さない、という基準を決めろ」


 ハイジさんに追い払われ、練馬の夕日に消えるアルデンテ先輩。あくまでも彼の間違いは、行いやキャラ、ネタではなく場所だったのか……。この世界のどこかには彼がドッカンドッカンウケる場所がある、いや、アルデンテなのだろう。

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