【もう出ねぇ! 五・七・五の! 在庫がねぇ!】第6話 学祭バトルレボリューション その6
「水原さん先端恐怖症?」
“危なげ一発芸”水原さんチーム
「いえ、大丈夫ですよ」
「じゃあこっち向いてて」
村上が得物のホウキを握ると、ハイジさんがサンドバックを村上の前に設置。なんで顔の部分、マスカラスマンに似せてるの?
「まずはデモンストレーションで、あのサンドバックの右目」
サンドバッグの右目を指さしてからホウキを握り直し、ライフルのスコープを覗くようにサンドバッグの右目に狙いを定め、槍のようにゆったりと構える。
「『オーバーザレインボー』!」
ッヒュゥーン……ズシャアアァ! 村上の持つホウキが高速で前方に移動、超高速・高威力の刺突を放ち、マスカラスマンサンドバッグの右目に突き刺さり、貫通した先から砂が水しぶきのように噴き出している。
超能力名:『オーバーザレインボー』
所有者:村上千穂
【破壊力 - A/ スピード - A/ 射程距離 - C/ 持続力 - E / 精密動作性 - D / 成長性 - B】
ホウキの穂先からジェット噴射! 超高速の刺突で相手を貫く! ホウキの穂先を外すことにより、威力と引き換えに精密動作性を上げることが可能!
「水原さんの頭の上にリンゴを置いてそれをブチ抜く」
村上がホウキの柄の先にオプションパーツのバヨネットを装着、代わりに穂先を取り外し、ホウキを熊手サイズに変更させる。
「さらにそれだけじゃなくて、観客20人のうち15人に白いボール、5人に赤いボールを渡して、一斉に投げてもらって赤いボールを全部『オーバーザレインボー』で貫いたあとに水原さんの頭の上に乗せたリンゴをブチ抜く」
「だから先端恐怖症なら後ろ向いてってこと?」
「どっちにしろ外したら即死」
「……俺がやる。俺にしてくれ。ついでにリンゴの場所も頭じゃなくて手とか足とかにしてくれ」
「いや、やっぱりこれだけの速度でこの細長い刃なら、脳の急所を避ければ即死は免れるかもしれない。頭を銃で打ち抜かれても生存するケースもある」
脳の急所。初めて聞いたぞ、脳の急所なんて言葉! そんな黒ひげ危機一髪みたいなもんなのか、脳って。
「大丈夫。外さない」
脳の急所なんて言葉を聞くと、リンゴを外さないって意味でも脳の急所を外さないように聞こえてしまう。
「危険すぎる」
「なんだこのブッたるんだザマは! お前がわたしを呼んだんだろうが!」
スリリングなのは最早ハイジさんと村上の喧嘩!
「あ、英雄先生を最終保険に使えばよろしいのではないでしょうか?」
「英雄を?」
「わたしのすぐそばに英雄先生についてもらって、村上さんが外す! と思ったらホウキを逸らして何もない場所か脳の急所以外の場所に当ててもらうんです」
心配するハイジさんとは裏腹に水原さんはジェットコースターの上り坂のようなテンション。
「よし」
英雄が水原さんのそばでスタンバイ。刀を抜いて目をギュワッと見開いて超能力『ブレードランナー』を展開。村上のミスに備える。
「それでは、せーのでボールを投げろ。せーの!」
ドラゴンの面構えで客席を見渡す村上。
「ホワタァー!」
飛来する20個のボールの間を縫って舞うように村上が躍動、そして水原さんの方に向き直り……
「『オーバーザレインボー』!」
ヒュドスッ! 村上がホウキを投げながら『オーバーザレインボー』を発動、初披露となる投擲型『オーバーザレインボー』が水原さんの頭上のリンゴを貫き粉砕、そのまま5つの赤いボールを刃に残したまま壁に突き刺さりビヨンビヨンとしばらく揺れ、ホウキの重みで刃が折れてカランと床に落ちた。
「怖かった……。本当は怖かったんですよ……」
水原さんの足がガクガクと笑い、膝から崩れ落ちる。あの威力なら刺突で脳の急所を避けても、水原さんの首の骨が折れるか、ホウキの重みでザックリ斬られ顔面真っ二つだった。
「手が、手の震えが止まりません」
水原さん危機一髪。腰が引けてしまったようでハイジさんが手を引いて起こし、肩を叩いてから拍手。
「……」
「……」
一方、ホウキを拾った英雄と村上は睨み合い。ゴゴゴゴゴゴ……。
「乗り越えたようだな」
「おかげさまで」
「おかしなことを聞くが、鹿井は役に立ったのか?」
「たりめーだろう。響子ちゃんがいなきゃ終わってたよ。アンタがなんと言おうと、あの人はわたしの大切な師匠だ。あの人はまだわたしの先にいる。でもその先にいるアンタの背中ももう見えてる」
「じゃあ、ま、俺に倒しがいが残ってるうちにかかってこいよ」
「英雄先生」
「なんだ」
「ホウキ、ありがとうございます」
「おう」
英雄が村上に丁寧にホウキを差し出し、村上も丁寧に受け取りお辞儀。二人は遠い師弟関係にあるのだ。円谷英雄の弟子、鹿井響子の弟子が村上千穂であり、つまり村上は英雄の孫弟子、6月のタッグトーナメントでは、英雄&ヴァイキングマンvs鹿井響子&村上千穂の対戦が実現したが、先鋒のヴァイキングマンと戦った村上千穂は、猛攻に次ぐ猛攻でヴァイキングマンを殺しかけてしまい、試合中にイップスとなり『オーバーザレインボー』どころかカンフーすら使えず英雄と戦うことなく棄権、残った鹿井響子は英雄に敗北した。しかし、村上はそれをたったの3か月で克服してきたのだ! そして、鹿井響子の師匠として、鹿井響子の修行は未完成だったと感じていた英雄は、鹿井響子がイップスにかかった弟子、村上をきちんと治せる師匠として仕事が出来たことで少し肩の荷が下りたようだ。
花屋敷チーム→“メガバシャーモ”
雨宮チーム→“はち切れそうなお胸で真剣にゃんこスター”
水原さんチーム→“水原さん危機一髪”
「ゴニョゴニョドゴームバクオング」
「カクカクシキジカマルマイン」
良崎チーム作戦会議。どこのチームもスゴイ、かスリリング、のどちらかはキッチリ満たしてきた。圧倒的技術と演出と火災による不祥事でハラハラした“メガバシャーモ”、男子の上半身と下半身がハラハラした“真剣にゃんこスター”、脳の急所を考慮しなければならないほど危険かつ超能力を使った“水原さん危機一髪”。良崎チームも、超能力者には円谷くん、特殊なスキル持ちにはマスカラスマンのプロレスがあるが、円谷くんの超能力は見えないほど地味か誰か気絶するかの両極端な能力、マスカラスマンの文化系プロレスの真骨頂は、昨年の******レスラー、エアーGとの試合で見せてしまった。******とは、異性との機会に恵まれない憐れな男性が、空気を吹き込み疑似的な女性とする性的なグッズである。それと同じ体質を持つ異色のプロレスラー、エアーGは攻撃を受けると体がしぼむ、どれだけ痛い技をかけられてお悲鳴を上げるどころか呼吸も乱れず全く痛がらない、関節がありえない方向に曲がるなど、他のプロレスラーにはない強みを持つ。しかし、マスカラスマンのベストバウトこそ、昨年のあのvsエアーGだったという識者も多いのだが、昨年のインパクトが大きすぎるだけにそのエアーGを2年連続では使えない。
「なんですかぁ? プロレスラーでしょうが!」
「バカめ」
「あぁん!? そういや思い出しましたよ!? お前がわたしに相槌打つ時に反射的にバカめって言ってるんじゃないかって問題、まだ解決してないですよね? 弁護士を呼びなさい!」
「いい加減にしろリーベルト! プロレスラーにも出来ることとできないことがあると言ってるんだ! プロレスをわかっていないのはお前の方だ!」
「マスカラスマンのバカ野郎! マスカラスマンなんか嫌いだー! プロレスも、プロレスラーもみんな嫌いです! 大人はみんな嘘つきです! 大人はみんなズルくて、汚いんだー! プロレスなんてやっぱりインチキなんだー! 総合に鞍替えです!」
良崎さん、平成の時世に昭和特撮の駄々っ子。
「ンンンンンンだぁとォ!? もぉういっぺん言ってみろこぉの野郎!」
「プロレスなんてインチキだー! あんなのはダンスだー!」
マスカラスマン、やはりこの語彙では悪役転向は難しいか。世界一性格のマジメな男、マスカラスマン。
「小林さん例のものを!」
「いいのかい、マスカラスマンくん」
「ここまで言われて黙って引き下がれるか! 見せてやる。プロレスがどれだけ危険か、プロレスラーがどれだけ身を削ってやっているか見せてやる!」
「そこまで言うのなら仕方がない。はいただいま!」
小林氏が審判団の威嚇戦隊能面ジャーと一緒に持ってきたのはなんとハシゴ! それも脚立ではない。長すぎて折りたためないのだ!
「俺があの、高さ5mのハシゴから、あそこのスペイン語実況席にキングコングニードロップを落とす。プロレス技の威力、プロレスラーのスゴさ、その目ん玉に焼き付けろ!」
小林氏と円谷くんがスペイン語実況席のすぐそばにハシゴを立てかける。日本語がわかっているかわからないが、これから何か起きると感じ取ったのか大慌てで避難。
「ゴメートル……」
「ごめーとる……」
「Go-me-toru……」
平面の距離ではそんなに長くは見えないが、上に伸びて高さになるとそのデカさは改めていよいよ危険。
「キングコングニードロップはよしといたほうがいいんじゃないかな」
「キングコングニードロップは正直止めるべきだ」
良崎が駄々っ子になってしまった今、英雄と村上が解説に。
「どういうことだ英雄、そして千穂!」
「キングコングニードロップは、片膝を落とす技! 膝にももちろん負担はかかるが、一番ヤバいのはどこだと思う? 股関節だ。技の威力で股を割るんだぞ」
「わかりやすい例えをしてやろう。お前らも大好きな深山みちる、アイツの必殺技は超高威力のニードロップ『地獄の断頭台』、そしてそれを進化させた『神威の断頭台』だ。だが、度重なる『地獄の断頭台』の蓄積ダメージはみちるも感じていた。そして『神威の断頭台』を完成させたとき、『神威の断頭台』を使うことは二度とないと決めた。今、みちるは『断頭台』シリーズに代わるフィニッシャーを栄治、エヴァ、森田、菱田と模索している。みちるでもそれほどのダメージを受けるニードロップを、マスカラスマンが5メートルの高さからは正直マズい」
ガシャ、ガシャとハシゴを昇るマスカラスマン。果たして彼が昇るは天国への階段か、それともニードロップでスペイン語実況席を貫通してそのまま地獄へ落ちるか!
「アレ? 昇るペースちょっと落ちた?」
「そうしとけ。一番上まで昇らずごまかしとけ……。マスカラスマン、お前が死んだら栄治の友達が減っちまう!」
なんということだ。なんだかんだで気づけば一番ハラハラさせているではないか、マスカラスマン!
「リーベルト、マスカラスマンを止めろ!」
「……」
しかし良崎は新・必殺ワザTOTSUGI! ガシャン。マスカラスマンがハシゴを昇り切り、スペイン語実況席を見下ろす。
「……マスカラスマン、いや、椿!」
「!」
「ごめんなさいマスカラスマン! 敗色濃厚だから、炊きつけてしまいました! 5メートルからのキングコングニードロップはやはり、トッププロでないと出来ません! わたしがバカでした! もう、わたしのことをバカって言ってもいいから……あなたを死なせたくはありません! 死んだらわたしのせいに……わたしのために、飛ばないで! 愛しているの! プロレスを!」
「……知っていたさ」
「……マスカラスマン?」
「お前がプロレスを舐める訳もないし、プロレスが嫌いになる訳もない。知っていたさ。だがプロレスを疑ってしまう子どもたちのためにも、そして、お前のためにも……。ここで飛べば、お前は勝てる! うぉおおおおお!!!! さっき椿、と呼んだなリィーベルトォー! 中野君、そこは編集でカットだ! そして集まってくれた20人の観客たちよ! 俺が烏丸椿だということは内緒だァアア!」
マスカラスマン、飛翔! ガシャァアン! スペイン語実況席、全壊!
「マスカラスマーン!」
「マスカラスマンくーん!」
良崎、小林氏を筆頭に『演劇サークル』全員がマスカラスマンの元に集まる。
「OMG,OMG!」
「あぁーと医療班ー!!」
「マスクを脱がさないと」
まさか、ヒップホップサークルから落研に転身した有照亭小町の持ちネタに『学祭で死んだプロレスラー』が追加されてしまうのかー!? ズバァン! スペイン語実況席の瓦礫から天を指さすイヤァオサイン!
「俺は人間ですかー!」
瓦礫の中から五体満足なマスカラスマンが復活。ところどころにケガはあるが……。
「俺は、俺は人間ですかぁー!? 人間だよ、人間なんだよ。人間だから、プロレスラーだ。人間でも、プロレスラーならこんなことが出来る。マネできるか……。マネできるものか! つまり、一番スゲェのは、プロレスなんだよ! ゥ、イヤァオ!」
イヤァオの大合唱!
――その光景を観ていた赤ネクタイ氏(仮名)はこう語る。
「そう あの事件きっかけです」
「わたしも個人的には賛成です」
「例え学生の文化系であっても、プロレスラーにもライセンスの制度を設けるべきです」
「でも、審判のワタシがこう言うのもなんですけど……チョット憧れちゃいますね、プロレスラーって。男として……」
「俺は今日、生きたぞ! 死ぬわけにはいかないのだ。ここで俺が死んだら、没収試合になる。“メガバシャーモ”も“真剣にゃんこスター”も“水原さん危機一髪”も、没収試合でお蔵入りなんかにさせてたまるか! みんな命を賭けたんだ! だが、勝つのは、俺たち! この学祭の主役は、俺たちだ!」
持ってった! 途中の演技はクソだったがマジで最後に全部持ってった!
「それでは、第4ラウンドの結果発表を行います」
1位 花屋敷チーム
2位 リーベルトチーム
3位 雨宮チーム
4位 水原さんチーム
「!?」
「!?」
「!?」
\ ‗\ ‗| |‗ / /
―「!?」\「!?」|「!?」―
― 「!?」|「!?」/「!?」―
/ / = | = |= \ \
「え~と」
中野君も困惑。負けた良崎チーム、そして勝ってしまった花屋敷チームも困惑!
「得票の内訳は、花屋敷チーム8票、リーベルトチーム7票、雨宮チーム3票、水原さんチーム2票……」
感動とパフォーマンスは別カウント、ということか。





