【冬景色 寒くなければ いい景色】第1話 声優同好会の逆襲
「オーホッホッホ! リベンジの時間よ『園芸サークル!』」
「グワッハッハッハ! 今度こそ我ら声優同好会の強さを見せつけてくれるわ! 覚悟せい!」
凡リアクション。新年早々うざいよう。笑い声からわざわざ名前間違えてくるところまで、格下のくせにいい度胸して、ローラやつばくろうやふなっしーみたいに愛されるフリーダムキャラ狙ってるところがさらにうざいよう。
「おい、話は聞いてやるから寒いからそこ閉めろ」
ハイジさんが浦沢直樹のマンガに出てくるチャイニーズマフィアの卑怯な三番手みたいないやぁ~な目つきで新年早々の闖入者を威圧する。今回のカチコミは二人。あっまぁ~いねっとり甘い胃もたれするようなクソアニメ声女と剛轟豪な感じを気取った迫力ボイス。声優に憧れてる気持ちはわかるが憧れは理解から最も遠いと誰かが言ってたぞ。憧れるだけじゃなく目指すなら現実を見て受け入れろ。
「うぬ!」
せめてもの抵抗か扉をバーン! と閉める声優男。会室にいたメンツを見てカチコミする日とカチコミに来る人数を間違えたと内心後悔しているだろう。
大学の暴君・陣内一葉!
暴君の右腕切れ者メガネ悪代官・小林桜!
大学トップメタパーフェクトホモサピエンス・鬼畜お姉さん!
ツンデレは教育・権藤教授!
学園アイドル2連覇の大学の若きスズメバチ・良崎!
やられたらかたき討ちに立候補する人は多いはず! 意外な人気・マスカラスマン!
もし大学ヤクザという組織が今後結成されるなら確実に幹部入りを果たす面々である。その全員が浦沢直樹のマンガに出てくるチャイニーズマフィアのように声優同好会からの刺客を睨み付けているのだ。
「誰だお前たちは」
権藤教授が外よりも冷たい声を出す。教育者としてそこまでわかるほど生徒を差別するかというような冷たさである。
「声優同好会の」
「そうかわかった」
シャットアウトだァー!
「何しに来たの?」
笑顔がデフォルトの鬼畜お姉さんが無表情で!
「リベンジに来たのよ! わたした」
「ですって陣内くん」
またもやシャットアウトだァー! この半分しゃべらせておいて半分無視、半視とでも呼ぼうかこの扱い! 後々使えるテクニックを先輩と教授から図らずも教わってしまった。これが強者の姿か。そしてそれをされたらそこで言葉を終えてしまう、あれが弱者か。
「で、何でリベンジだ?」
ハイジさん。
「野球に決まっているだろう!」
「この寒いのにぃ?」
「心頭滅却すれば火もまた涼し!」
鬼畜お姉さんがハァーとため息をついた。
「ちょっと君暑苦しいわね。心頭滅却すれば火もまた涼しなら外でも寒くないでしょう? 電話番号教えるからそれでいい? 部屋の貴重な酸素がもったいないし人口密度が高まると異臭がするの」
鬼畜お姉さんすげぇ。全力リミッター解除の許可は出ていないはずだからこの罵倒でも全力ではないとは。
「野球で勝負だ!」
なんかもう女の方喋んなくなっちゃってるな。
ということで寒いのに野球対決をすることになってしまった。
「えーと、俺、水原、リーベルト、こばやっちゃん、マスカラス、鬼畜お姉さん、権藤教授、心中ってことでこっちは8人だ。しょうがねぇからまた分身陣内を使う」
外のクソ寒い野球場のベンチで作戦会議。完全に巻き込まれた鬼畜お姉さんと権藤教授はかなりご機嫌斜めである。
「アイツら一回殺したくらいじゃ死ななかったようだな。むしろおいしくさせちまったから、味を占めたんだろう。今度こそ面白いこと一個もなく終わろうぜ」
「ハイ」
コートにマフラー、ムートンブーツと完全に野球をする格好ではない鬼畜お姉さんが手を挙げた。あのムートンブーツ……まさか子羊のラムちゃんの変わり果てた姿か!?
「わたしはライトにいるから、陣内くんと分身陣内くんのバッテリーで全部三振で終わらせてちょうだい。守備とか面倒だから。全部三振なら守備機会があるのはバッテリーだけでしょ? 点も陣内くん取っておいてね」
あくまでも面倒だからなんだな。出来ないとは言わない。それが鬼畜スタイル。
「うむ、正直楽な外野をやりたい気持ちは全員あるな」
マスカラスマンと権藤教授が腕組みをする。
「ライトは明星、バッテリーは陣内と分身陣内で決まったとして、残りはどうする?」
「『演劇サークル』名物サイコロですね。平等に決めましょう。ちゃんと持ってますよ」
水原さんがモッズコートのポケットからサイコロキャラメルを取り出した。水原さんの体温で温ってるのだろうか。自分でもキモいのわかってるけど水原さんの体温で温って柔らかくなってるキャラメル食べたい。あと、平等に決めるって言いながら鬼畜お姉さんライトは不動なんだな。
そういうことでオーダーが決まった。
1投 陣内
2捕 分身陣内
3一 マスカラスマン
4左 権藤教授
5三 曾根崎
6遊 水原
7二 良崎
8中 小林
9右 明星
相手は
1二 声優同好会A
2遊 声優同好会B
3中 声優同好会C
4三 声優同好会D
5一 声優同好会E
6左 声優同好会F
7捕 声優同好会G
8右 声優同好会H
9投 声優同好会I
声優同好会の先攻でプレイボール。一陣の風が吹いた。寒い。ちょっとやばい寒さだ。曇って来たので雪も怖い。
「ほいっとじゃあまずはストレートから行きますかっと」
ハイジさんがゆったりと足を上げて投球モーション。力任せにぶん投げるタイプかと思いきやゆったりとした変則フォームで相手のタイミングをずらす技巧派のようだ。野球経験ないとか言ってたくせに。まだ投げてないので憧れてるフォームをマネしてるだけかもしれないけど。
「そぉい!」
直球は遅いが意外にもいいキレとコース! しかし声優同好会もリベンジを申し込んできただけのことはある! バットの真芯で捉えて強烈なピッチャー返し! ハイジさんは全反射神経を駆使させてグラブで止めようとするが……
「あっがぁいってっぇあああ!」
火の出るようなピッチャー返しが当たったのはグラブではなく手首の骨の出っ張ってるところ! めっちゃ痛いところだ! ハイジさんは苦痛の表情を浮かべ左手首を抑えているが、ボールはまだ生きている! ハイジさんの手首を直撃したボールは宙に跳ね上がったのだ!
「こなくそー」
痛みをこらえてそれをキャッチ! ピッチャーフライ(ライナー?)で1アウト。
打った声優同好会の誰かもまさかの綺麗すぎるピッチャー返しでハイジさんに謝罪をしている。
「一葉さん大丈夫ですか?」
「おいおいおい折れちゃったんじゃないですか!? ウチのサークルの会長にケガさせちゃったんですか!?」
「今ここで言うことじゃないかもしれないけど会長はわたしよ」
二遊間の女子がマウンドでまだ痛がっているハイジさんに駆け寄る。外野は無表情だが、相手ベンチは良崎の恫喝に若干の動揺が見られる。
「……あちらさんからの誠意が見られませんねぇ。やめますか。やめましょう。ケガが心配です」
「大丈夫だお前ら。まだやれる。相手も狙ってやったわけじゃないし狙っててもやれる技術がないはずだ。俺はまだやれる。ほんの少しの誠意があればやれる」
ハイジさんが声を絞り出し、水原さんにグラブの中のボールを渡す。声優同好会ベンチは控え選手まで全員が出てきて謝罪。一応の誠意は見られたということで試合は続行。しかし続く2番バッター。信じられないことが起こる。
「うぉらいってぇあああ!!!」
またもハイジさんの初球がピッチャー返しとなりハイジさんを襲ったのだ! 今度は投げ終わった直後の右手に命中! またもや上に跳ねたボールをハイジさんは痛がりながらなんとか捕球して2アウト。
誠意の要求と誠意が成立し試合は続行。しかし悲劇はまだ終わらない!
「あごたぁぁぁあ!!!」
なんとまたもや初球がピッチャー返し! 靴の裏で止めるか軌道をずらそうかと足を差し出したハイジさんの弁慶の泣き所にピッチャー返しが命中! 宙に浮かび上がったボールをハイジさんは肘の靭帯も惜しまず桑田ダイビングでキャッチ。3アウトチェンジ。3アウト全てが初球ピッチャー返しでハイジさんを直撃した後フライになりキャッチという凄まじいイニングだった。
「じゃあ気を取り直して行ってくらぁ」
先頭打者のハイジさんがバットを持って打席へ。その初球!
「死ね!」
白球は冬空の曇天の彼方へ……
ハイジさんの性格上、ピッチャー返しを狙うものだとばかり思っていたが、自分が食らったあまりにも痛かった3連被弾、いくら相手が声優同好会だとは言え気の毒に思ったのだろう。先頭打者初球場外ホームランならぬ都外ホームラン、いや、首都圏外ホームランで許してやったようである。続く分身陣内も都外ホームランで早く0-2。マスカラスマンはいつも通り真剣に熱心に取り組んだが野球経験がないので熱い空振り三振。権藤教授はやる気を見せない見逃し三振。俺は別に。
チェンジで2回オモテ。
「フゥー」
攻撃の合間に痛みも引き、試合は続行できると判断したハイジさんは2回オモテのマウンドへ、。
「よし、行くか。そぉい! ……ったぁー!」
ピッチャー返し! 今度は顔面だ! しかしハイジさんは根性、舞い上がった打球をキャッチ。4者連続初球ピッチャー返しピッチャーフライ! ハイジさんがやらせているのか? それとも偶然か? 我々がその真相を知ることはなかったが結局、ハイジさんは27つのアウト全てを初球ピッチャー返し直撃で27被弾するもアウトに仕留め、27球で本当にバッテリーだけで完全試合を成し遂げた。
声|00000000|0
演|2020200X|6
本塁打:陣内、分身陣内、陣内、分身陣内、陣内、分身陣内、陣内、分身陣内
【自己批判】
全部ピッチャー返しというのも夢で見たネタ。最近のネタは基本的に夢で見たもの。